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第98話 見つけたぞ


 構えを解いて木刀をぶらつかせているセリの懐に潜り込もうと、エメラルド色の苔で埋め尽くされた大地を駆ける。


 村の案内も一通り終わり、俺はセリに約束の稽古をつけてもらっているのだ。


「ほっ!」


 彼の間合いまで入ると、待ってましたとばかりに縦振りのカウンターが来た。

 ここまでは読めている。身長差のある俺相手に、横薙ぎの一撃なんか打ってくるはずがないからな。


 縦に振り下ろされたセリの木刀を、軸足回転でかわし、ガラ空きになったセリの胴体を狙う。


 セリがバックステップを踏んだ。

 しかしもう遅い。間合いはそう開かない。

 あとはこの剣を相手に当てるだ——


「ぐえっっ!!」


 当たらなかった。それどころか更なるカウンターを入れられた。


 ほんの一瞬。

 あとほんのわずかでセリの腹に木刀が当たるという所で、俺の首元に横薙ぎの一撃が入ったのだ。

 セリは縦振りの攻撃をして、それを俺に躱された直後だったというのに。

 

「はは〜ん引っかかったな? 兄ちゃん!」


 いや、更なるカウンターという表現は違うな。同じ、一振りの中で剣の軌道を変えやがった。

 はなから横薙ぎの攻撃を放つ腹積りだったんだ。さっきのバックステップも回避の為じゃなく、自分が剣を振る最小限の間合いを確保するためのか……

 

「兄ちゃんは目がいいからよぉ、一撃目を避けたらイケると思ったろ?」


 当たり前だ。

 だって明らかにセリの縦振りの一撃は、途中で軌道を変えられる様な速度じゃなかった。

 だから剣を最後まで振り切ったかを見なくても、問題ないと思った。

 なのに実際はどうだ。わけのわからんL型の軌道で木刀をぶち当てられた。


「それなりの疾風流相手にする時ぁな、普通一振りから6連撃まで繋げてくると思った方がいいぜ?」


 尻餅をついて咽せこむ俺に、セリが手を伸ばしてそう言った。


「うぅ……ゲホッ……6連撃ですか……?」


「疾風流はな、剣聖流と違って一撃一撃を大事にしねぇんだよ。元々ハズレる前提だからよ? 素早く次の一撃に繋げるために、全力で振った剣を寸止めする技術があんのさ」


「え゛……でもそんなの……」


 そんなの初耳だ。

 たしかにアインが似たようなやり方だったが、俺に疾風流の剣を教えたラルドはそんなこと一度も言ってない。

 てっきり、アインオリジナルの動きかと思っていた。


「はぁ……やっぱり知らねぇか。兄ちゃんよぉ、あんた剣はラルドに教わったんだっけか?」


「はい」


「あいつ、ワザとだか知らねぇが兄ちゃんにデタラメ吹き込んでんぞ?」


「…………は?」


「うーん、なんつーかな? めちゃくちゃなんだよ。守りの動きは瞞着流で、攻めは剣聖流と疾風流を中途半端に混ぜた動きっつー感じでよ?」


「守りの方はリディさんに付け焼き刃として……」


「あー……じゃあ付け焼き刃としてなら、その型はある程度機能してるからまあいい。

 けどなぁ、攻めの型は点でダメだ。それは強くなれる動きじゃねぇ。ましてや、ラルドの動きですらねぇ」


「どうしてそんなことを……」


「あー……そりゃ多分……」


 セリがバツの悪そうな顔をして頭をポリポリとかいた。


「え、何か知ってるんですか?」


「なんとなく見当はついたんだが」


「ついたんだが?」


「本人に直接聞きな。これは俺の口から言うべき事じゃねぇ」


「……」


 そんなこと言ったって、ラルドは今ここにいないし、いつ会えるかだって分かったもんじゃない。

 冗談じゃない。今すぐ問い詰めてやりたい。


「まっ! いねぇ奴のこと気にしたってしゃあねぇからな。無理だとは思うが、このことは一旦忘れな。

 それに、ここに滞在している間に少しはマシになんだろ!」

 

