泥棒たちは電話で呼び出される①
「つけられてる?」
横にいるミクルを見た。ミクルはハンドルを握りながら、ちらちらとサイドミラーを確認していた。早苗もルームミラーを見て、後方を確認する。
「後ろのベンツ、高速に乗る前からついてきてる」
見ると、確かに二十メートルほど後方に、黒塗りのベンツが見えた。一定の距離を保ち、ぴったりとついてくる。
「本当に? 覆面じゃないの?」
「違うよ。ナンバーが違う。それに、覆面はベンツなんか乗らないでしょ。クラウンでしょ」
「そうね」
顎に手をあて考えた。早苗はまったく気づかなかったが、ミクルが言うのなら本当なのだろう。ミクルは運転のプロだし、それよりなにより、案外適当なふりをしてちゃんと周りのことを見ている子なのだ。
「ミクルちゃんは、つけられることに心当たりある?」
「ないよ」ミクルがくすっと笑う。「売れっ子アイドルでもあるまいし。誰かにつけられる覚えなんてないよ。早苗さんは?」
「私もよ」
「本当に? 実は早苗さんには隠している彼氏がいて、その彼氏が早苗さんの浮気を疑って探偵でも雇ったんじゃないの?」
「そんなわけないじゃない」早苗が呆れた顔をする。
「どうする?」
「減速してみて」
早苗の指示に従い、ミクルが速度を落とした。ゆっくりとブレーキを踏み、八十キロまで速度を落とす。すると、後ろのベンツも同じような動きをした。速度を落として、車間距離を一定のままに保っている。
「ほらね」
ミクルが得意そうに言う。早苗はルームミラーを見て、ベンツを凝視した。
「乗ってるのはどんな人だった?」
「わからない。そこまでは確認してなかった」
「まあ、あのベンツの感じからして、乗ってるのは真面目な会社員とは思えないわね」
「どうする?」ミクルが横目で早苗を見る。
「飛ばして」
早苗の言葉を聞き、嬉しそうにミクルが笑う。
それから一気にGTRが加速した。さっきまで静かだったエンジンが、途端に唸り声をあげる。インパネの中にある速度計の針が、一気に150という数字を指した。早苗はシートに背中を押しつけられながら、ルームミラーを見た。GTRの加速に合わせて、ベンツも急加速していた。車間距離を空けられないよう、懸命についてくる。