02話 決断
冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに入れて飲む。
直接、口をつけて飲んでいた頃にくらべて、食器も増えた。
牛乳を戻して振り返ると、彼女がソファに座っていた。
今日は少し大人しめの、ゴスロリファッション。
それでも町を歩けば、目を引くだろう。
ただし。
彼女を見ることが出来れば、の話だけど。
「可愛い後輩ね」
「え、そっかな? 何処にでもいる子でしょう」
「ふーん」
顔を背ける彼女の横に座る。
もちろん、大須賀と違ってパーソナルスペースは詰めない。
それが、今の彼女と僕にとって必要な距離だったからだ。
奇数の名前を持つ子。
僕と同じ奇数で、円環を一緒に終わらせた人でもある。
あれから一年。
僕は、彼女をこの世界に閉じ込めてしまった。
あの日の決断は、間違えだったのか、それとも正解か。
今更ながら、考える。
2025年。
大晦日の日、僕は爪を切った。
それが、彼女をこの世界に縛り付けた日でもあった。
スマホに時間と日付を表示させ、その時を待っていた。
テレビがあれば、カウントダウンが始まっている頃だろう。
四角い箱。
がらんどうの部屋に、僕はひとり座っていた。
ついさっき、彼女に連絡をした。
彼女は一瞬絶句していたが、「すぐに行く」と言って切れた。
間に合わないだろう。
「もうすぐだな」
時計の針は、あと1分で2026年を迎える。
左手に爪切りを握り、右手の親指に沿わしていた。
冷たい金属の爪切り。
テコには、薄っすらと名前が見える。
果たしてこの決断は正解なのか。
僕にはあの日、涙を流し「終わらせて」と言った彼女の顔が離れなかった。
眉毛の上で揃えた前髪。
赤縁のメガネ。
二重の瞳。
どれも、鮮明に覚えている。
きっと終わらせるのは簡単なのだろう。
彼女から最後に貰ったはじまりの爪切りを使えば、僕はもとに戻る。
でも、違う。
誰も救われないなら、僕が救ってあげたい。
いつからそう思うようになったのか。
自分でも覚えていない。
だから僕は、今を変える。
無かったことにするんじゃなくて、世界の方を変えるんだ。
59分58秒。
僕は一息ついて、爪を切った。
その時、爪切り暖簾が揺れる音がした。
息を切らして部屋に現れた彼女を、僕は笑って迎えた。
「どうして……」
彼女の言葉を上書きするように、窓の外から花火の音がした。
2026年のはじまり。
「新年、あけましたおめでとう」
僕が下した決断は、59秒。
これが僕の出した、答えだった。




