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泥棒たちは思わぬ助けを得る⑧
早苗は一同を見た。それから、静かにうなずく。
「大丈夫なのか?」早瀬が耳打ちしてきた。
「大丈夫だと思う。この人は、乱暴なことをする人じゃないわ。それに、私もこの人の話に興味があるの。ルマークの指環を探してるって話にね」
女性は再び微笑むと、ゆっくりと車に向かって歩き出した。早苗がその後をついて行く。溜め息を吐いたのち、早瀬も続いた。
「僕は用事を思い出したのでこれで帰ります」
及川が踵を返そうとしたとき、ミクルに腕をつかまれた。そのまま強引に、車まで引っ張られる。
「放してください」及川が懇願する。
「いいの? ここで帰っちゃったら、小説の題材になるような刺激的な体験ができなくなるよ」
「もう充分です」
「せっかくなんだから、もっと冒険したほうがいいよ。こんな非日常的な体験は、なかなかできないんだから」
事実は小説より奇なりなんだからね、とミクルが付け足した。及川は彼女に引っ張られながら、「こんな悪夢みたいな事実を見るぐらいだったら、つまらない小説を読んでるほうが百倍マシだ」と思った。