泥棒たちは買い物に出かける①
その日、早苗は泥棒仲間の枢木ミクルとドライブをしていた。
窃盗に入ってから三日後だった。ミクルの運転する車に乗り、首都高速を走っていた。ちょうと神田橋ジャンクションのあたりを過ぎたところで、皇居が近くに見えた。これから神奈川県へと向かい、アメリカの由緒正しい会員制の倉庫型スーパーへと向かうのである。
六月のよく晴れた土曜日で、午前中だというのに気温は三十度を超えていた。サングラスをかけ、ハンドルをにぎるミクルは長い髪を真っ青に染めていた。丈の短いワンピースも青色で、とても涼しそうだったが、やたらに「あついあつい」と連呼して、クーラーをガンガンにつけていた。
首都高速は混んではいなかったが、交通量は多かった。異常気象もなんのその、家族連れやカップルの車が多かった。どんなに地球環境がおかしくなっても、人間たちには関係ない。こんなに暑くなっても、レジャー日和となればみんなこぞって、明るい顔で外へと出かける。早苗は、車に乗っている人たちの顔を眺めるのが好きだった。人間模様を観察し、その人々の生活や日常の一ページを垣間見るのが好きだった。
「ねえ、次はいつ仕事やるの?」
車線を変更しながらミクルが言った。GTRのステアリングが、車体を滑らかに移動させる。前方を見つめるミクルは、暑さにまいっているのか顔をしかめていた。
「仕事って、このあいだやったばかりじゃない」
早苗は三日前の盗みを思い出す。現金で一千万の収入。情報提供料として大熊に十パーセントを渡し、残りを三人で山分けした。ミクルには三百万以上の収入があるはずだが、それでも物足りないのだろう。好きなアイドルを応援するためには、金に糸目はつけない女だった。
「ねえ、早苗さんも知ってるでしょ。あたしがどれだけ推し活に命を賭けているか。月に一回の仕事じゃ、全然やっていけないよ」
ミクルは頬を膨らませた。文字通り、風船みたいに膨らませた。早苗はその様を見て、微笑ましく思う。ミクルはまだ二十歳の、若い女の子だった。身長も小さく華奢で、まるで子供のように見える。大きな丸い目は愛嬌があり、笑うと白い八重歯が光った。そんなあどけなさの残るミクルを、早苗は妹のように感じていた。優柔不断でわがままで、猫のような気分屋な性格も可愛らしく感じてしまうのだ。
「それはわかるけど。でもねミクルちゃん、あんまり無駄遣いしちゃダメよ。せっかく稼いだお金なんだから、もっと大事に遣わないと。ミクルちゃんはまだ若いんだから、将来のことも考えて少しは貯金するべきよ」
「親みたいなこと言わないでよ」ミクルはさらに頬を膨らませた。
「それ、先生にもよく言われるわ」このあいだのやり取りを思い出し、早苗は笑ってしまう。
「でも、できるんだったらもっと仕事増やしたいな。こういうこと言ったら、普通の会社では喜ばれるんじゃないの?」