破滅を回避したはずの悪役令嬢は、なぜか義弟に溺愛される ~「姉さんが婚約破棄されたら、僕がもらっていくはずだったのに!」という可愛い弟は、わたしと王太子殿下の結婚を絶対に認めないようです~
「カレン・スカーレット、私は……君との婚約を……」
わたしは目の前の婚約者の言葉の続きを、ドキドキしながら待った。これが、公爵令嬢であるわたしの運命の分かれ道だ。
婚約者の少年は学園の赤いブレザーの制服を着ていた。彼は、深呼吸してわたしをその美しい黒い瞳で見つめる。そして、同じく漆黒の流れるようなつややかな髪をかき上げた。
「君との婚約を、心から嬉しく思う。どうか、私が国王となったとき、良き王妃となってほしい」
アルストロメリア王国の王立学園。そのパーティの場で、17歳の王太子リチャード殿下は、顔を赤くして、わたしにそう告げた。
ホールにいた生徒たちが、一瞬シンと静まった後、わっと沸いて拍手の嵐が起きた。
「もちろん、よろこんで。わたしの心はいつでも王太子殿下とともにあります」
わたしは公爵令嬢としてふさわしく、優雅に微笑む。
そして、心のなかでしめしめ、と思った。
王太子殿下から婚約を破棄される。そんな未来をわたしは回避した。危ない所だったけれど、もう安心だ。
本来なら、わたしがそんな心配をする必要はなかった。名門公爵家の娘のわたしは、10歳の頃から同い年のリチャード殿下との婚約を決められていた。
わたしは自分で言うのも変だが、見てくれはいいだし、頭も良いし、家柄も礼儀作法も非の打ち所がないし。
性格は……あまり良くないかもしれないけれど、極悪人というわけでもない。リチャード殿下とは上手くやれていた。
わたしがお姉さん的な立ち位置で、いつもリチャード殿下を引っ張っていって、周囲も仲良しのわたしたちを微笑ましいものとして見ていた。
わたしも優しくて穏やかな殿下が嫌いじゃなかったし、このままわたしは王妃になるのだろうと思っていた。
ところが、面倒なことになったのは、王立学園の一年生、わたしたちが16歳になったときのこと。
王太子殿下に色目を使う少女が現れた。名も無い男爵家の娘だったけれど、愛らしい容姿をしていた。わたしが美人なら彼女は美少女という感じだった。
守ってあげたくなる、という表現がぴったりくる。
その子……アイリス・ブラウンは、王太子殿下に積極的にアプローチした。わたしという存在にも遠慮せず、王太子の側近からの冷たい目も、周りの名門貴族の女子たちからの嫌がらせにもめげず、ただただ「殿下、大好きです!」とアピールしていたのだ。
ある意味、その打たれ強さにわたしは感心していた。けど、わたしも悠長なことを言っていられなくなった。
殿下がアイリスに惹かれてしまったからだ。なぜ完璧超人美少女のわたしを差し置いて……と当時は思ったけれど、今ならわかる。
殿下には、自分を認めてくれて、甘え頼ってくれる女の子が新鮮だったんだ。わたしはその真逆だったから。
ともかく、そのままだったら、わたしは殿下との仲が冷え切り、最悪なら婚約破棄をされていただろう。
でも、なんとかわたしは挽回した。知恵をしぼり、殿下に好かれる策を考え、アイリスを出し抜いた……!
アイリスがパーティ会場の片隅で、呆然としている。彼女が殿下の愛を得て下剋上を狙っていたのか、本当に殿下のことを好きだったのか、そのあたりはわからないままだけれど、わたしはアイリスに負けるわけにはいかなかった。
今となっては、わたしは殿下の愛をふたたび獲得し、アイリスは敗者となった。わたしの殿下を奪おうとしたという最大の悪事を除けば、アイリスはアイリスで悪い子ではない。
勝者の余裕として優しくしてあげよう。
ほくそ笑むわたしは、家に帰ったら弟に予想外のことをされるとは思いもしなかった。
☆
わたしの弟のアレンは、とても良い子だ。二歳年下だけれど、年下とは思えないぐらいしっかりしている。
実はわたしは養女なので、アレンとは血がつながっていない。わたしがスカーレット公爵家に迎えられたのは、いわゆる政略結婚の駒の一つにするためだった。
分家の中から、容姿端麗で頭脳明晰な女の子を養女にしたとか。わたしが完璧美少女のはずである……!
