泥棒たちは再び作戦を練る②
その発言は衝撃的だった。早苗、ミクル、及川の一同が目を見開いた。
「じゃあ、指環を盗んだ泥棒ってのは、あなただったの?」
里美はくすくすと笑っていた。それから「私は泥棒ではありませんよ。それに、指環を盗んでもいません」
「じゃあ・・・」
「もともと、私が所有していました。ルマークの指環は、父の形見です」
話が混乱するばかりだった。里美はルマークの指環について話せば、全てを理解できると言った。だが、話が進むにつれて頭の中が混乱し、糸がもつれるように絡まるだけだった。
「ちょっと待って」早苗はあわてて声を上げる。「あなたのお父さんは、いったい何者だったの?」
「私の父は」里美がゆっくりと口を開く。「私の父は、ルマークです。世界一の泥棒と呼ばれていた男です」
車内がしんとなった。早苗はあんぐりと口を開け、言葉を発することができなかった。ミクルと及川も同じだった。私の父は、ルマーク・・・? さっき言った里美の言葉を理解しようと、一同が思い思いに頭を働かせていた。そこに、早瀬が口を開いた。
「誰がそんな話を信じろって言うんだ」
「信じてもらわなくても結構です。ただ私は、絵を返して欲しいだけです」
「絵? 絵って、アンティーブ岬のことか?」
「それはあなたたちが勝手に盗んだものです。あなたたちの仕事に対して、私は口を挟むつもりはありません。私が言っているのは、教会に飾っていた絵、ルマークが描いた絵のことです」
ルマークが描いた絵? ますます混乱してきた。早苗は落ち着こうと、額を指でこつこつと叩いた。
「あなたは確か、私に探し物をしていると言った。絵を盗まれて、それを探しているとね。それは教会に飾ってあった絵で、ルマークが描いたものだって言うの?」
里美はうなずいた。フロントミラー越しに、じっと早苗のことを見つめる。
「でもどうして、それが私たちと結びつくの?」
「あなたは教会で、ルマークの指環という言葉を口にしました」里美が話を続ける。「その言葉は、一種の符丁なんですよ。その言葉を知っている人間は、ごく限られています。泥棒という狭い世界、狭い業界に生きる人間だけが知っている言葉です。あなたは何の気なしに口にしたのかもしれませんが、それであなたが泥棒だってことはわかりました。そして、もしかすると父の絵を盗んだ件に絡んでいるのではないかと思って、マークしたんです」
「ルマークの指環が盗まれたって情報は――」
「そうです。私たちが流しました。正確に言えば私と、父の友人たちです」
早苗は驚いた。つまり、ルマークの指環が盗まれたという情報は、絵を見つけるために彼女たちが意図的に流した情報なのだろう。魚を捕まえるために、大きな網を広げたようなものだった。そして早苗は、たまたま立ち寄った教会で初対面の相手にその言葉を口にし、見事に網に引っかかったというわけだ。