後編
山道が復旧され、通行の許可が出たその日にユディトは辺境伯領をあとにした。
(ノイマン辺境伯が数日前から不在でよかった。正体が見抜かれているわけではないと思っていたけれど、疑われてる気はしていたから…。毎日お店に来ていたし、こちらをそっと窺っていたり、急に目を逸らしたり…)
辺境伯領に来るまで会ったことはなく、初対面でもろくに顔を見ようとしなかった。それでもどこかでユディトの姿を見たことがあったかもしれない。
(だけど、私を探し回っていたわけではなさそうね。たまたま復旧工事のために町に来て、偶然見かけて様子を探っていたような気がするわ。どうせ殿下への義務感から、行方不明ではまずいと思っただけでしょうし…もしかして城を出たことも知らなかった?…まさか、そんなわけはないわよね)
馬車は荷を積んで山道を走るためのもので、とにかく頑丈に造られている。だが乗り心地はお世辞にも良いとは言えなかった。紅葉の残る山道は美しいが揺れる景色を見ると酔いそうになり、口を開けば舌を噛みそうになるため、ユディトはただじっと追憶に浸っていた。
両親はシャルロッテを殊更可愛がったとはいえ、ユディトを軽んじていたわけではなかった。後継としてきちんと扱い、愛情も持ってくれていたと思う。
シャルロッテも甘えたがりで困ったところはあったが、ユディトを慕ってくれているのはわかったから憎めなかった。そのせいで学院の生徒やクレメンスに誤解されることになってしまったが、その時感じたのはシャルロッテへの恨みではなく周囲への幻滅だった。
きちんと確かめることもせず、愛らしい妹が泣いているから可愛げのない姉が悪い、と決めつける短慮。両親は自分たちの姉妹への扱いが違うことを自覚していたから、ユディトを責めはしなかったがシャルロッテを気遣うようになった。はっきり聞かれれば否定もできたのに、その機会さえもらえなかったのだ。
そのうえ突然の辺境伯からの求婚を承諾した。侯爵家を継ぐため妹のようにのびのび過ごすことを許されず努力してきたというのに、あっさりその立場すら奪われてしまったのだ。
(私の努力も忍耐も、結局はまるで意味のないものだったのね…)
父である侯爵は『ユディトの優秀さを見ていてくれた方がいたのだ。感謝を忘れず、今後は帰る家はないと思って辺境伯と領地に尽くすように』と言った。
…以前シャルロッテの婚約者探しについて話題にのぼった時は『結婚しても、辛かったらいつでも戻ってくればいい』と笑っていたのに。
見知らぬ土地にたったひとりで向かう娘への激励だったことも、シャルロッテへの言葉は軽い話題ゆえの冗談半分だったことも理解している。だがユディトにはそれが、家に残してこの先もそばで暮らしたいのは長女ではなく、次女の方であると明確に示しているように感じられた。
思うことは多々あれど、望んでもらえたのなら気持ちを切り替えて辺境伯領に向かおうと決心した。優秀さを買われたのであれば少なくとも領地を守るパートナーとして扱ってもらえるだろう。お互い恋愛感情を持てるかはわからないが、信頼関係は結べるだろう…
(そう思っていたのに、まさか殿下の采配だったなんて)
ディルクには迷惑以外の何物でもなかったはずだ。冷たい対応にも納得できた。
…だが与えられた環境は、受け入れるにはあまりにも過酷だった。
夜会に出る機会はあっても当分先だろうと、普段使いのドレスのみを持参してきた。とはいえどれも高級品であり、ユディトのお気に入りや婚約後に新しく仕立てさせたものばかりだったのだ。それに自ら鋏を入れ、装飾を剥ぎ取った時の屈辱と悲しみ。
擦り切れた掛け布は汚れていて触れる気になれず、冬ものの外套を毛布の代わりにして寝た。旅程で使用するため手回り品に入れていた石鹸を節約して使い、それがなくなりかけた頃にユディトは悟った。この生活を続けていたら、命が危ういと。