6歳のときに突然引き取られたわたしを、アレンは姉として受け入れてくれた。「姉さん、姉さん」なんて慕ってくれて、可愛かったっけ。いや、今も可愛いんだけどね。
でも、可愛い……というより……今はかっこいい、かもしれない。
「お帰りなさい、姉さん」
夕方になって、わたしが王都の公爵屋敷に戻り、弟の部屋を尋ねると、アレンは微笑んで出迎えてくれた。
机に向かって、勉強していたみたいだ。冬だから、もう日は落ちていて、部屋の燭台に火を灯していた。
金色の髪に、青い瞳。超絶美形だ。昔はちっちゃかったのに、今ではわたしよりもずっと背が高い。学園の赤いブレザーの制服もよく似合っている。
「ただいま、アレン」
わたしはそう言って、扉を後ろ手に閉めて微笑む。ちなみに、わたしも帰ってきてすぐ弟の部屋に来たので、制服のブレザー姿だ。
公爵家の本拠地は、王都から離れた領地にある。だから、この王都の屋敷は、王都での政治のためと、わたしたちが王立学園に通うために使われていた。
実質、わたしとアレンの二人暮らしのようなものだ。もちろん、使用人はいるけれど、家族と呼べるのはアレンだけ。
お父様やお母様は養女のわたしにもとても優しいけれど、領地のお屋敷にいるからそれほど会う機会は多くない。
「今日のパーティで王太子殿下から愛の告白をされたんだって?」
からかうようにアレンが言う。それから、アレンは立ち上がって、こっちにやってくる。
わたしはふふっと笑った。
「そうそう、そうなの! これもアレンのおかげね!」
わたしがアレンに抱きつくと、アレンが顔を赤くして「ちょ……姉さん、やめてってば……」とうろたえる。
うん。そういう反応も可愛い。
アレンのおかげ、というのは嘘じゃない。
わたしが婚約破棄まっしぐらだったのを、立て直す計画を立ててくれたのはアレンだった。
年下ながらアレンのアドバイスは怖くなるぐらい的確で、アレンの言う通りにしていたら、王太子殿下の心をわたしへと取り戻すことができた。
アレンはまるで未来のことを知っているかのようで、とても頼りになった。
本当にアレンには頭が上がらない。
「わたし、今、とっても幸せ。リチャード殿下の心を取り戻すことはできたし、可愛い弟もいるし」
アレンに抱きついたまま、わたしはその綺麗なブロンドの髪を撫でる。わたしの言葉は本心だった。
でも、恥ずかしそうにしていたアレンが、その言葉を聞いて、急に真顔になった。そして、青い瞳でわたしをじっと見つめる。
「? アレン、どうしたの?」
「姉さんは幸せなんだね。でも、僕はちっとも幸せじゃないよ」
「え?」
わたしはアレンの言葉の意味を考える。どういうことだろう?
アレンは公爵家の次期当主で、頭脳明晰、眉目秀麗、スポーツも音楽もチェスも万能の優秀な子だ。
同級生の女の子にもとても人気らしい。なぜか誰とも付き合ったりしたという話を聞かないし、婚約者も決めていないけれど。
いったい、アレンは何が不満で、幸せじゃないのだろう?
