泥棒たちは再び作戦を練る⑥
「でも、父の絵を諦めるわけにはいきません。私の両親は、ともに死にました。残っているのはあの絵だけで、あれは父と母の大切な思い出の形見なんです。キングの手に渡るのならば、そのまえに取り返します」
「盗むのは難しくないかもしれない。きっと大川原は、自宅の金庫に保管している。だが、そうしたらキングの怒りを買うのは君だ。あの男は異常なほど執着心が強いし、粘着質だ。騙されたり、自分が手に入れようとしたものを奪われることを、死ぬほど嫌う。君が無事に絵を取り返したとしても、キングは血眼になって犯人を捜そうとするだろう」
「私に結びつかないように、うまくやります」と言いつつも、里美の口調は明らかに憂鬱感をはらんでいた。
「でもさあ、里美さんが絵を盗んでくれることは好都合じゃないの? そうすれば、大川原はキングが欲しいものを用意できなかったことになる。キングは犯人を捜すだろうけど、当然その怒りは大川原にも振り向けられるんじゃないの?」
確かにそうだった。そもそもアンティーブ岬を佐々川に持ち込もうとしたのも、キングの怒りを大川原に仕向けるためだった。大川原はルーベンスを献上しようとしている。それを盗むことは、当初の目的を達成することと変わりはしないはずだ。
「いや、無理だろうな」だが早瀬は、ミクルの言葉を打ち消すように言った。「そりゃあ、多少の怒りを振り向けることはできる。だが、君たちの狙っているように、キングに大川原を処刑させることはできないだろう。あの二人は様々なビジネスで利害をともにしている。ただ盗まれただけだったら、キングもそこまでのことはしないだろう。それに、大川原は口が達者だ。うまいこと犯人に怒りを仕向けさせて、自分は回避するだろうね」
「じゃあ、アンティーブ岬の作戦も、あまり意味はないってこと?」
「そうだな。その作戦も、あまり意味はない」早瀬がかぶりを振る。
「じゃあもう、逃げましょうよ」そこで及川が悲痛な声を張り上げた。「里美さんには頑張って絵を取り返してもらって、僕たちは逃げましょうよ。もう大川原さんのことは放っておいて、どこか遠くへ逃げて身を隠しましょうよ。腕や足を切り落とされる前に」
「その意見には賛成だな」早瀬も同意する。「小説家の先生の言うように、僕たちは逃げるのが賢明だろう。絵を取り返したければ、好きにすればいいさ。ただ、それは僕たちにとってなんの利益もない。逃げられるうちに逃げて、できるだけ遠くへ行くべきだ」
「そうはいきませんよ」里美がはっきりとした口調で言う。「あなたたちは父の絵を盗んだ。少なくとも、絵を盗んだ件に絡んでいる。このまま一緒に、絵を取り返す作戦に協力してもらいます。私が持っているのはゴム弾ですが、運転している彼は本物の拳銃を携行していますよ。父の友人たちも、私たちの車を追跡して監視しています。抵抗は無駄です」
里美がそう言うと、運転席の男が挨拶するように片手を上げた。その手には拳銃が握られていた。
「日本語わかるんじゃん」ミクルがぼそっと言う。
「絵を盗んだのは早瀬さんで、僕たちは関係ないですよ!」