泥棒たちは再び作戦を練る③
「狭い業界と言っても、情報を広げるのは大変なことだわ。あなたのお父さんの友人たちは、よほど力があるのね」
それから早苗は、ピンと頭に閃くものがあった。
「ねえ、もしかしてルマークの指環っていうのは・・・」
「そうです。父が母に贈った物、泥棒ルマークが教会のシスターに贈った物は、指環ではなく絵でした。麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た美しい女性、私の母を描いた絵です」
早苗にはなんとなく話の繋がりが見えてきた。パズルにピースが埋まるように、頭の中にあるキャンバスに絵具が塗られるように、全体像が見えてくる。
「あの絵は、ルマークの指環だったのね」
早苗の言葉の意味を理解したのか、ミクルと及川も「ああ」と声を上げた。このややこしい事件の始まり、最初に大川原の家に侵入したときに、早苗は金庫にあった絵を盗んできた。そのときに早苗は及川にルマークの指環の伝説を話し、一緒に探そうと盛り上がった。まさか、すでに手にしていたとは知らずに。
「あの大川原さんの家にあった絵は、ルマークさんが描いたものだったんですね」及川が事実を整理するように、自分自身に言い聞かせるように言った。
「でも、あの絵を見つけたのは早瀬さんなんだよね? 確か、大川原がそう言ってたよ」
ミクルの言葉に、早苗と及川ははっとした。それから、早瀬のことを見た。彼は、ばつが悪そうな顔をしていた。
「あの絵は、どこで手に入れたの?」
だが早瀬は早苗の言葉を無視し、「あの絵は、マルセル・ルーベンスが描いたものだろう」と抗議した。
「ルーベンス?」ミクルがすっとんきょうな声を上げる。
里美は笑っていた。まるで、この複雑な状況を楽しんでいるかのようだった。
「あの油彩画のことを言ってるんだろう? 確かに僕は、盗んださ。たまたま足を運んだ教会で、ルーベンスを見つけたんだからな。悪いとは思っていた。でも、ルーベンスだぞ? それに、未発表の作品だ。いったいどれだけの価値があるか計り知れない」
確かにそれは、早苗としても疑問だった。あの絵は確かに、ルーベンスが描いたと思われるものだったからだ。そもそも大川原がマイクロチップを仕込み、何としてでも取り返そうとしたのは、あの絵がルーベンスが描いたものだったからのはずだ。大川原も言っていた。この絵はルーベンスの未発表の作品で、非常に価値があるんですよ、と。
「そうね。確かにそれはそうだわ。あの絵はルマークではなくて、ルーベンスが描いたものよ」
「あなたが盗んだのですね」里美がいささか、厳しい口調になった。振り向き、冷たい眼差しで早瀬のことを見る。