「ね、アレン。何か困っていることがあったら、言ってみて? わたしが困っているとき、アレンは力になってくれた。だから、わたしもあなたの力になりたいの」
「……姉さんじゃ、僕の問題は解決できないよ」
「どういう意味、それ? わたしじゃ力不足ってこと?」
「いや……むしろ、姉さんが僕が幸せじゃない理由だから」
わたしはアレンを抱きしめるのをやめて、まじまじとアレンを見つめる。
わたしがアレンの不幸の理由? そんなはずない。わたしはアレンにひどいことなんて何もしていない。
ずっと仲の良い姉弟だったはずだ。
なのに……。
「アレンが不幸なのはわたしの不幸でもあるもの。わたしなんでもするよ? だから、アレンが何に困っているのか、教えて?」
「本当に何でもする?」
「可愛い弟のためだもの。わたしにできることなら、なんでもする」
「そっか……」
急にアレンは一歩、わたしに近づく。すぐ近くにアレンの整った顔があり、わたしはどきりとする。
そして、アレンはわたしを強引に抱き寄せる。
「きゃっ……」
「姉さんが悪いんだからね?」
そして、アレンは、わたしの唇にその唇を重ねた。わたしは何が起こったか、一瞬理解できず、頭が真っ白になる。
しばらく時間を置いて、アレンにキスされたということがようやく飲み込めた。でも、そのときもアレンはわたしの身体を抱き寄せて、情熱的にキスしたままだった。
アレンの体の温かさと胸板の硬さを感じ、わたしは頬が熱くなるのを感じた。
やがて、アレンがわたしの身体を解放する。
アレンの顔は真っ赤で、わたしを愛おしそうに見つめている。
わたしは混乱したまま、アレンに尋ねる。
「ど、どうして……こんなことをしたの?」
「姉さんが何でもするって言ったから」
「違う。そうじゃなくて……」
「僕が不幸なのは、僕が姉さんを好きだからだよ」
アレンは静かにそう告げた。
想像もしていなかった。
「あ、アレンがわたしを好き? 冗談でしょう?」
「冗談なんかでキスはしないよ」
「で、でも……」
「僕は可愛くて、良い子の弟なんかじゃない。姉さんが、リチャード殿下との婚約を破棄されればいいと思ってた」
「でも、アレンはわたしと殿下の仲を応援してくれたじゃない!」
「本当に殿下と上手くいくなんて思っていなかったんだ。僕は悪い人間なんだよ。……姉さんに気に入られたくて、僕は姉さんの役に立とうとした。僕は姉さんの役に立てた。だって、僕はこの世界で起きることを知っているから。姉さんは乙女ゲームの悪役令嬢で、僕は攻略対象で……」
アレンが何を言っているかはわからない。でも、たしかにアレンのアドバイスはあまりにも的確だった。まるで未来を知っているかのように。
「僕は姉さんのことがずっと好きだった。だから、姉さんが婚約を破棄されて、破滅しそうになったら、僕が姉さんを助けてあげて、姉さんと結婚するつもりだった」
「け、結婚!?」
「あんな浮気者の王太子殿下と姉さんが結婚するなんて、絶対に認めない」
アレンの青いサファイアのような瞳が明るく輝く。その瞳に強い意志を感じ、わたしはびくりと震えた
「どうしてもっと早く言ってくれなかったの? いまさら言われても、わたしにはどうにもできない」
「姉さんが言えって言ったからじゃないか。僕が不幸な理由を教えてほしいって言ったのは、姉さんだ」
「そうだけど……」
「それに、何でもするって言ったよね?」
「えっ……ちょっと、きゃあっ」
次の瞬間には、わたしはアレンにベッドに押し倒されていた。
もがいて逃れようとするが、男の子のアレンの力にはかなわず、そのまま腕を押さえつけられる。
「今……僕が姉さんをめちゃくちゃにしたら、リチャード殿下との婚約もなかったことになるよね?」
そう言うと、アレンはわたしの制服の上着を脱がしてしまう。そして、わたしのブラウスにそっと手をかける。
このままだと、わたし、アレンに……。
「や、やめて……アレン。いつもの優しいアレンに戻って」
「僕はいつも優しくなんてなかったよ。……ずっと姉さんをこういうふうにしたいと思ってた」
「嘘……」
