泥棒たちは作戦を練る⑦
昔と変わらない涼やかな顔をしていた。二重の目は細く、笑うと相変わらず糸目になった。整った鼻筋も、シャープな顎のラインも、寝癖がついている長くて柔らかい黒髪も、何もかもが昔と同じだった。余裕を演出しているようで、実はまったく自然な所作も変わっていなかった。ただ変わっていたのは、背の高い身体にぴったりと合わせた高級スーツだけだった。昔のようなボロボロのジーンズにしわの寄ったシャツではなくて、仕立てのよい高そうなスーツを着ていた。
早瀬は早苗と会ったとき、初対面のふりを装った。早苗もそうした。なんとなく、それが賢明に思えたのだ。だが、目の前に立っている早瀬を見ていると、だんだんと憎い気持ちが湧いてきた。自分から金を借り、逃げた男。その男が目の前に立って平然と喋り、平気な顔をして笑っている。早瀬がなにを考えていたのかはわからないが、早苗にはそれがとても侮蔑的で、屈辱的なことに思えた。
「早苗、そんなに考えることか?」
早苗の脳内の思考を断ち切るように、大熊が声をかけた。不思議そうな顔をして、早苗のことを覗き込んでいる。「その男を縛って放置しておけばいいんだ。そんなに悩むことか?」
早苗は唇を噛んだ。下を向き、膝のうえで組んだ両手をもぞもぞと動かす。それから少し考え、「いや、絵は大川原に届ける」と言った。
「どうしてだ?」大熊が怪訝な表情をする。「絵なんか届けてやる必要ないだろう。連中を出し抜いて、うまく逃げりゃあいいじゃねえか」
「そうだよ」ミクルも同調した。「さっきも言ってたけど、絵を届けたところでどうなるかわからないよ。裏切られたり、騙されたりするのがオチだと思うけど」
「いや、絵は届ける」早苗が断定する口調で言った。「逃げたら、それこそ厄介なことになるかもしれない。まずは、絵を届けてみる。なにかあったら、それから考えましょう」
「早苗さんらしくないですね」及川が驚きながら言った。「早苗さんはいつも、周到に計画を練っています。仕事をするときはちゃんと計画を立てて、そのとおりに実行してきました。いまみたいに、場当たり的なことを言うことはありませんでした。本当に大丈夫なんですか?」
「大川原の目的次第だと思うの。なんであの男は、モネの絵を盗めと言ったのか。本当にモネが欲しいだけだったら、絵を届ければ解放してくれる可能性はあるわ。あの男だって私たちがプロの泥棒だって知ってるんだから、そんなめんどうな連中とは関わりたいと思わないはずよ」
「大川原の目的か」大熊が顎に手を添えながら思案した。「それは盲点だったな。確かに、なんであの男は絵を欲しがっているのか気になるな」
「転売だよ転売。きっと、転売ヤーみたいに誰かに高値で売りつけるんだよ」ミクルが舌をだした。「転売ヤーってほんと最低だよね。推しのチケットも、あいつらが買い占めてバカみたいな高値で売るんだよ」




