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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不幸依存症

作者: せと

中の下くらいの人生は送ってきていると思う。だけど、なにか私は満足のできない日々を過ごしている。いつもと変わらぬ教室。業間に私の席の周りで話す人はいない。そんな、いつもとなにも変わらない日常。友達がいらないと思っている訳ではない。うまく喋れない私にとって友達ができるというその壁はとても高いものだった。物語で書かれるならばクラスメイトFあたりに入れれば喜べる。そのくらいの存在だった。


ある日、私は風邪を引いた。学校にはさっき親が連絡をしてくれたらしい。そんなことをぼーっとする頭で考えながらまた深い眠りについた。

目覚めると、もうすでに日が傾き始めていた。どうやら随分と寝込んでいたらしい。そんなことを思いながらスマホをいじっていつものように公式ラインに既読をつけるーーー違った。一件、温かみのあるメッセージが届いていた。ただ一言「大丈夫?」と。その一言ですら私の心を温めるには十分であった。あぁ、私はこんなにも人の暖かさと言うものを渇望していたのだろうか。とにかく、返さないのはそれは無礼というものだ。私は簡素に「大丈夫です。ありがとうございます。」と送信した。クラスのモブキャラのできる私のメッセージなんて敬語が精一杯である。


その次の日、元気になった私は学校に登校。いつも通りの日々を送る。昨日メッセージをくれた人とも話すことなく、なにもなくクラスのモブキャラとしての私を生きていく。それで満足。それでいい。それで十分…なのだろうか?

多少は心配してくれてもいいのではないか。そのような思考が私の心を満たした。なぜ誰も声をかけずになにもなかったかのようにいるのだろうか。私はクラスの一員として心配なんてされていないのだろうか。

だけれども…けど、もし私がまた体調を崩して休んだら心配のメッセージがまた来てくれるのではないか?私をクラスの一員として認めてくれるのではないか。名案だ。気にかけてほしいなら私自身が他の人よりちょっぴり不幸になればいいんだ。フリでもいい。そうすれば心配してくれる。存在を認めてくれる……


半年がたった。私は仮病と疑われない程度に体調を崩したと言って学校を休んだ。母親は異常気象のせいで身体の調子が狂ってしまったのだと思っているのが、少し罪悪感だ。しかし、私の思惑はおおかた予想通りであった。休むと心配するメッセージが来てくれる。日によっては2通来た日もあった。ちゃんと心配してくれてるんだ。私の存在が認められてる。それだけで私は満たされた。しかし、最近はどうもその心配のメッセージも素っ気ない気がする。私から興味を失っているような気がする。どうしたら私のことを心配して気にかけてくれるだろう。どうすれば私をみてくれる?そうだ。ちょっと私が不幸になる度合いを上げればいいんだ。そうすればまた心配してくれる。もしかしたらもっといっぱいの人が心配してくれるかもしれない。やはり私は頭がいいのかもしれない。しかし仮病は使ってしまった。どうすればみんなは私を心配してくれるだろう?そんな時、ふとTwitterの1つのツイートが目に入った。「#リスカ」とだけ一文かかれて投稿されているそれには大量のいいねがあった。こうすればみんなは心配してくれる。みんなが私を見てくれる。そうだ、この人たちみたく女の子をアイコンにしてリスカの画像を上げればSNSのたくさんの人もきっと私を気にかけてくれる…


