泥棒たちのすり替え大作戦⑤
「真の敵は自分自身であることを心得ているほどには、賢いと思います」
「なにかを見たら、そこからなにを引き出すかが重要だ」キングが話を続ける。「おまえは俺を見て、いったいなにを感じる?」
「あなたのために、貢献したいと考えています」
「ねずみ臭いな」キングが顔をしかめる。「さっきからこの部屋は、ねずみ臭いぞ。なあ、阿久津、おまえもそう思わないか」
阿久津は無表情だった。なにも言わずに、じっと前を見て立っている。
「絵を見せてみろ」
唐突にキングが言った。大川原は弾かれたように動き、アタッシェケースをテーブルの上に乗せた。それから開いて、キングのいる方に向ける。
キングがとなりにいる老人に目配せした。老人はうなずいて、眼鏡をかけた。ゆっくりとした緩慢な動作で、アタッシェケースから絵を取り出す。小刻みに震える手で絵を持ち、じっくりと眺めた。
「鑑定人ですか?」大川原は訊ねたが、キングは答えなかった。
しばらくしてから、老人が首を左右に振った。キングは絵をひったくり、食い入るように見つめた。
「なにか問題でもありましたか?」
突然、キングが絵をテーブルに叩きつけた。何度もテーブルに叩きつけ、それから拳銃を手に取って台尻でテーブルを叩いた。派手な音を立てて、テーブルのガラスが割れる。大川原はあっけにとられながら、それを見ていた。
肩で息をあえがせながら、キングが大川原を見た。矢で射るような、鋭い目だった。「レストランの良い点は?」
「は?」
「レストランの良いところはなんだ?」
「食べ方を見て、相手を学べることですか?」
「その通りだ」キングが歯をむき出して笑う。「大川原、おまえは食べ方が汚い。俺が今まで見てきたなかでも、もっともマナーの悪い人間だ」
「いったい、どういうことなのでしょうか?」
キングが拳銃の引き金を引いた。天井のシャンデリアに当たり、割れたガラス片がぱらぱらと降ってくる。「おまえの食べ方は汚い。まるでむしゃむしゃとチーズをかじる、どぶねずみみたいだ」
「お、落ち着いてください。いったい、どうしたんですか?」
「今日の午前中、一件の連絡があった。大川原、おまえが偽物の絵を売ろうとしているという、たれこみだった」
「偽物の絵?」大川原が目をむく。
「おまえが金持ち相手に偽物の絵を売りさばいているのは知っている。だがまさか、この俺にまでそんなことをするとは、思ってもいなかったよ」