待遇の改善を求めてメイドにディルクへの取次ぎを頼んでも、断られたと言うばかりだった。おそらく伝えてもいなかったのだろう。ディルクはユディトを疎んじてはいたが、ここまでの仕打ちを許すほど陰湿な性格だとは思えなかった。
直接的な暴力をふるわれないことだけは幸いだったが、これから冬になるというのに暖炉もまともな寝具もない小屋では春まで持ちこたえられない。これまでは洗濯はもちろん、髪や身体も井戸の水で清めてきたが、冬にそんなことをしたら風邪をひくだけで済めばいいほうだ。粗食で体力も奪われている身では高熱や肺炎ですぐに力尽きてしまう。
まずは味方のいない城を出よう。町に下りて侯爵家に手紙を送ることはできるだろうか。…とにかく、考えるのはここを抜け出してからだ。ユディトは荷物に入れてきた宝飾品やドレスから外したレースなどをまとめ、メイドや見張りの目を盗んで逃走経路を探った。
(命を守るために仕方なく逃げることにしたけど、その前に別の意味で身の危険にさらされるとは思わなかったわ)
…あの晩のことを思い出すと、今でも体が震えた。
聞くに堪えない言葉でユディトを貶め、げらげら笑いながら小屋に押し入ろうとしてきた下男たち。咄嗟にまとめておいた荷物を持ち出せたこと、窓から抜け出せたこと、誰にも見咎められず城から逃げ出せたこと。全てがこれまでの不運に対する埋め合わせのような僥倖だった。
(あの時から、私は変わった)
後継から外され辺境伯領に送られ、ひどい境遇に落とされてもどうしようもないと諦めていた。
誰からも「お前は要らない」と言われ続けてきたような日々だった。
…ならばユディトを必要としない人々の前から、消えても構わないのではないか。
夜のうちに町まで下り、日が高くなるのを待ってスカーフで髪を隠しながら商店に入った。レースを売って食料と染め粉を買い、髪を染めて馬車を乗り継ぎ、城からできるだけ離れるように移動を続けた。追っ手がかかるかはわからなかったが、ユディトが心情的に離れたくて先を急いだのだ。
隣国に渡ることを漠然と考えて、国境の町までたどり着いた。
もう侯爵家に帰る気も失せていた。既に妹が後継となり、クレメンスが婿入りすることに決まっているのだから、ユディトが戻っては困るだろう。辺境伯領での仕打ちを話せば怒ってはくれるだろうが、その後の身の振り方で悩ませることになる。
ディルクとの婚約はいずれ解消されるそうだから、その時期が早まっても問題ないだろう。この先誰とも関わりたくないので、開き直っていたユディトはいっそ国を出てしまおうと思ったのだった。
『崖崩れ…?いつ復旧するんでしょうか?』
『どうだろうね、領主様もこちらに向かっているそうだから、工事はすぐに始まると思うけど』
宿泊したクロツグミ亭の女将は、のんびりした気のいい女性だった。
ここまでひたすら急いできたので、宿を選ぶ余裕もなかった。国境の町に着いてようやく少しだけ安心できたので、食事に立ち寄ったこの店の温かい雰囲気に惹かれて泊まることにしたのだ。そこで隣国への道が塞がっていること、さらにディルクが来ることを聞かされてユディトは青ざめた。
(やっとここまで来られたのに…)
『大丈夫かい?なんだか訳有りみたいだけど…』
お人好しの女将は本気で心配していた。ひとりで隣国に渡ろうとしている少女。育ちは良さそうなのに痩せて顔色も悪く、酔漢の大声に怯えて身を竦ませる。食堂で出したアップルパイを『こんなに美味しいもの、久しぶりに食べました』と涙ぐみながら食べ、部屋に案内した時は古いベッドを見て『ふかふか!』と目を輝かせたのだから、よほど辛い生活を送ってきたに違いない。隣国に逃げようとするほど酷い目に遭ったのなら、足止めは精神的にも金銭的にも厳しいだろう。
