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読んでいただきありがとうございます。いつも誤字報告ありがとうございます。

長い長い悪夢を見ていた。わあっと叫んで飛び起きた。変な汗が寝間着にへばりついて気持ちが悪い。とりあえずベッドサイドの水を飲み干した。

昨日街へ行った時に魔石の置いてある店に入った。色々な形や色の物があったが、なぜか目が離せなくなって未来が見えるという怪しげな黒い石を買った。



唯の遊び心だった。楕円形でつるつるとした触り心地の良い石はベッドの傍の飾りに良いんじゃないかと思っただけだ。


魔石は本物だったらしく僕が浮気をして愛するアンジェリカを傷つけ家まで潰すという悪夢を見た。

夢の中の僕は隣国から来たセリーヌという女に良いように弄ばれていた。

もちろん身体の関係は無かったが。


全て僕の優柔不断さがもたらした出来事だった。心の隙に付け込まれ優しいアンジェリカを傷つけて泣かせていた。

当然僕は捨てられ家も潰れる羽目になり、両親には申し訳のないことをしてしまっていた。


生々しいぞっとするような悪夢だった。あれは本当に夢の出来事だったのだろうか?一度起きた出来事だったのではないのか。僕は悪夢のような馬鹿なことをしないように、記憶をしっかりと刻み付けた。



シャワーを浴びてすっきりした僕は頬を叩いて気合を入れた。



爺がいつものように起こしに来てくれた。


「坊ちゃま、朝食の時間でございます。早くなさいませんとアンジェリカ様を迎えに行かれるのが遅くなりますよ」

「爺、今日は何日だっけ」

「まだ目が覚められていないのですか。太陰暦五百三年の花月の十日ではございませんか。入学式でございますよ。しっかりなさいませ」



あれはやはり悪夢だった。良かった。ああならないように生きて行こう。

あの石本物だったんだ。家宝にしようとベッドサイドを見ると石は消えていた。



一回きりの奇跡の贈り物だったのか。あの店に今度行ったらお礼を言おう。





アンジェリカを迎えに行くと新しい制服がよく似合っていた。

「おはよう、アンジェリカ。制服とても可愛い。似合ってる」

「おはよう、クロードもかっこいい」

「愛してるよ」

「えっ、朝から何を言ってるの」

「言える内に言っとかないとと思ってね。さあ行こうか。学院でも必ず君を守るよ」

「なんか甘さが増しているような気がするんだけど」

「ずっと甘かったじゃないか、今更だよ」


馬車の中でもクロードは隣に座り手を繋いた。

「アンジェリカしか目に入れないし映さないから覚悟してね。ねえまた刺繍のハンカチちょうだい。お守りにしたいんだ」

「良いけど、なんだか甘えん坊さんになった様な気がするんだけど」

「ふふ、帰りにネックレスをプレゼントしたいな。墨の色は黒だから地味だけど金のチェーンにオニキスなんてどうかな」

「クロードがくれるものなら何でも嬉しいわ。入学記念かしら、それならお揃いが良いわ」

「色違いとか良いね。式が終わったら見に行こうね」


こんなに可愛いのに夢の中の僕は本当に馬鹿だったよな。


「髪も艶々だね、綺麗だ」

ひと掬いしてキスをした。あっという間にアンジェリカが真っ赤になった。

可愛いしかない。頬を指でつんつんと突くと、制服をつんつんしてきた。

何この可愛い生き物、ああ、僕の婚約者だ。思わず顔が緩んだ。



入学式の後のクラス分けを見ると僕たちは同じAだった。ずっと一緒にいられる。

悪夢のセリーヌはDクラスだったのになぜか近づいて来ていた。気を付けよう。


家の商会の宝石コーナーで色違いのネックレスをプレゼントし合った。僕は金の上品なチェーンにした。社交界にデビューする頃にはブラックダイヤモンドを贈るつもりだ。可愛いから黒いドレスも似合うよね。


あの時注意してくれていたのはヨハン子爵令息か、友達になってもらおうかな。現実の人間性を見極めてからだけど。

アンジェリカの親友はエリシア侯爵令嬢だったか、良い人だった。仲がいいのかな。

もっとアンジェリカのことが知りたいし大切にしたいし甘やかしたい。



しっかり勉強して商会を大きくして親孝行をしよう。しかし父上の身辺は目を光らせておかないといけないな。息子の噂を確かめもせずほんの火遊びだと認識していたし、父上がされていたら困る。何が命取りになるか分からない貴族社会で潰れるのはあっという間だった。




学院が後一半年というところでやはりセリーヌが留学して来た。男子生徒が騒いでいるのも一緒だ。あまりの気持ちの悪さに夢のとおりにならないようにしようと気を引き締めた。

夢と違うのはクロードは護衛をアンジェリカは護衛のできる侍女を連れて来ている。


何処かへ移動する時は必ず手を繋いでいた。学院のバカップルとして知らない者はいない。ランチも食べさせ合った。四人一組が基本になった。

剣の授業の時はヨハンと護衛が一緒だ。アンジェリカに何かあれば連絡が来るようにしてある。侍女が強いから心配はないと思うけど、エリシア様にもお願いした。生温い目で見られたがどうでも良い。アンジェリカが一番だ。


クロードとアンジェリカが歩いている時にやはり転びそうになっていたが、アンジェリカの侍女が「大丈夫ですか、石もないのに転ぶなんて前を見て歩いた方が良いですよ。目が悪いのですか?それならそこの先が医務室です」

と言ったらそそくさと去って行った。




あれからイケメンで高位貴族の男子生徒の前で転ぼうとしたり、ハンカチを落としたりしていたが毒牙にかかった者はいなかった。

クロードは自分の甘さ加減を嫌という程反省し、これからの戒めとした。




卒業式も無事終わり結婚式の日が来た。

愛しい女神の様なアンジェリカがもうすぐ僕の花嫁になる。

あの日悪夢を見せてくれた石の店は何度探しても見つからなかった。

情けない僕に見せてくださった神様からの忠告だったのだろう。アンジェリカを泣かすなという。

肝に銘じてアンジェリカを幸せにするつもりだ。一生君だけを愛すると誓うよ。


神様の前で真っ白なウエディングドレスのアンジェリカが幸せそうに笑った。

僕は誓いと共に唇をアンジェリカの唇にそっと重ねた。幸せの味がした。

クロードそのままざまあが良かったのにと思われる方はかなりいらっしゃるとは思いますが、

アンジェリカちゃんを幸せにしたいなと思ったらこういう結末になりました。

読んでくださりありがとうございました。またお会いできますように。


中程に書いた(甘えたさん)は西日本に多い方言らしいので、ご指摘の通り甘えん坊さん(標準語)に変更しました。住んでいると気が付かなかったです。ありがとうございました。

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