泥棒たちは思わぬ助けを得る②
早苗はそう言いながらも、冷静に頭の中を整理した。倉庫の入り口には、見張りの男が二人立っていた。そして、倉庫内にはオールバックを含め、五人の男がいる。おそらくそれぞれが拳銃を携行しており、武装した男が七名いることになる。手錠をかけられ、身体の自由を奪われた状況で、果たして逃げることはできるのだろうか?
早苗が考えていると、オールバックの男が口を開いた。「この世界じゃ、裏切りなんてつきものだ。むしろ、騙される人間が悪い。騙されるような、頭の弱い人間が悪いんだ」
「あなたは決して賢そうには見えないけど」
「果たしていつまでその余裕がもつかな。もうすぐ大川原さんがここに来る。あの人がどう判断するかで、おまえたちの運命が決まるわけだ」
「それなら好都合ね。あなた相手じゃなくて、直に交渉できるから」
「交渉? おまえたちにどんな交渉ができるってんだ。自分の立場わかってるのか? 俺たちがおまえの話に耳を傾ける理由が、どこにあるんだ?」
「理由ならあるわよ。なぜなら、そこにある絵は本物じゃないから」
オールバックの男が訝しい顔をした。早苗の視線を追って、黒いケースを見る。
「はったりを抜かすな。俺は、この世界で生きてきて長いんだ。窮地に陥った人間が、とんでもない嘘をつくことは知っている」
「じゃあ、見てみれば? まあ、あんたなんかが見たところで、本物と複製画の違いなんてわからないでしょうけどね」
オールバックの男がこめかみに血管を浮き上がらせた。早苗はその様を見て、本当に単純な男だな、と思った。それから男が部下に指示して、ケースを開けさせた。中から絵を出し、男のところへ持って来る。絵を受け取った男はしげしげとそれを眺めていた。
「だから言ったでしょ? あんたじゃわからないって」
「これは本物じゃないのか?」男が早苗を見る。
「それは複製画よ。私がとあるギャラリーで購入したもの」
「どうしてそんなものが、ここにあるんだ?」
早苗は笑った。「やっぱりあんた、賢くないわ。早瀬さんは、すぐに理解したわよ。その足りない頭で、考えてごらんなさいよ」
男が目を釣り上げた。「図に乗るのも大概にしろよ。俺の訊いたことに答えろ。次に余計なことを口走ったら、この拳銃でおまえの頭を殴るからな」
「美術館から盗んだ絵が複製画だったってことは、答えは一つしかないでしょ。絵が、すり替えられていたのよ」
「すり替えられていた?」男はまだ、わからないようだった。
「前日の夜に忍び込んで、絵をすり替えていたの。そして早瀬さんたちと仕事をして、あたかも本物の絵を盗んだかのように見せかけた」
「彼女の言うことは本当だ」早瀬が口を開いた。「その絵は本物じゃない。よくできているが、複製画だ。本物を手に入れたければ、彼女の話に耳を傾けたほうがいい」




