深夜のドライブ⑤
「実はね」横を向いて、ハンドルを握る早瀬を見る。「絵は、偽物なの」
「なんだって?」前を向いたまま、早瀬が訝しい顔をする。声が少し、高くなった。
「いま私たちが持っている絵、車に積んでいるアンティーブ岬は、実は本物じゃないの」
早瀬は頭を働かせていたのだろう。少し間があってから「絵をすり替えたのか?」と言った。早苗は無言で、首を縦に振る。
「どういうことか、説明してくれないか?」
作戦を思いついたのは、大川原の家から帰った後だった。早苗は及川と二人で、大川原を出し抜く方法を必死に考えた。それはこのままでは終わらせない、黙っていられないというプライド、執念でもあった。
絵は、佐々川に届ける必要があった。それができなくとも、せめてこちらで手に入れておく必要がある。ミクルが人質にとられ、実行日を早められ、部下を増員された以上、取れる手段は限られていた。仕事は、実行しなければならない。様々な制約をクリアし、かつ大川原に忠実に仕事を実行したと思わせるには、方法は一つしかなかった。それが、絵のすり替えだった。
美術館に展示されている絵を、偽物とすり替える。そして実行日当日、早瀬たちの目の前で仕事をし、あたかも本物の絵を盗んだように思わせる。大川原には仕事をしたと思わせ、偽物の絵を渡す。うまく騙せればミクルを返してもらえるし、そうならなかったとしても、絵を人質にして交渉することができる。部下を増員されても、そもそも早瀬を縛る必要がないので問題はなかった。
幸いなことに、すり替える絵も早苗の手元にはあった。教会からの帰り、たまたま寄ったギャラリーで、これまた偶然見つけたアンティーブ岬の複製画があった。早苗はすぐに、それを本物と入れ替えるために使うことを決めた。あまりにもタイミングが良く出来過ぎた話だったが、もしかすると教会のご加護、神様が味方してくれているのかもしれないと、早苗は考えた。
問題は時間がないことだった。早瀬たちとの実行日が翌日であることを考えると、すり替えるタイミングは今日しかなかった。今日の夜に美術館に侵入し、絵をすり替える。準備をする時間はごく短く、早く決断をして効率的に動く必要があった。
早苗は大熊に電話した。どうやって、監視の目を欺いて都内を出たのかを聞いた。大熊の答えは単純なもので、「連中の無線を傍受したんだよ」というものだった。大熊いわく、大川原の部下たち、監視班は無線で連絡を取っており、それを傍受して監視の目が緩んでるタイミングを見つけ、移動したとのことだった。「まあ、夜中だったら確実だよ。連中は夜はまともに監視してない。寝ているか、スマホのゲームをしているか、女のところに行ってるよ」と間延びした声で言った。




