泥棒たちは電話で呼び出される③
「え、あれで?」
「寿命が十年縮んだ」
「競技レースのときは、もっとスピード出すんだよ?」
「あのトラックの間をすり抜ける瞬間なんて、絶対に死んだと思ったわ」
「早苗さんは、もっと肝が据わってると思ったんだけどね」
「しばらく、ミクルちゃんの助手席には乗らないようにするわ」
ミクルがけらけらと笑っていると、スマホの着信音が鳴った。早苗は手に持っているバックを見た。なかから小刻みな振動が伝わる。バッグのなかに手を突っ込み、スマホを取り出した。見ると、画面には及川の名前が表示されていた。
「先生からだわ」
「もしかして、先生も尾行されていたりして」
「可能性はあるわね」
「とりあえず出てみたら?」
早苗は通話開始のボタンを押した。
「もしもし」
「早苗さん、今どこにいますか?」
及川は開口一番そう言った。早苗はそれを聞いて、妙な感じがした。声に張りがあり、緊張しているのがわかったからだ。
「どうしたの?」
「早苗さん、今どこにいますか?」オウムのように、及川は同じ言葉を繰り返した。
「すぐ近くに東京タワーがあるわ」
スマホから及川が離れるのがわかった。ぼそぼそと小さな声が聞こえる。スマホの向こうで、誰かと喋っているようだった。しばらく沈黙が続く。
「ミクルさんと一緒ですよね」また、及川の声が聞こえた。
「そうだけど」
「今から、僕の家に来れますか?」
「先生の家に? どうして?」
「今すぐ来てほしいんです」
「私たちはこれから、川崎に行くんだけど」
「お願いします、来てください」及川が懇願する口調で言う。
早苗はミクルを見た。訝しい表情で彼女を見る。ミクルは「どうしたの?」と不審そうな顔をして言った
「なんか、家に来てほしいんだって」
「先生もコストコに行きたいのかな?」
「いや、そんな感じじゃない。しかも、誰かといるみたい」
「誰か?」