こう思ってからの行動ははやかった。調べた情報を基に部屋にあったカッターで自分の腕を傷つける。その後に部屋を薄暗くして写真を撮って加工してSNSに投稿する。反響はすぐにあった。公式ラインを溜めても溜まらないようなバッヂがTwitterのアイコンの右上についていた。開いてみると見たこともないようないいねの数と、「かわいい」と言うようなコメントもあった。なにが可愛いと思うのか私には分からなかったが、ただ私のことを、私のそれを好きでいて、そして気に入ってくれていることだけははっきりとわかった。なにも、私を認めて愛してくれる人間は現実だけじゃなかった。むしろ、SNSの方がたくさんの人が私をみて、そして気にかけてもらえる。ものすごく晴れ晴れとした気分だった。私の居場所がちゃんとそこに存在する。認めてくれる人がいる。それだけで私は満足だった。私がリスカの画像を上げるたび、いいねをつけてくれる人、コメントしてくれる人は少しながらも増えていった。愛されてる。私は必要とされてる。特に、ちょっと深く傷つけたときは特に評価が高かった。私がリスカをすればするほど愛してくれる。酷ければ酷い分だけ愛してくれる。もっと酷ければ、もっと深ければもっと多くの人に愛してもらえるのかな。私はそのように思って私の行動は次第にエスカレートしていった。最初は左腕。その次に右腕。左の手の甲、右の手の甲。治ってきたらまた傷つける。そうすれば愛してくれる。現実の数倍の愛を与えてくれる。けれども、数ヶ月それを続けていると、愛してくれる人の数も頭打ちになってきていた。どうして?私をみてほしい。もっと愛されたい。もっと必要とされたい。どうすれば愛してくれる?気にかけてくれる?そうだもっと深く切ればいいんだ。どこを切ればもっと愛してくれる?愛されたい。必要とされたい。もっと、もっと、もっと…!

そんな時、私は画面に映し出されたものに心を奪われた。それは、女子高生が飛び降り自殺をするところをライブ配信しているものであった。衝撃を受けた。そのことはトレンドにも載っていた。そうか、そうすれば私はもっとたくさんの人に愛してもらえる。ライブ配信でリスカすればいいんだ。そうすればみんなの愛を直接受け取れる。今までの時間差のあった愛を直接リアルタイムで受け取れる。それがいい。そうすればもっと愛してくれる。愛される。

その後、私はスマホで撮るためのものを適当に調達し、顔がバレないようにうつりを調整して、ライブ配信を始めた。内容は簡単なものだった。みんなが配信に来る。私はリスカをする。やってることはいつもと変わらなかった。しかし、来てくれる人、コメントをしてくれる人はいつもの投稿の数倍の人間がいた。私のことをみんなが見てくれる。必要としている。愛してくれている。血が失われているにもかかわらず、私の気分は今までにないほどに高揚していた。ライブ配信を終わってみてみると、配信の前よりも格段にフォロワーがふえていた。私がライブ配信をすればこんなにもたくさんの人が私を認めてくれる。私は定期的に配信を行い、その度に見てくれる人は増えていった。フォロワーも増えた。コメントを見て、「もっと深く」とか言われて、それに応えるとみんなが喜んでくれる。私の行動がみんなに必要とされている。私の存在が認められている。そのことが、そのことだけが幸福であった。しかし、配信のたびにコメントの期待に応えるたびに、深く傷つけるたびに、傷の治る速度は遅くなっていった。配信の頻度も下がってしまった。それと同じように、フォロワーというのも少しずつ減っていった。配信をして愛されたい。また傷つけばみんなが私を愛してくれる。みてくれる。どこを傷つけよう?どうすればもっと愛される?そんな私に、昔の記憶が呼び起こされたー女子高生が自殺の様子を配信してトレンドに入ったーーーそれだ。傷つけることができるものなんてない。けど、私はまだ生きている。その生を傷つければもっといっぱいの人に愛される。もしかしたらトレンドに載ってたくさんの人が私を気にかけて、心配して、必要として、愛してくれるかもしれない。そうだ。それしかない。愛されたい。そうしなければ愛される術はない。愛してほしい、気にかけてほしい。もっと多くの人に私のことを愛してほしい。必要としてほしい!


タイトルは簡潔に「さよなら」

スマホをセットして配信を開始する。今更顔がバレてもなんでもいい。今までのどの配信よりも人が来ている。愛されてる。愛されてる。けど、もっと、もっとたくさんの人に愛されたい。だから、もう戻れない。私は屋上にある柵を越え、空白へと一歩を踏み出した。その時に見えた景色というものは、とても綺麗なようで、色のない空虚な景色であった。これでいいんだ。こうすれば、私はいなくとも、たくさんの人が私のことを覚えてくれる。私を愛してくれる。そうすれば、私はまだその人たちの中で生きていける。だから、死ぬまで私のことを愛し続けて。

読んでくれてありがとうございます。せとです。私自身としてはまだリスカなどの自傷行為を経験したことないような小心者なため、一部の表現は「これ違うでしょ?」みたいな場所があるかもしれないです。その場合は遠慮なく「この時は…」と言ってくださるとありがたいです。次回作や、次作る上での参考にさせていただきます。

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