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泥棒たちのすり替え大作戦③


 大川原は門の前に立った。背の高い、体格の良い男がぺこりとお辞儀をする。筋骨隆々で、角ばった身体はスーツをパンパンに膨らませていた。


 男は頭を上げると、なにも言わずに踵を返した。玄関へと向かう。男は阿久津という名前で、もとは傭兵だったらしい。いまはキングの側近で、ボディーガードを勤めていた。いつも無表情で、口数は少ない。大川原はキングとそれなりに長い付き合いがあるが、阿久津の声を聞いたことは数えるほどしかなかった。


 大川原は阿久津に続き、キングの家へ上がった。室内は白亜の豪邸といった感じで、壁や床もすべて白で統一されていた。南洋の高級リゾート地にあるホテルのようで、背の高い観葉植物がたくさん置かれている。


 リビングに入ると、ソファにキングが座っていた。派手な柄のシャツを着ていて、腕にはフランクミュラーのコンキスタドールが光っている。テーブルの上には紙があり、なにやら絵を描いているようだった。白い画用紙に、鉛筆を走らせている。となりには、スーツを着た白髪の老人が座っていた。


 キングと会うときは、いつも緊張する。ずんぐりむっくりで黒髪のおかっぱという奇妙ないでたちをしているが、この男は怒らせると手がつけられない。どこが怒りのスイッチかもわからず、彼と接するときは神経を過敏に張り巡らせる必要がある


 阿久津がキングの後ろに立った。腰を曲げ、キングの耳元でなにかを囁いた。


「おい、大川原、まあ座れよ」キングが下を向き、絵を描きながら言った。


「失礼します」


 テーブルの上には、現金が山積みされていた。ルーベンスの代金なのだろう。相場の十分の一の値段でも、かなりの量だった。大きなガラスのテーブルいっぱいに、札束が並んでいる。大川原は唾を飲んだ。興奮していることは、悟られないように注意した。


「おい、大川原、おまえ最近どうなんだよ? 仕事のほうは順調なのか?」


「おかげさまで」大川原が再び頭を下げる。「すべて順調に進んでいます。リゾート地の開発は地域住民と少し揉めていますが、有力者には地元選出の代議士を通じて別個の説明会を開きます。きっと、うまくいくでしょう」


「あのバカ息子、金の嗅覚だけは敏感だからなあ」キングが顔を上げ、大きな口を開けて笑った。


 大川原が所有する企業のリゾート開発は、地域住民の反対にあって難航していた。海沿いの村に、ホテルを誘致して人工ビーチを整備する計画だ。その人工ビーチの整備費用を、村が二割負担することを地域住民は良しとしていなかったのだ。


 そこで地元選出の代議士を繋いでくれたのは、キングだった。二世議員で、年齢は五十代前半とまだ若い。爽やかな風貌とは裏腹に金に汚いその代議士を通じ、地元の有力者たちに「お手当」を配る。市民的義務感に燃えた住民たちを黙らせるには、全員に納得のゆく説明をする必要はない。群れのリーダーに、いくらかの小遣いをやればすべて丸く収まるのだ。


「ご協力していただき、ありがとうございました」大川原が慎み深い笑みを浮かべる。


「まあ、いいってことよ。おまえがあそこにリゾート地を造るのは、俺にとっても好都合だ」



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