泥棒たちは再び作戦を練る①
黒いバンの運転席には、外国人が座っていた。白い肌の、ブロンドの髪をした若い男。女性が英語でなにかを話すと、男はうなずいて車を発進させた。早苗たちのほうには見向きもしなかった。
女性は助手席に座り、早苗たちは後部座席に乗った。真ん中に早苗と早瀬、一番後ろにミクルと及川だ。ミクルはしきりに肩をまわし、「いやあ、監禁生活って肩がこるね。あいつら、丁寧にもてなすとか言ってずっと手錠かけてたんだよ」と文句を垂れている。
車がどこに向かうのかは告げられなかった。しばらく走ってから女性は振り返り、「申し遅れましたが、里美と申します」と自己紹介をした。
「日本人なの?」一番後ろの席から、ミクルが大きな声を出す。
「いえ、ハーフです。母が日本人で、父はフランス人です。本名は長いので、里美と呼んでください」
「里美さんね」早瀬が鼻白む声を出す。「で、いきなり本題に入るんだけど、どうして早苗のことをマークしていたんだ?」
「それだったら先に、どうして早苗さんと早瀬さんが二人きりでいたのかを訊きたいんだけど」ミクルが横から割って入る。
早苗は後ろを振り返り、「あのね、それは話すと長くなるの。いずれ、ちゃんと説明するからね」と意味深長な返事をした。ミクルはそれを聞いて、なぜか満足したような笑みを浮かべた。
「あの倉庫の場所がわかったのは、私をマークしていたから?」
里美がうなずいた。「そうです。ずっと早苗さんの後をつけていたので、その流れであの場所がわかりました」
「あなたたちは何者なの?」
早苗が訊ねると、里美は「どこから話したらいいものか・・・」と困惑気味だった。顎に手を添え、しばらく考えてから「たぶん、ルマークの指環の話からするのが、一番わかりやすいと思います」
「それなら、そうしてちょうだい」
「みなさんは、ルマークの指環はご存じですよね?」
里美が問うと、早瀬を除く一同がうなずいた。彼は泥棒ではなく業界の話題に精通していなかったため、首を傾げていた。早苗が簡単に、ルマークの指環の伝説を説明する。
「まるでお伽噺じゃないか」早瀬は一笑に付した。「そんなもの、子供に聞かせる童話の類と同じだ」
「いえ、童話でも空想でもありません。ルマークの指環は、実在します」
里美がそう言うと、車内が静かになった。彼女の言葉は静かだったが力強く、迫力があった。得も言われぬ、聞く者を説き伏せるような力があった。
「その伝説の指環を、里美さんは探しているんですね?」おずおずと、及川が訊ねる。
「まあ、探しているというか、もともとは私の物でした」