『…よければ道が開通するまで、店を手伝ってくれないかい?』
翌日からユディトは宿泊客から店の給仕係に変わった。客室ではなく女将の隣のやや狭い部屋に移り、その代わり宿泊代を不要にしてもらえたのだ。隣国へ渡った後のためにまだ売っていない宝石は残しておきたかったので、ユディトにとってもありがたい申し出だった。
『名前はなんていうんだい?』
『ユディトです』家名を名乗る気はもうなかった。
『ユディトちゃんか…ちょっと硬いね』女将の呟きに少し胸が痛んだ。シャルロッテのふわふわした可愛らしい響きに比べ、どうにも素っ気無い名に思えて好きになれなかったのだ。
だが女将は別のことを考えていたらしい。『ユディ…ディー、うん、ディーちゃんって呼ばせてもらうよ』そう言ってにっこり笑った。
簡潔な愛称に慣れない「ちゃん」付けをされて呼ばれたことで、いろいろなしがらみが遠くなった気がした。
ここにいるのはただの“ディー”なのだ。
労働はもちろん初めてだった。城でのひと月で衰えた体力もまだ戻っていないこともあり、失敗ばかりして馘首になるかもしれないと不安でいっぱいだったが、その城での体験が皮肉なことに助けになった。ひとりで洗濯や小屋の掃除をせざるを得なかったため、テーブルの片付けも店の掃除も苦にならなかったのだ。
言葉遣いや振る舞いは意識して平民の真似をした。勉強のため父に連れられて侯爵領を回ったときに関わった領民たちを思い出し、また城のメイドたちのお喋りも参考にした。彼女らはユディトに聞かせるためわざと声高に、品の無い悪口をまくし立てていた。
(…どんな体験でも、無駄になることはないのね…。だからと言って二度と同じ目には遭いたくないけれど)
意外なことに、いちばん役に立ったのはシャルロッテの行動と言動だった。高位貴族の令嬢がもっとも参考になるというのはおかしな話だが、無邪気で表情豊かなシャルロッテを思い出しながら振る舞うとぎこちなさが取れるのだ。次第にユディトは演技ではなく、心から笑い、楽しみながら働けるようになっていった。
姉妹でもともとの性質が似ていたのなら、後継の重責から外れて自由になったユディトの本当の性格が顕れるようになったのかもしれない。
ディルクが初めて店に訪れた時はさすがに驚いたが、領主が町に到着したという噂は聞いていたのでどこかで会うかもしれないと覚悟はしていた。その時はたまたま女将がディルクの注文を取ったので近付かずに済んだのだが『ディーちゃん、あちらのテーブルのお会計お願い』と言われて向かう間、背中にディルクの視線を感じて不安になったものだった。
『ディーちゃんなら彼氏のひとりやふたり、いるに決まってるだろう、なあ?』
『え、いませんよ?』
『本当?じゃ俺なんかどう?』
『待て待て、彼氏はいないが旦那はいるっていうオチじゃないのか』
『ふふ、旦那さんもいないです』
(恋人も夫もいないけど…婚約者ならひとつ向こうのテーブルにいるわね)
他の客と軽口を叩き合いながら、そんなことを考えたこともある。ディルクはいつもユディトを目で追っていて、常に何か言いたげだった。やはり怪しまれていたのだろうか…
「ディーちゃん、疲れちゃった?このぶんだと予定通り、夜までに山道を抜けて宿で眠れそうだよ」
──ふいに話しかけられ、ユディトは追想から引き戻された。
「大丈夫です。無事に国境を越えられそうで安心しました」
ユディトは話しかけてきた黒髪の青年、カイに微笑みかけた。カイは人懐っこい笑みを返し、馬車の騒音を避けるように少し顔を近付ける。
「何を考えてたの?これまでのこと?これからのこと?」
