表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/123

過去の亡霊⑤


「去年さ。刑務所には入ったが、初犯ということが幸いして刑期は短かった。大卒という経歴も良かったんだろうね。大いに更生の余地あり、ということで良い工場に配属してもらえた。一生懸命やっていたから、刑務官にも目をかけてもらったよ。模範囚として良い待遇を与えてもらえたし、仮釈放もずいぶんもらうことができた」


「そこで、大川原と出会ったのね」


「ああ、そうだ。僕が配属された工場に大川原さんはいた。そのときはもう、あの人は出所間近だった。一緒に過ごした時間は短い。けれどもあの人は、僕のことを色々世話してくれたよ。親身になって話も聞いてくれた。僕に身寄りがないことを知ると、出所したら面倒を見てやるとも言ってくれた。僕は、嬉しかったね。ギャンブルにはまって身を滅ぼした馬鹿な男にも、手を差し伸べてくれる人間はいるんだ、と思ったよ。まさに、地獄で仏に会ったような気分だった」


 早瀬の声には孤独感がにじんでいた。そのときのことを、思い出したからだろう。早苗は想像してみた。彼が置かれた境遇を、その心境を。


 確かに早瀬は、馬鹿な男だった。彼が言ったように、自業自得としか言いようがない。だが、彼が投資詐欺に手をだしてしまったことは、早苗には批判する権利はないように思われた。


 なぜなら、そもそも自分だって窃盗という、れっきとした犯罪行為をしていたからだ。それに、藁にも縋りたい心境というのは理解できる。彼も、彼なりに必死だったのだろう。なんとか泥沼から這い出ようともがいていたのだ。そして、沼から出ようともがいているうちにどんどん深みへとはまり、気づいたらどん底に落ちていたのだ。


「笑うだろう?」そう言って、早瀬が笑った。相手にも笑ってほしいという、笑い方だった。


「まあ、私には笑うことはできないわね。あなたが借金をつくったことは笑えるかもしれないけど、投資詐欺に手をだしたことは笑う資格はないわ」


「君が窃盗団のリーダーだったとは、思わなかったよ」そこで早瀬が、声の調子を明るくした。重々しい話題が去ってくれたと思っているのだろう。「今日会ったときは、本当にびっくりしたよ。まさか、こんな形で再会するとはね。いつからやっていたんだい?」


「その割には、落ち着いているように見えたけどね」


「それは、君も同じじゃないか?」


 それを聞いて、早苗は少し笑った。どうやら平静を装っていたのは、お互い様らしい。


「あなたは刑務所で大川原と知り合った。それで、出所してから連絡を取ったのね」


「そうだよ」


「それで、今のあなたがあると」


「それは、さっき言ったとおりだよ」


「わかったわ」


 早苗は言った。もう、聞きたいことには充分に答えてくれたと思った。ある一つの質問を除いて。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