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私がカップのお湯を飲み干すと、メアリーさんがおかわりを注いでくれた。
天使様はじっくりと私を見ると、おもむろに訊ねた。
「名前は言えるかしら。あちらではなんと呼ばれていて?」
名前。
名前?
そういえば、旦那様や奥様にも、料理人やメイドにも名前があった。
お嬢様も旦那様や奥様からは名前で呼ばれていた。
自分はなんと呼ばれていただろう。
「……おい、や、おまえ、と呼ばれていました」
メアリーさんが天使様を見た。
周りのメイドさんたちも顔を見合わせている。
初めて天使様から笑顔が消えた。
何が悪かったのかは全く判らなかったけれど
とんでもないことを言ってしまったことだけは解って俯く。
パチンと扇子を閉じる音がして、おそるおそる顔を上げる。
天使様が、また優しく笑ってくれた。
「ではね、今日からあなたはシャーロットよ」
シャーロットと呼ばれた途端に、不意に思い出が蘇った。
シャーロット。
シャーロット。
ロッテ。
いつだったか、そう呼ばれていた。
あれは、旦那様? 奥様?
違う。
『わたくしの可愛いロッテ』
あれは、お母様――。