「…クロツグミ亭でのこと。女将さんには本当にお世話になったから、いつか恩返しができたらなあ…って」
「僕はこの先も商売で行き来するから、あらためてお礼を言っておくよ。お互いの近況を伝える役目はまかせて」
二人が乗っているのはカイの商売用の馬車だ。カイが伴った商会の従業員が御者を務めており、二人は積荷とともに荷台に納まり揺られている。
クロツグミ亭の常連だったカイとの出会いも、ユディトにとって幸運のひとつだ。知り合いもいない隣国にひとりで渡るのは先行きに不安しかない。勢いで国境まで来たものの、足止めにあって考える時間ができてしまったことで躊躇いも生まれていた。
このままクロツグミ亭で働かせてもらうことも考えたが、辺境伯領で暮らすことにはどうしても抵抗がある。悩むユディトに、女将は提案してくれた。
『カイ君は隣国の商会の跡取りで、オーラム王国に来た時と帰る時は必ず寄ってくれるお得意様なんだ。人柄も保証するから、一緒に連れて行ってもらうのはどうだい?』
店でも言葉を交わすようになっていて、好感を持っていた。ディルクの視線をかわすため、カイの接客に逃げたこともある。
カイを信用して…というより、恩人である女将が信用していることで、ユディトは思い切って女将にも話していない過去を打ち明けた。女将は辺境伯領の人間なので、事情を知ってしまうと複雑な気持ちにさせてしまうと思い詳しく話せなかったのだ。
いつも人当たりのいい笑顔と軽い口調のカイが、話の間は見たことのない真剣な表情で聞いていた。途中で顔を上げ、あまりに険しい顔をしているのを見て言葉が止まってしまったほどだ。
『…そうか。彼らはディーちゃんにとって、揃いも揃って巡り合わせの悪い相手だったみたいだね』
『巡り合わせ…?』
『ご家族も殿下も辺境伯も、ディーちゃん以外には善人だったんだろう?彼らの浅慮とそれによる害は、どういうわけか全てディーちゃんに向かってしまった』
領民に尊敬されていた父。穏やかな貴婦人として社交界の地位を築いていた母。
そんな両親に愛され、学院でも皆から好かれていたシャルロッテ。
王族ながら正義感あふれる騎士として、平民にも人気だったクレメンス。
若くして辺境伯を継ぎ、立派に領地を守っているディルク。
ユディトが領内を女性ひとりで移動してこられたのは、領民たちの気持ちに余裕があったからだ。犯罪に巻き込まれることもなく、関わった者はたいてい親切だった。辺境伯領が豊かで安全な証拠であり、それは領主の力量である。
誰にも悪意はない。
それなのに、ユディトに対してだけ過ちを犯した。
ユディトにだけ、悪人だった。
『…それなら僕は、ディーちゃん以外にだけ悪人になろう』
カイの瞳には決意が宿っていた。『ディーちゃんが望まない限り、誰が連れ戻しに来ようと絶対に守ってみせる。望むなら彼らへの報復だってしてあげるよ』そこでようやく普段のような、軽い口調になった。『闘い方を間違えなければ、商人には王族や貴族以上の影響力がある。うちはどちらの国でも手広く商売をしていていろんな伝手もあるし、大小裏表、さまざまな方法が…』
『あの、仕返しはとくに考えていません』さっそく悪人のようなことを言い出したカイを、ユディトは慌てて止める。『助けてもらえるのであれば…隣国に渡ったあとの住居や仕事を探す手伝いをお願いできますか?』
『もちろんだよ!むしろうちの商会で働いてほしいな。貴族相手の商売もしてるから、ディーちゃんの綺麗な所作や言葉遣いは即戦力になるし、領地経営の勉強をしていたなら数字にも強いだろうし、ディーちゃんを欲しがる部署はたくさんあるだろうね』
(…私でも、必要としてもらえるのかな)
ユディトは不安ばかりだった未来に、ほんの少し希望が見えた気がした。
