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どうやったら旦那様を怒らせずに済むか。
どうしたら奥様に叩かれないでいられるか。
どこにいたらお嬢様に抓られたり、蹴られたりしないか。
何をしておけばメイドに突き飛ばされないか。
どんな風に話しかけたら料理人に食べ物を分けてもらえるか。
何度も怒鳴られて、叩かれて、蹴られて、少しずつ学んだ。
体はあちこちいつも痛くて軋んでいた。
深く息をすることで、重い手足を動かせることを覚えた。
髪の毛はお嬢様が気まぐれに切るのでいつもバラバラだった。
季節や天気は勝手に過ぎて行った。
夏はお茶をかけられてもすぐに乾くし、夜も寒くなかったから、夏が好きだった。
冬は隙間風でいくら体を丸めても薄い毛布では全然眠れなかった。
全員が寝静まったあとに、暖の残る竈の前でこっそり眠った。
水仕事をしていた手はあかぎれて痛いのか叩かれて痛いのか分からなくなった。
逃げようと思ったことはなかった。
逃げるためには、逃げるという発想とそのための知恵が必要だったのだ。




