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泥棒たちは再び作戦を練る⑧
ミクルがそう言うと、早瀬がうなずいた。話を理解した及川はしぼんだ風船のような顔をし、さっきまでの元気がどこかに行ってしまった。
「無理じゃないですか・・・」及川が風船から空気が抜けるような声を発する。
「いや、そんなこともないわよ」そこで早苗が、しっかりとした口調で言った。顔には少し、笑みが浮かんでいる。「偽物の絵は用意できないこともないわ」
「どうやって準備するんだ?」
早瀬が訊ねると、早苗は楽しそうに彼の顔を眺めた。「少し急がないといけないけどね」
「どういうことだ?」
「ねえ、里美さん、急いで用意してもらいたい物があるの」
早苗は助手席にいる里美に声をかけた。いくつかの道具の名前を言い、それを至急準備してもらうように頼む。里美はそれを聞くと、すぐに電話をかけた。
「早苗、まさか・・・」
驚くような目をしている早瀬を、早苗は笑顔で見つめ返した。頭の中には、彼に連れて行かれた廃工場にあった絵の、日傘をさした白いドレス姿の女性が浮かんでいた。