泥棒は教会に行く⑤
「確かに日本の警察はドジで間抜けだけどね、でもなにもしないよりはマシなんじゃないの?」
「いま、父の友人たちが探してくれています」
「お父さんの友人?」早苗はへえ、と思った。亡くなった父の友人が、その形見の絵を探してくれているのだ。この女性の父親は、よほど良い友人を持っていたか、人望が厚かったに違いないと思った。
「そのお父さんの友人たちは、警察よりも頼りになるのね」
早苗がそう言うと、女性が白い歯を見せて笑った。「頼りになりますね。その分野においては、世界一の人たちですから」
どの分野のことなのだろう、と早苗は思った。人探しの業界のことを言っているのだろうか。だとしたら、確かに頼りにはなる。いわゆる名探偵と呼ばれるような人が、父親の友人にはいたのかもしれない。
「見つかるといいわね、ご両親の形見」
早苗は同情ではなく、本心からそう言った。それが女性にも伝わったのか、彼女は早苗の目を見て優しく笑った。
「あの」それから女性が、口を開いた。今度は彼女の番だった。「あなたはここで、なにを?」
「私は、ここに来たのは初めてなの。たまたま近くを通りかかったのよ」
「やっぱりそうでしたか。どうも、見慣れない方だと思ったので」
やはりこの女性は、教会の関係者なのだろう。普段から、ここに出入りしているに違いない。早苗は女性を見ながら、言葉を続けた。
「普段は教会なんて行かないし、キリスト教や聖書のこともなんにもわからないの」
「じゃあ、ほんとたまたま、ふらっと寄ってみたって感じなんですね?」
「そうなのよ。でも、ある噂を耳にしていたことが、影響しているかも」
「ある噂ですか?」
「そう。ルマークの指環っていう、伝説なんだけどね」
早苗がそう言うと、女性は大きく目を見開いた。それから、唇を固く結んだ。まるで、なにかに緊張しているような様子だった。
「あなた、聞いたことある?」
早苗が訊ねると、女性は黙っていた。なにか逡巡しているような、難しい顔をしている。しばらくしてから、「いえ、聞いたことありません」
女性の様子は気がかりだったが、しかし一般人がルマークの指環について知っているとも思えなかった。早苗はそのまま、話を続けた。
「まあ、そういう伝説があるのよ。その話のなかで教会が登場するから、もしかしたらそのことが頭にあったのかもね」
女性は探るような目を早苗に向けていた。それから、「それは、どういう話なんですか?」
「泥棒の話よ」早苗は笑いながら言った。「いまのあなたは、一番聞きたくない話かもしれない」




