泥棒たちは美術館に侵入する①
JR新橋駅は、深夜だというのにせわしなく人が往来していた。
早苗と及川は、みどりの窓口の付近に立っていた。目の前に、ロータリーがある。そこを見ながら、早瀬の運転する白いバンが登場するのを待っていた。
「いよいよ、実行日当日を迎えましたね」緊張した面持ちで、及川が言う。
「どうしたの先生? 強張った顔してるわよ。初めての美術館に、緊張しているわけ?」
「泥棒で緊張はしないですよ」及川が苦笑する。「そうじゃなくて、大川原さんのことですよ。これから一体、どうなってしまうんですかね」
「計画どおりやれば大丈夫よ」早苗が力強く言う。「あ、ほら、来た」
目の前のロータリーに、白いバンが到着した。運転席には、早瀬が座っている。彼が軽く手を振って、こちらに来るように合図した。早苗と及川は、駆け寄って後ろのドアを開ける。
ドアの中には、屈強な男が三人乗っていた。髪型は特徴的で、三人ともスキンヘッドだった。そして、目つきが鋭かった。頬にナイフで切られたような古傷のある者もいる。どう考えても、慈善事業をしているような平和主義者ではなさそうだった。いかにも、物騒な連中だった。
「一番後ろに乗ってくれ」運転席から、早瀬が声をかける。
早苗と及川は一番後ろの座席に乗った。二人が乗ったのを確認して、車が発進した。
車は下道を走りながら、美術館を目指す。時刻は深夜の十二時を過ぎているので、車の通りはタクシーが多かった。都心のビル群の間を、縫うように走る。
「彼らは、大川原さんの部下だ」早瀬が口を開いた。どうやら、三人の男のことを言っているようだった。
「見ればわかるわよ」早苗がぶっきらぼうに答える。
「事前に話したが、今日の仕事には彼らも同行する。彼らには主に、警備員の制圧を行ってもらう」
「間違って殺したりしなければいいけどね」
早苗が軽口を叩くと、男たちが睨んだ。凶暴な野犬のような目が、暗い車内に光る。
「そこら辺は、わきまえているよ」早瀬が笑った。「ところで、あの熊みたいな男の人は、結局来れなかったのかい?」
「まだ東京に戻ってないそうよ」
大熊は仕事で都内に戻っていなかった。早苗はそのことを早瀬に話したが、「来れれば参加すればいい」と頓着しなかった。ただの情報屋であるし、ミクルを人質に取っている以上、下手なことはしないと踏んでいるのだろう。
「裏切って逃げたんじゃねえのか?」男の一人が下品な笑みを浮かべながら言ったが、早苗は無視した。
ほどなくして、車は美術館に着いた。駐車場のはしっこ、目立たないところに車を停める。ライトを消し、エンジンを切った。途端に音がなくなって、しんとする。まるでの無音の暗闇に、音が吸い込まれたかのようだった。




