最後の晩餐
その日の夕食は普段より、ずっと豪勢だった。兄の大好きなハンバーグ。姉の大好物のカレーライス。私の好物のお寿司。でも、なぜ? 家族の誕生日でもないのに?
「今日で最後だからね」
と母親が答えた。
私は驚いた。今日で最後? 何が? なぜ?
母親は笑顔で答えた。
「私たち家族が一緒に食事するのが」
私は理解できなかった。私たちは普通の家族だった。父も母も兄も姉も私も、みんな健康だった。家族仲も良かった。それが何故、今日で最後なの?
母親は続けた。
「明日から私たちは別々になるんだよ。美咲も知っているでしょう?」
私は思い出した。そうだった。明日から新しい法律が施行されるんだった。
『人口削減法』だった。
人口が増えすぎて、地球の資源が枯渇する危機に陥った。政府は、人口削減法を制定した。その内容は、以下の通りだった。
- すべての家族は、一人だけ子供を持つことができる。
- 二人目以降の子供は、生まれた時点で殺される。
- すでに二人以上の子供を持っている家族は、一人だけ選んで残し、残りの子供は全員殺す。
- 子供を殺す方法は、家族に任される。
- 子供を殺さなかった場合、家族全員が死刑になる。
私は、三人兄弟の末っ子だった。私には、兄と姉がいた。私たちは仲良く育った。私は、兄と姉が大好きだった。
でも、明日から私は、兄と姉と一緒にいられない。私は、兄と姉が死ぬのを見なければならない。私は、生き残ることになっている。
母親は言った。「私たちは決めたんだよ。美咲が一番若くて可愛いから、美咲を残すことにしたんだよ」
父親も言った。「ごめんね。でも、これが一番いい方法だと思うんだ。美咲は幸せになってほしい」
兄も言った。「大丈夫だよ。僕らは美咲のことを応援してるよ。君は強い子だから」
姉も言った。「ありがとうね。美咲のおかげで、私たちは幸せな思い出を作れたよ。美咲は素敵な人になってね」
私は泣いた。「やめてよ。やめてよ。やめてよ」
私は叫んだ。「私も死にたいよ。私も死にたいよ。私も死にたいよ」
でも、誰も聞いてくれなかった。
今日で最後だからね。
今日で最後だからね。
今日で最後だからね。