表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/123

泥棒は教会へ行き、そして別れる②


「でもまさか、こんなに上手くいくとは思いませんでしたね。まんまとキングさんが騙されてくれて、良かったですよ」


「大川原が偽物の絵を持って来たのが大きかった」早瀬が口に煙草を加える。禁煙なので、加えたままもて遊んでいた。「大川原が途中で偽物だと気づいていたら、この作戦は失敗していただろう」


「つまり、自分の絵のおかげだと言いたいわけ?」早苗が早瀬を見る。


「いや、そんなことはない。これは、君が考えた作戦だ。君の立てた作戦が良かったし、それになにより、俺たちにはツキがあった」


「天網恢恢疎にして漏らさず、ってやつですね」及川が腕を組み、何度もうなずく。


「終わりよければすべてよし、かもね。絵を取り返すことはできたし、大川原も始末することができた」早苗が髪をかきあげる。「アンティーブ岬も失わずに済んだしね」


 早苗の指示した通り、大熊はアンティーブ岬を回収していた。アンティーブ岬の盗難はニュースで大々的に報じられており、大熊は念のため都内を離れて他県に行き、そこで密かに絵を保管している。


「まあ、あの後キングの家から帰ってくるのは大変だったけどね」早瀬が苦笑した。


「なにかあったんですか?」


「俺の部下になれって、うるさかったんだ。うまく断るのに骨を折ったよ。無下に断って機嫌を損ねたら、なにをされるかわからないからね」


「部下になってたら、大川原に直接手を下せたかもね」ミクルが能天気に笑う。


 早苗たちが談笑していると、教会の入り口から里美が入ってきた。早苗と最初に会ったときのように、グレーのパンツスーツを着ている。髪をアップにして、ヒールの音を鳴らしながら歩いてきた。


「みなさん、お待たせしました」


 里美が声をかけると、一同が立ち上がった。


 今日、里美に絵を返すことになっていた。早瀬が盗んだ、ルーベンスの未発表の作品。里美の父である、ルマークの形見の品。


 早瀬がアタッシェケースから絵を取り出した。それを、里美に渡す。里美は受け取ると、微笑みを浮かべてゆっくりと眺めた。


「里美さんごめんなさいね、迷惑をかけちゃって」


「君が謝ることはないよ」早瀬が早苗の言葉を打ち消す。「これは元々、僕が盗んだものなんだ。責任はすべて、僕にある」


「そうだよ。早瀬さんが絵を盗まなかったら、こんな面倒なことにならなかったんだから。あたしたちだって、大川原に脅されることもなかったし」ミクルが唇を尖らせる。


 里美はくすくす笑っていた。それから、西側の壁に移動し、絵をかけた。そこはもともと絵が飾ってあった場所で、早瀬が盗んだ場所でもあった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