(…いちばん君を必要としているのは僕だけどね、ってあの時言っちゃってたら、ディーちゃんは恩を感じて拒めなかっただろうな。それは僕としても本意じゃないし、この先様子を見ながらってところだね。…有能な商人は機を見るに敏なもの。上手くやってみせるさ)
カイはユディトの過去を聞いた時のことを思い返し、決意を新たにしていた。
もともと美味しいパイと女将の人柄のファンだったカイは、今回訪れて一生懸命に働く可愛い女の子が加わっていたことでますますクロツグミ亭を気に入っていた。崖崩れで帰途の足止めをされたことが、苦に思えなくなるほどに。
国に連れ帰りたいなあ、とぼんやり考えて自分で驚き、その時にユディトへの想いを自覚した。女将を通じて頼ってもらえたのは望外の喜びだったが、事情を知ると心の中が怒りで荒れ狂った。
(いつも店に来ていた男、あれが辺境伯か。ディーちゃんは勘違いしているが、あれは単にディーちゃんに惚れていただけじゃないか。自分の婚約者だとは気付いてもいなかっただろ)
後になって知ったとしても、もう二度とユディトに会わせはしない。
(辺境伯と王子、両親と妹。誰もが彼女に対してのみ過ちを犯した。
…隣国の侯爵令嬢を連れ去って匿おうとしている僕も、今から過ちを犯そうとしているのかもしれないな。
でも僕は彼らとは違う。彼女に対してではなく、過ちは彼女のためだけに…)
仕返しはユディトが望まなかったが、カイはそれ自体が報いになると思っている。
彼らが心底恥知らずの愚か者であれば、あらゆる手を使って追い込んでやっただろう。だが侯爵家一家も王子も辺境伯も、考えの足りないところはあるが良識も正義感も持ち合わせているようだ。自分たちがしたことをきちんと理解し、後悔に苦しむことだろう。
むしろ責められ罰を受けた方が楽になれるだろうが、彼らに救いを与える義理はない。この先ユディトに会うこともできず、謝罪の機会も与えられず、生涯罪悪感に苛まれればいい。
(もしも自分たちがやったことを忘れるようなら、何度でも思い出させてやればいいしね)
その手段をあれこれ考えながら、カイはユディトに笑顔で話しかけた。
「こちらの国では平民にも淡い金髪はいるよ。今の色も似合ってるけど、本来の髪色に戻ったディーちゃんを見るのが楽しみだなあ」
その後、カイはオーラム王国に渡るたびに情報を集めた。クレメンス王子が結婚したという話は聞かず、アーベル侯爵家が代替わりする様子もない。ノイマン辺境伯も独身を貫いていた。覇気も活気も失われたと評判の彼らは全員が密かに、侯爵家長女の捜索を続けているという。
侯爵家にはユディトから無事でいることだけを報せたが、居所は明かさなかった。
隣国にいるとわかっても、ユディトは侯爵家の後継者でも王子の婚約者でも辺境伯の婚約者でもない。まして誘拐されたわけでもなければ犯罪者でもないのだ。そんな少女ひとりを探すのに、国家間の協力を求めるわけにもいかないだろう。
クロツグミ亭の女将は、二人を送り出してしばらく経ったのち、血相を変えてディルクがやって来た時の話をしてくれた。ユディトが隣国に渡ったと聞いてその場にへたり込んでしまったという。
『あのお客さんもディーちゃんに惚れこんでたから、ショックだったんだろうねえ…それからも何度か来たよ。なかなか諦め切れないみたいだね』
いずれ彼女も連れてきて女将と再会させてあげようと思っていたカイは、その言葉で当分はひとりで来ることを決めた。
──彼らがどれほど探しても、ユディト・アーベルはもうこの世に存在しない。
いるのは隣国の商会で、忙しい毎日を笑顔で過ごす人気者で働き者の、ついでに言えば跡取り息子に外堀を埋められかけている…平民のディーだけである。
読んでいただき、どうもありがとうございました!