泥棒たちは電話で呼び出される⑦
「ずいぶん遅かったじゃないか」
及川の横に立っている男が声をかけてきた。ビデオ通話で話した、オールバックの男だった。
「待ち合わせ時刻は決まってなかったと思うけど」早苗が言った。
「俺の部下を出し抜いたときのように、飛ばすことはできなかったのか?」
男が早苗の目を見ながら言う。きっと、黒塗りベンツの二人組のことを言ってるのだろう。
「出し抜くつもりなんかなかったわよ。ちょっと、遊んであげただけ」
「だいぶ、運転の腕はいいらしいな」
「あなたの部下がどういう報告をしたのかわからないけど」早苗がくすっと笑う。「もう少し、運転技術を磨いたほうがいいわ。マリオカートをやってる小学生のほうが、私たちといい勝負ができたわ」
それを聞いて、ミクルがくすくすと笑った。オールバックの男は悔しそうに舌打ちをした。
「口が達者なんだな」
「それだけが取り柄でね」早苗が肩をすくめる。「で、いったい何の用で私たちを呼んだわけ?」
「おまえたちは、大川原さんの家に入っただろう」
「大川原?」
「そうだ。しらばっくれても無駄だ。おまえたちが窃盗団で、大川原さんの家に侵入したことは知っているんだ」
早苗は及川を見た。どうやらすでに、及川が喋っているらしい。だが、少しは抵抗してみることにした。
「証拠は?」早苗が髪をかきあげる。「私たちが泥棒だっていう証拠はあるの?」
「証拠ならございますよ」
突然、横から男の声がした。見ると、隣にある和室のふすまが開き、一人の男が現れた。
茶色いハットをかぶり、茶色いスーツを着た初老の男だった。男はサングラスのような色のついた眼鏡をかけ、顎ひげを生やしていた。背は小さいが恰幅がよく、貫禄があった。眉が太く、四角い顔の真ん中に大きな鷲鼻があった。浅黒くやけた肌は精力的であり、たくましい印象を与える。右手に葉巻を持ち、左手には金ぴかのステッキを持っていた。そのステッキをコツンコツンと鳴らしながら、ゆっくりと早苗の前に歩いてきた。
「はじめまして。わたくし、こういう者でございます」
男は慇懃に頭をさげると、スーツの内側に手を突っ込んだ。なかから名刺入れを取り出し、早苗とミクルにそれぞれ名刺を手渡した。そこには、「株式会社大川原ビルディング CEO 大川原雄二」と書かれていた。
「あなたが大川原さん、ね」早苗は名刺と男を交互に見ながら言った。
「さようでございます」丁寧な口調で大川原が言う。
「ここにいる男の人たちは、あなたの部下なの?」




