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泥棒は教会に行く③


 早苗は目をつむり、深呼吸をした。初めておとずれる教会の空気を味わう。なんとなくだが、少し気分が落ち着くように感じた。目を開けると、中央にあるステンドグラスが目に入った。それは、十字架にかけられたキリストを描いたものだった。早苗にはキリスト教や聖書のことはわからなかったが、ステンドグラスの美しさには心を洗われた。そこには、救いがあるように感じられた。


 そこでふと、物音がするのが聞こえた。後ろを振り向くと、誰かが入って来た。逆光でよく見えなかったが、近づくにつれてその姿が鮮明になった。一人の女性だった。グレーのパンツスーツを着た、背の高い女性。年齢は、早苗よりも下だろうか。整った顔立ちをした、長い栗色の毛が美しい人だった。


 女性は早苗に気づくと、小さく会釈をした。早苗も会釈を返す。それから、周囲に視線を走らせていた。まるで、なにかを探しているような仕草だった。それから小さく溜め息を吐き、そばにあった長椅子に腰をおろした。ぼうっと、ステンドグラスを眺めているようだった。


「あの」早苗は声をかけた。「なにか探しているんですか?」


 声をかけらたことに驚いたのか、女性ははっとした顔で早苗を見た。それから少し苦笑し、「ええ、そうなんですよ」と言った。


「落とし物?」早苗が訊ねる。


「いえ、落とし物ではありません。ここに、飾っていたものです」


 女性の声は落ち着いていた。よく見ると、目が大きくて鼻が高かった。まるで、日本人ではないような顔だった。しかし、はっきりと日本語を喋っている。もしかすると、ハーフなのかもしれない、と早苗は思った。


「飾っていたもの?」早苗は思案する顔になった。「もしかして、盗まれたとか?」


「そうみたいです」女性は困ったように、眉をさげた。その表情も大人びていて、早苗は見惚れる気分になった。


 おそらくこの人は教会の関係者なのだろう、と思った。それから早苗は、周囲に視線を走らせた。とくに、高価なものがあるようには感じられなかった。本や燭台、花が置いてあるだけで、盗めるようなものはなにもなかった。価値がありそうなのは、しいて言えば座っているこの長椅子ぐらいだろうか。


「世の中には、泥棒がたくさんいるから」


 早苗がそう言うと、女性は驚いた表情をした。それから、声を立てて笑った。


「いや、ほんとうにそうなんですよ。世の中は、泥棒だらけです」


「そう言うあなたも、実は泥棒だったりして」


「私は違います」女性が笑いながら手を左右に振った。「でも、誰が泥棒かなんてわからないですよね。意外な人が泥棒だったりします」


「私の知り合いにね、小説を書いてる泥棒がいるのよ」



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