05. 温泉
温泉の更衣室は思ったよりも空いていた。目に入る限り人がいない。ラッキーだな、サキは思った。それぞれがロッカーを確保したとき、ルナがサキに向かって心配そうに言う。
「そういや、サキってまさか刺青とか入れてないわよね? 温泉入れないわよ?」
そんな問いに、サキは呆れつつ笑いながら答える。
「そんなもん入れてねーって。ルナこそ、親がアメリカ人だし、刺青とか入れてんじゃねーの?」
「私だって入れてないわよ」
そんな会話を横目に、由香が壁の方を見ながら声を上げた。
「見てみて、案内看板に温泉の注意事項が書いてあるよ」
【ご注意】
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イレズミ・聖痕が入っている方の入浴はお断りさせていただきます。
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「聖痕ってなんだよ」
サキが言う。
「ねぇ、サキちゃんどうしよう......」
「お前、聖痕入ってんのかよ!」
サキが叫んだ。
当然、刺青も聖痕も入っていないので、3人は着替え入浴の準備を始める。
「......」
「どうしたの〜サキちゃん? 私の方ジロジロ見て」
着替える由香に対して視線を向けるサキ。思わず由香が指摘する。
「いや......。由香、前見た時より胸大きくなってんなーと思って」
それを聞いて、由香がサッと両手で胸を隠した。
「もう! どこ見てるのさ! サキちゃんこそ、前より態度が大きくなってるよ♡」
「なんで喧嘩売って来るんだよ」
そんな2人を尻目に、脱ぎ終わったルナは浴場へと向かっていた。
【浴場】
「うおー! すげー! めっちゃ広いじゃん!」
想像よりも広くて豪華な浴場に、思わず大声を上げるサキ。先客がいなかったせいもあり、つい感情が漏れてしまった。
「ふふふ、小学生じゃないんだから、騒ぎすぎよ」
「ねー。サキちゃんってこもどっぽい所あるよねー」
「誰がデカいトカゲだよ馬鹿」
口から毒を吐きながらサキが言う。奇しくもコモドと同じだった。
「さっ、体流して温泉入りましょ」
ルナがそう言うのを皮切りにして、3人はそれぞれ掛け湯をして湯船へと入っていく。ザバーンと、湯船が3人の体積分だけ外へ漏れ出た。
「気持ち良いなあ〜。極楽・極楽」
「本当、気持ち良いわねぇ......。エルドラド・エルドラド......」
「すごい! アメリカ人は極楽って言わず、エルドラドっていうんだ!」
「多分こいつだけだぜ」
サキは思わず呆れた声を出す。
「あら、案内板に効能が書いてあるわよ」
すると、ルナが温泉の効能表示の看板を見つけたらしく、声を上げた。
「マジ? 頭良くなったりしねーかな」
サキも看板へと目を向ける。まずは温泉の名前が表示されていた。
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穢呪穢温泉:効能
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「変な名前の温泉入っちまったじゃねーか!」
由香の言っていた「えじゅえ温泉」は正しかったらしい。
「名前なんてどうでも良いよ」
「呪いが穢れで挟まれた名前なんて流石に気になるだろ!」
そんなサキの焦りについては由香は気にした様子もなく、看板の続きへと目を向けた。
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効能:お湯に溶け込んだ大自然の神秘が、体にゼロ磁場的神通力を与え、さらに、呪穢祓教の教祖様による祈りと神託が合わさり、圧倒的効果向上が付与されます。
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「しかもスピリチュアル温泉じゃねーか!」
サキが心底嫌そうな声を上げる。
「まあまあ、気にせず楽しみましょうよ、ほらっ!」
そう言ってサキの背後に回り込んだルナは、おもむろにサキの体を触り始める。
「おい! ちょっと待てっ!......んっ......お前......どこ触ってんだよ......」
「ふふふ」
抵抗するサキの反応を楽しむようにして、ルナが体を触り続ける。
「わっ!!! なんかこの赤いバルブひねったら警告音が鳴り響き始めた!」
由香が叫んだ。
「お前もどこ触ってんだよ!」
サキも叫んだ。
ちなみに、バルブを逆方向に捻ったら警告音は止んだ。