「嘘じゃない。なのに、姉さんは僕の気持ちを知らないで、僕を抱きしめたり、髪を撫でたりして……そのたびに僕はドキドキしていたんだからね?」
アレンはわたしに覆いかぶさると、そのままわたしにもう一度キスをした。
このままだと、本当にわたし、アレンに抱かれてしまう。
「アレン……ダメだよ。こんなやり方、わたしもアレンも二人とも不幸になっちゃう……!」
わたしは傷物になって、殿下との婚約を破棄される。アレンも、婚約者のいる姉を無理やり抱いたなんて醜聞が広まれば、無事ではすまないだろう。公爵家から廃嫡・追放されるかもしれない。
でも、アレンは首を横に振った。
「僕の望みは姉さんを手に入れることだけなんだよ。だから、この後、どうなったっていい」
「わたしは良くないよ……」
「そんなにリチャード殿下の方が大事? 男爵家の娘なんかに浮気した男なんてどうでもいいよね?」
「違うの。わたし、アレンのことを嫌いになりたくない。かっこよくて、優しくて、、わたしのことを大事にしてくれた弟のことを、わたしは好きでいたい。だから、こんなやり方、ダメだよっ……!」
最後の方は、わたしは涙声になっていた。目からぽろぽろと涙がこぼれる。
こんな形で、アレンとの関係を壊したくない。
アレンもはっとした表情で「ごめん……」とつぶやくと、わたしの上からどいて、そしてわたしの髪をそっと撫でた。
アレンの手付きは優しくて……わたしは少しどきりとする。
わたしはベッドから起き上がり、立っているアレンを見上げる。
「あのね……アレンがわたしを好きだと言ってくれのは嬉しかった。でも……」
わたしはアレンの気持ちを受け入れられない。
だって、わたしにはリチャード殿下がいるから。
でも、わたしがリチャード殿下のことを好きかといえば……。アレンの言う通り、殿下はわたしを裏切ろうとした。今でこそ、殿下はわたしを大事だと言ってくれて、結婚するつもりらしいけれど、アレンのアドバイスなかったら、婚約破棄されていただろう。
そんな相手をそこまで大事に思う理由もない。わたしは王妃という地位を失い、破滅することが怖かった。
それに、負けたくないという思いから、殿下の気持ちを取り戻しただけだ。
それなら、もし本当にわたしが婚約破棄をされて、アレンに慰めてもらっていたら……。
わたしは本当にアレンを好きになっていたかもしれない。義理とはいえ、姉弟での結婚が許されるかはわからない。
ただ、わたしがアレンの気持ちを受け入れていた可能性があるのは確かだ。
アレンが寂しそうに、わたしを見つめている。
わたしはその目を見て、どくんと心臓が跳ねる。なんだろう? この感情は……?
そのとき、部屋の扉がノックされた。執事のようだ。
わたしとアレンは顔を見合わせ、慌てる。弟の部屋のベッドの上にいるところを見られたら、きっと誤解される。いや、ある意味では誤解ではないのだけれど……。
わたしは立ち上がってから、乱れた服を直そうとすると、アレンがそっとブレザーの上着を着せてくれる。
「ごめんね、カレン姉さん」
「ううん、ありがとう。アレン」
わたしは小声で言ってから、執事を部屋へと迎え入れた。
初老の男性執事は白髪交じりで、親切で忠実な家臣だった。
わたしとアレンの姿を見ると、彼は明るい笑みを浮かべた。
「相変わらず、お二方は仲がよろしいですね」
「ええ、そうですよ。それで用事は?」
アレンはにっこりと執事に笑みを浮かべる。
執事は笑みを消し、急に深刻そうな顔をした。
「実は王太子リチャード殿下が失踪しまして」
「え?」
「その……書き置きがありまして、内容は……」
執事はちらりとわたしを見た。失踪したというだけでも驚きだが、その理由はわたしには話しにくいことなのかもしれない。もともとここはアレンの部屋だから、アレンのみに話しに来たのだろう。
「いいわ。構わず言って」
わたしが頼むと、執事は迷った様子を見せたが、結局、話すことにしたらしい。
「リチャード殿下は……男爵令嬢のアイリス様と駆け落ちする、と」
「「は?」」
わたしもアレンも口をそろえて、ぽかんとした。
殿下はわたしを選んだのではなかったの?
