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第一章 深海の目覚め

舞台は序章の緊張を受け、通常動力潜水艦「はやなみ」「しらなみ」の両艦が警戒態勢を強め、国籍不明原潜二隻との駆け引きが始まります。

ここにお載せしております挿絵は、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。


「はやなみ」艦内は、緊張に覆われていた。

 赤色灯に照らされた戦闘配置の室内で、息遣いまでがはっきり聞こえるほどの静寂。

 ソナーのスクリーンには、揺らぐ波形と影が重なり合い、今まさに守るべきものを守るような気配を放っていた。


 艦長・朝霧真奈は、指揮席に座ったまま視線を動かさない。唇をわずかに噛みしめながら、耳を澄ませていた。

 原潜の低周波音。それは確かに二つ。しかも互いに連携しているかのような動き。水温成層を利用し、音を遮蔽しながら巧みに接近してくる。


 「距離二万五千ヤード。進行方向、伊良湖水道内に向かってます」

 ソナー長・水城紗良が声を上げた。手の指先がかすかに震えている。

 「真っ直ぐ湾内に……。これは、明らかに通過航行の態度じゃありません」


 「由衣」

 真奈は副長・白石由衣に視線を送った。

 「はい。現時点での最適行動、提示します」

 由衣は即座に作戦盤に投影される三次元の水中マップを指し示した。

 「彼らは深度250。こちらは150。成層を挟んで、向こうが優位に位置しています。……有効な探知、難しいですね」

 「つまり、相手はこちらを“見下ろしている”……か」

 真奈の声は低かった。


挿絵(By みてみん)

 この水域での戦術は限られている。水深は決して深くない。通常動力艦の強みである静粛性を最大限に活かし、相手の索敵網を掻い潜るしかない。

 だが今回は、二隻同時。しかも原潜。不明艦は、あからさまに日本国の反応を試している。


 「葵艦長に回線」

 真奈の指示で通信が開かれる。

 『こちらしらなみ。真奈、聞こえる?』

 「ええ。状況、変わりなし?」

 『こっちも二隻を捕捉済み。……いやな動きね。わざと私たちの間に割り込もうとしてる』

 「……孤立させるつもり」

 真奈は即座に読んだ。二隻の原潜が、二隻の通常動力艦を分断し、各個撃破する。古典的だが効果的な戦術。

 葵もまた、短く息を呑む。『こっちは速度を落として成層下に潜るわ。挟まれたらおしまいだから』

 「了解。こちらは逆に上昇して、成層を突き抜ける」

 『大胆ね。でも真奈らしい』


 二人の艦長は性格こそ対照的だが、互いを深く信頼していた。真奈は冷徹で戦術的、葵は柔軟で大胆。

 この双子星のような二隻が揃ってこそ、日本の水中防衛は成り立つのだと、誰もが知っていた。


 「紗良、相手のノイズを拾えるかしら」

 「……やってみます」

 紗良はヘッドセットを深く押さえ、目を閉じた。波形の揺れ、その微かな乱れに神経を注ぎ込む。

 数秒後、彼女の声が震えた。

 「艦長……。音紋、照合しました。登録なし。完全に“未知”です」

 艦内にざわめきが走る。未知。それはつまり、既知のどの国にも属さない音紋。偽装か、あるいは本当に新たな勢力か。


 「……ますます厄介ね」

 真奈は片手を組んで顎に添えた。

 「由衣、魚雷管に電源。だが安全装置は解除しないで。威嚇にはまだ早いから」

 「了解」

 副長の声が冷ややかに響く。


 外界の海は静謐そのものだ。だが艦内は戦の空気に満ち、全員が己の鼓動を意識していた。

 クルーは二十数名。全員女性。誰もが自分の弱さを知りつつも、その弱さを超える誇りを胸に秘めている。

 「怖くないと言えば嘘。でも、ここで退くわけにはいかない」

 ソナー席で紗良が小さく呟く。その横顔を見て、真奈は静かに答えた。

 「怖さを知っている者だけが、本物の戦士になれる」


  次の瞬間。

 ソナーが大きく波打った。

 「艦長! 相手、こちらに向きを変えました! ……急速接近!」

 「速度二十ノット以上。成層突破してきます!」


 由衣が即座に叫ぶ。

 「これは……完全に“仕掛け”ですね」

 「ええ。交戦意図あり、と判断していい」

 真奈は立ち上がった。その背筋は張りつめた弓のように凛と伸びている。


 「全乗員に告ぐ。これより実戦行動に入る」

 艦内に響いた艦長の声は、恐怖を押し潰すような力を持っていた。

 「我々は日本の海を守る盾。誇りを胸に、静かに戦いを始める」


 海は深く暗い。外界の誰一人、この戦いを知らない。

 だが確かに、ここから歴史は動き始めていた。


 真奈は最後に低く呟いた。

 「……深海が、目を覚ましたかな」

[次回へ]

お読みくださりありがとうございました。

いかがでしたでしょうか?

次回は、国籍不明原潜の動きがさらに挑発的になり、「はやなみ」「しらなみ」の両艦が互いに連携しつつ、暗流のように交錯する緊張の駆け引きがまだ続きます。

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