04. 食後
【廊下】
時刻は夜7時。食事を終えた3人は料理の感想を話しながら自分たちの部屋へと向っていた。
「美味かったな〜料理」
「えび、かに、サーモンにステーキ。どれも美味しかったわねぇ」
「ハンバーグ、唐揚げ、ウインナーにカレーライス!」
「なんだよ、小学生のバイキングみてーだな」
そんな話をしながら歩く3人。しかし、突然目の前を遮るように現れた若い男によってその会話は中断されることとなった。
『ねぇ、君たちかわいいね。3人で旅行?』
髪を茶色に染めた若い男が目の前に立っている。大学生くらいの年齢だろう。
「うわ、ナンパよ」
ルナが小声で、嫌そうに言う。
気にせず歩を進めようとする3人と並走するように、男は話しかけてくる。
『ねぇ、俺の部屋来ない? 他にも友達いるからさ。ねえ?』
「......」
「こういうのは無視が一番だ」
サキは男に聞こえないよう、小さな声で2人に言う。反応をすると相手の思う壺である。それに倣ってサキ以外の2人も無視を決め込む。そんな3人の様子に構わず、男は話し続ける。
『てか、君たちどこ住み? LINEやってる? 彼氏とかいんの? てか、死刑制度には賛成? 反対?』
「なんでナンパの途中で思想を出すんだよ!」
「真っ先に喋っちゃってるじゃないの......」
ルナが呆れて言う。サキのツッコミ癖が悪い時に出てしまった。
「......」
すると、先ほどまで静かにしていた由香が口を開く。
「死刑には当然反対だよ! だって人は死ぬことにより魂が輪廻を繰り返すんだから、早くに死刑になることで魂が若い状態で輪廻することになるから、結果的に死刑囚が得をすることになっちゃうもん!」
「より強い思想で応戦すんなって」
『へ、へぇ......面白いね〜......』
「ナンパ男ですら引いてるわよ?」
相手が怯んでいる今かもしれない。サキは勇気を振り絞ってデカい声を上げる。サキは声のデカさには自信があった。それ以外には特に自信はない。
「おい、迷惑だからさっさと失せろよ。お前の手足の関節全部折って! 球体関節の人形みたいにしてやるからな!」
『す、すんまへん......』
サキに凄まれた男はバツの悪そうな態度で去っていく。なぜか大阪弁で去っていく。
男が完全に視界から消えると、由香とルナの二人は目を輝かせてサキの方を向いた。
「サキ、格好良かったわよ」
「別に、大したことねーって」
「流石サキちゃん! クラスで『鏖の女帝』って呼ばれてるだけあるね!」
「呼ばれてねぇよ!」
「えっ?」
「えっ?」
由香とルナが同時に声を上げる。
「本当に呼ばれてんのかよ!!」
こうして、3人は平和に自分の部屋へと戻ったのだった。
【客室】
部屋に戻った3人は食事中に敷かれていたらしい布団の上へと座った。
「はー。それにしても腹一杯だなー」
言って、サキは敷かれた布団へと横になる。
「サキ。食べてすぐ横になると牛になるわよ」
「別にいいだろ今日くらい〜」
ルナの指摘を無視して寝転がり続けるサキ。
「サキちゃん、食べてすぐ横になると逆流性食道炎になるよ!」
「合理的なこと言うなよ怖いな」
サキは起き上がった。
「それより、ご飯食べた後はすぐ歯磨きしなきゃね」
ルナが洗面道具を持ってそう言う。
「私なんて、食べ終わった直後に行ったお手洗いで磨き終わったもんねー!」
由香が胸を張って言った。
「はえーなお前ら」
サキは二人の歯科衛生意識の高さに素直に驚く。
「そして、歯磨きの最後はこれ!」
由香が色の付いたボトルを机の上に置く。
「お口クチュクチュ・ドデカミン!」
「歯磨きが台無しじゃねーか!」
出てきた炭酸飲料を前に思わず大声を上げた。
「ま、それは置いておいて、そろそろ温泉行かない?」
ルナが目を輝かせて言う。
「確かに、すっかり忘れてたな。行こうぜ」
そう言い、サキは立ち上がった。
「えーっとねー。パンフレットによると、......えじゅえ温泉っていうんだって」
由香がスマホ画面を見ながら言う。電子パンフレットを見ているらしい。
「ふーん。変な名前ね」
「漢字の読み方でも間違えてるんじゃねぇの。さっさと行こうぜ」
3人は部屋を後にし、温泉へと向かった。




