表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/123

泥棒たちは富豪の家で金庫を開ける➉


 早苗は鍵穴をペンライトで照らした。よく見てみたが、それは一般的なピンタンブラー錠だった。広く出回っていて、早苗が最も得意とする錠前の一つだった。


 早苗は腰のウエストポーチから、ピックとテンションを取り出した。ピッキングのために考案された、二大道具だ。それらを鍵穴に突っ込み、料理をするように素早くかきまわす。レシピは頭の中に入っている。感覚と経験が、頭の中に鍵穴内の映像をつくりだす。


 一分もせずに錠前を開けた。カチンという小さな音が響くと、及川が感嘆の息を漏らした。熟練の技師の腕前に、畏敬の念を感じたのだ。及川もITの専門家であるが、誰だって他の分野のプロフェッショナルの仕事を見るのは楽しい。


「さて、何が入っていると思う?」


 早苗がそう問うと、及川が顎に手をあてて考えた。「なんでしょうね。価値のある古い証文とか?」


「世界最古の株券とかね」


「オランダ東インド会社の株券ですね。世界初の株式会社の、世界初の株券。世界に一枚しかありません」


「もしそんな代物が入っていたら、私は明日から泥棒をやめるわ」早苗が苦笑する。


「まあ、とりあえずまずはご対面してみましょうか」


 早苗がうなずく。それから、引き出しをあけた。把手をにぎって手前に引っ張ると、長方形の箱は滑らかに動いた。そして、中身が露わになった。黒い布に包まれた、大きな薄い板のようなものだった。


「これはもしかすると、本当に世界最古の株券かもしれませんよ」及川が興奮した声をだす。


「株券がこんな大きいわけないじゃない」


「きっと大きな額縁か何かに入れられているんですよ。早苗さん、はやく見てみましょうよ」


 及川がせっつく。それに後押しされるように、早苗は手に取ってみた。持ってみると、案外重量はなかった。大きさはあったが、まるで薄い一枚の板を持っているような感覚だった。


「さあ、開けてみましょう」及川が鼻息を荒くする。指環の話をしてから、彼の心には冒険心が芽生えていたようだった。


 早苗が布をめくった。絹でできた高級そうな布は、しゃかしゃかという小気味よい音をたてて、するするとめくれた。まるで女性が、好意を寄せている男性の前で服を脱ぐような軽快さだった。


「あら」


「へえ」


 黒い服を脱ぎ、裸になったものの正体を見て、二人は目を見開いた。それは美しいものであったが、あまりにも予想外、意外なものであったため、思わず感嘆の息を漏らしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