執事はアレンに耳打ちをする。アレンは「うん、うん」とうなずき、複雑そうな表情を浮かべた。
やがて執事は話を終えると、「領地の旦那様たちにも、お手紙で急報しますので」と言って部屋から消えた。
あとに残されたアレンは、はぁっとため息をつく。
「アレン、これってどういうことなの?」
「執事によれば、実はリチャード殿下はやっぱりアイリスのことが好きだったんだってさ。ただ、それを表に出すと問題になる。アイリスも周囲から冷たい視線にさらされていたし。だから、表向きは姉さんと関係が上手く行っているように見せかけ……」
「駆け落ちの準備をしていたのね」
「辺境で二人で冒険者をやるとか書き置きには書かれていたらしいよ。生活していけるのかな……」
アレンはつぶやいた後、わたしの様子をうかがった。
「姉さん、大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
「その……ショックじゃないかなって思って」
まあ、全くショックを受けていないと言ったら、嘘になる。
ただ、殿下の浮気は二度目のことだし、それほど衝撃でもない。
それに……。
わたしは微笑んだ。
「平気、平気。あんなひどい殿下には愛想が尽きちゃった」
「そ、そうなの?」
「それにね、わたしには、わたしのことを一番に大事にしてくれる、可愛い弟がいるし」
わたしが言うと、アレンは恥ずかしそうに目を伏せた。
そして、上目遣いにわたしを見る。
「僕は……さっき姉さんにひどいことをしようとした」
「でも、途中でやめてくれたし。わたしのことが好きだから、ああいうことをしようとしたんでしょう?」
「そ、そうだけどさ……」
「許してあげる。わたしもアレンのこと、好きだよ」
「えっ。そ、それってつまり、僕を男として……」
慌てふためくアレンが、可愛かった。わたしはくすっと笑う。
「もちろん、弟として、ね」
「あっ、そっか……。それはそうだよね……」
がっかりするアレンに、わたしは微笑みかけた。
「男の子としても好きになるかは、これからのアレン次第かな。わたしが振られたら、慰めてくれるんじゃなかったの?」
わたしは一歩アレンに近づくと、アレンはかああっとその白い頬を赤くした。
これで、わたしは王太子殿下に振られてしまった。婚約の話は白紙。わたしは捨てられた女の子で……でも、男の人を好きになる自由を手に入れた。
その相手が、義弟であっても、問題はないと思う。正式な交際や、結婚となると、お父様たちが認めるかはわからないけれど、でも、少なくとも、わたしとアレンの一対一の関係では、何も困ることはない。
「ねえ、アレン。来て」
わたしがアレンに甘えるように、手を広げると、アレンはおずおずとわたしをハグした。いつもはわたしがアレンを抱きしめていたから、逆の立場だ。
これからは、わたしたちの関係も変わっていくのかもしれない。まだ、どうなるか決まったわけじゃないけれど。
アレンはわたしの耳元でささやく。
「僕が姉さんを絶対に幸せにするから」
「嬉しい、ありがとう。ね、さっきのお返し、してあげる」
「え……?」
わたしは背伸びをすると、そっとアレンを引き寄せ、そしてその唇に自分の唇を重ねた。
さっきと違って、わたしが主導権を握ってる。アレンは硬直して、わたしにされるがままになっていた。
しばらくしてキスを終える。わたしは抱きしめられたまま、首をかしげる。
「ねえ、いきなりキスされる人の気持ち、わかった? どうだった?」
「えっと、とても気持ちよかった……」
アレンは正直に言い、わたしは頬が熱くなるのを感じた。仕返しのつもりが、反撃されてしまった。
アレンはふふっと笑い、わたしの髪を優しく撫でる。わたしはびくっと震えた。
「照れるぐらいなら、キスなんてしなければよかったのに」
「だって、やられっぱなしは悔しいもの!」
「まあ、そういうところも可愛いんだけれど」
「ほ、褒めたって許してあげないんだから! 今度はわたしがもっと恥ずかしがらせてあげる」
「ふうん。でも、姉さん、気づいてる? 挑発なんかしていいの?」
「え?」
「男の部屋に二人きり。王太子との婚約はなくなったし、何の障害もない。そして、僕は姉さんを大好きなんだよ?」
「あっ……」
アレンは、抱きしめたわたしを、そのままベッドに優しく横たえる。さっきと同じ構図だけれど、今度はわたしはアレンを拒めなかった。
だって、わたしも……アレンのことを好きだから。
燭台の火が、ふっと消えた。真っ暗な部屋で、アレンがベッドの上のわたしに覆いかぶさる。
「だ、ダメ。せ、制服にしわができちゃう……」
「気にするのが、そこ? ねえ、姉さん、嫌だったら嫌って言ってね」
「あっ、アレン……」
アレンはわたしの唇をふたたび強引に奪った。そして、わたしの肩にそっと手を置く。
唇を解放すると、アレンはわたしにささやいた。
「姉さん、大好きだよ」
「アレン……わたしも……」
わたしの続きの言葉はそこで途切れた。四度目のキスをアレンにされたからだ。わたしはアレンの手と自分の手を重ね、身体を委ねた。
きっとアレンはわたしを幸せにしてくれる。王太子殿下よりも、他の誰よりも。
わたしは、そう信じることができた。
面白かった、続きが気になると思ったら、
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