夕暮れ、黄昏
夕暮れの道を、いつものように並んで歩いていた。
一日の終わりを告げる光に照らされながら、二人の影が長く伸びていく。わたしは、この帰り道が好きだった。君と肩を並べて歩く、それだけで心が満たされる時間だった。
けれど、それも今日で終わる。
明日、わたしは遠くへ引っ越してしまうから。
「ねぇ、言いたいことがあるんだけど」
不意に君が口を開いた。その声に、胸の奥が期待で震える。
「なに…?」
夕焼けの色に染まった君の横顔を見つめながら、返事を待つ。
けれど君は、少し言葉をためらったあとで――。
「いつか、そっちに行くから。そのときは……いや、なんでもない」
弱気にそう告げる姿に、思わず苦笑いが漏れる。
期待した気持ちを返してほしい、とほんの少し思った。けれど、そんな君だからこそ、わたしは惹かれているのだと気づく。
「うん、いつかまで待ってる」
そう伝えると、君は驚いたように目を見開き、それから照れくさそうに笑った。
きれいな夕暮れ、黄昏時。
明日からはもう訪れない、何気ない日常の中の特別な時間。
再会できるその日まで、わたしはこの瞬間を忘れない。
読んでいただき、ありがとうございます。
別れの中にも、再開する希望や、やさしい雰囲気が伝わればいいなと思っています。




