泥棒たちのすり替え大作戦⑥
「ちょ、ちょっと待ってください、誤解です。私が、そんなことするわけないじゃないですか。この絵だって、本物ですよ」
「そこにいるじいさんは、日本でも有数の鑑定人だ。おまえがルーベンスを見つけたと言ったから、手配したんだ。なあじいさん、この絵は本当にルーベンスが描いたものなのか?」
キングがそう訊ねると、老人は首を左右に振った。
「だそうだ。俺も見てみたけど、この絵は偽物だ。確かによく描けてはいるが、ルーベンスのものじゃない。おまえ、こんな絵で俺の目を欺けると思ったのか?」
大川原は落ちている絵を拾った。顔を近づけ、食い入るように見つめる。
偽物だった。よく描けてはいるが、細かいところでルーベンスの筆致とは違うところがある。絵具もまだ新しいようだったし、本物のルーベンスの絵とは明らかに違っていた。
だが、それはおかしな話だった。大川原が早瀬からこの絵を奪ったとき、それは本物に見えた。自分の目を信用しすぎないように、知人の鑑定人にも見てもらい、その男からも太鼓判を押された。だがいま手にしている絵は、明らかに贋作だった。これはどういうことだ? と頭の中が混乱でいっぱいになる。
黙っている大川原を見て、キングが愉快そうに笑った。「残念だったな。騙すことができなくて」
「これは、私の部下の早瀬が入手したものです。奴が本物だと言って、私はそれを信用したのです。あなたを騙そうとしたのは私ではなく、奴ですよ」
「早瀬はどこにいる?」
「あの男は逃げました。いまは、どこにいるかわかりません。きっとこうなることを恐れて、行方をくらませたんですよ」
「おい、出て来い」
出て来い? 大川原はキングの言葉を聞き、訝しい表情を浮かべた。しばらく待っていると、リビングの奥にある廊下から一人の男が姿を現した。早瀬だった。
「そりゃあ見つからねえよな。なんたって早瀬は、ずっとここにいたんだから」
大川原は目を見開き、口をぱくぱくさせていた。驚きと混乱で、言葉を発することもできない。
「なあ、早瀬、こいつは俺を騙して偽物の絵を売ろうとしたんだよな?」
「そうです」早瀬がうなずき、静かに答える。
「おまえ、どうしてここに・・・」
「俺にたれこんできたのは、こいつだったんだよ」キングが親指で、後ろにいる早瀬を指す。「おまえが偽物の絵を売ろうと画策していることを教えてくれたのは、こいつだったんだ」
「早瀬が?」
「そうだ。なんでもおまえ、こいつに絵を描かせたそうじゃねえか。それをルーベンスの未発表の作品だと偽るなんて、大胆なことを考えたもんだよ」