泥棒たちは思わぬ助けを得る⑦
外に出て、ようやく女の姿が露わになった。女は黒い迷彩服を着て、暗視ゴーグルをつけていた。背が高く、服の上からでも引き締まった身体をしているのがよくわかる。手には、自動小銃のようなものを手にしていた。
女が暗視ゴーグルを取った。長い栗色の髪の毛が垂れた。整った顔立ちをした、美しい女性だった。
「みなさん、怪我はありませんか?」女が問いかけた。彫刻のように美しい顔の、形のよい唇が動く。
だが早苗は、妙な気分に襲われた。なんだかこの女を、どこかで見たことがあるように思ったのだ。頭の片隅に、小石が引っかかるような感覚を覚える。どこで見たのか必死に思い出そうとしていると、突如、横にいた早瀬が拳銃を取り出した。おそらく、倒れている男たちのものを拾ったのだろう。
「どういうつもりですか?」女は眉一つ動かさず、淡々と訊ねる。
「どうしてここがわかった?」
「それなら、ここじゃない場所でゆっくり話しましょう。迎えの車を用意しています」
女が指さす方向には、黒い大きなバンが停まっていた。エンジンがかかっており、いつでも発車する用意ができていた。
「誰が乗るものか。あんたが何者なのかもわからないし、目的もわからない。結果として俺たちを助けてくれたようだが、だからといって信用することはできない」
「私はあなたたちに乱暴をするつもりはありませんよ。ただ、少し話が聞きたいだけです」
「話? いったい、なんの話だ」
「絵です」女が静かに答える。「あなたたちが盗んだ絵について、お話がしたいのです」
「お姉さんも、アンティーブ岬を狙っているの?」ミクルが純朴な目をして訊ねた。
女は小さく首を左右に振った。それから「私が探しているのは、ルマークの指環です」
「ルマークの指環?」
その言葉に反応したのは、早苗だった。それから目を見開いた。「思い出した。あなた、数日前に教会で会った人じゃない?」
早苗ははっきりと思い出した。いま目の前に立っている女は、数日前に教会で会った人と同一人物だった。早苗がふらっと足を運び、訪れた教会で会った女性。いまは迷彩服を着て自動小銃を持っているが、まぎれもなく彼女だった。
「覚えていてくれましたか」女性が微笑む。
「探し物をしているとか、絵を盗まれたとか言っていたわよね?」
「その通りです。お話しした内容まで覚えていてくれたんですね」
「どうしてここがわかったの?」
「正直に申し上げます。早苗さん、私はあなたのことをマークしていました」
「私のことを? どうして? どこから?」
「教会で会ったあの日から、ずっとマークしていました。詳しい事情はこれからゆっくりお話しします。なので、車に乗ってもらえませんか」再度、女性が黒いバンを指さす。