 そう言って、セリは苦笑しながら俺の肩を叩く。

 結局、納得がいかないまま稽古は終わった。


ーーー


「あれ? リオンとトリトンさん? 珍しい組み合わせですね」


 セリの稽古を終え、宿舎の方に戻ると2人が並んで何やら話していた。

 いや違うか。トリトンがリオンに何かを問い詰めているように見える。


「あっ! よかったディンたすけてくれ! この人が……」


 こちらに気づいたリオンが駆け寄ってきて、俺の背中に隠れた。

 

「トリトンさん……何したんですか……」


「その人がおれに『じょうきゅう』を教えろって言うんだ!!」


「じょうきゅう……? あ、上級魔術のことですか?」


「いかにも。貴公からこの少年が上級魔術を使ったと聞いたのでな。コツの一つでもと思い至ったわけである。

 ——だというのに……」


 トリトンがため息を吐きながらそう言った。

 意外だ。トリトンは人に教えを乞うような柄ではないと思っていた。


「だーかーら! おれはそんなの知らないって言っただろ!」


 そしてリオンはこの態度。

 しかし変だ。リオンは確かにあの時——渓谷での戦いの時に、上級魔術らしきものを使っていた。なのに知らないとは?


「リオン、トリトンさんが言ってるのはあれだよ。この前やってた遠くに風を起こすやつ」


「ん……あ、あー! あれかー!」


 そう、あれだ。さも簡単にあれなんて言っているが、大抵の魔術師が出来ない高等技術のあれだ。


「そうだ。それを教えて欲しいと、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も言っているのだ」


 圧が凄い。俺が来るまでどれだけ同じようなやり取りをしていたのだろうか。


「あれは精霊に頼んでるんだ!」


「ほう……それはいかにして?」


「?……ふつーに話してるだけだぞ?」


 声のトーンを変えないままグイグイと迫るトリトンに対し、リオンは不思議そうな顔をして首を傾げた。


「…………時間の無駄であったな。私は夕食まで一眠りするとしよう」


 根気強く聞き続けた甲斐は虚しく、トリトンが死んだ目をしながら首を落として、俺達に背を向ける。


「なんだと!!!! 教えてもらったら『ありがとう』だろ!!!!」


「ま、まあまあ落ち着いて……」


 トリトンの気持ちは分からんでもないがな。

 散々問い詰めたのに成果無しってのは、そこそこ心にくる。


「あ、トリトンさん!」


 リオンを諌めながら、トボトボと宿舎に戻っていくトリトンを慌てて呼び止める。


「なんだ」


「上級魔術のコツなら、村長の方が詳しいかもしれませんよ!

 妖精族は大気の魔素の使役に秀でていますから!!」


 と、本人(ドリュアス)は言っていたが、真偽の程は良くわからん。

 しかし、トリトンの機嫌が悪いまま夕食を迎えるのは良くない。こいつのドンヨリオーラは他者にも伝染するからな。

 この前も、野宿で飯が手に入らなかった時に、すんごい拗ね方して、周りの空気を最悪にしてたし。


「……そうか、では行ってくる」


 トリトンが進路を変え、再びトボトボと歩き出した。案内役のベルを探しに行くのだろう。

 何か彼の身になる情報があると良いが……


「ふん! なんだよあいつ!!」


 リオンが地団駄を踏んだ。

 まあどちらにも悪気は無かったからな。天然同士が起こした災難な事故だ。


 さて、俺は夕食まで一眠りするとしよう。

この胸の支えを誤魔化すためには、今はそれが1番な気がする。


ーーー


 夕食の時間になった。

 大きな焚き火のある広場へ呼び出されて、それを村のみんなと囲むように座った。

 とても大きな輪だ。今からフルーツバスケットでもやるんじゃないかってくらい。

 

「いや〜どれも美味ぇなぁ!!!」


 口いっぱいに料理を頬張ったロジーが声を上げる。


「まだまだおかわりありますよ〜」


 そんなロジーの前に、どかどかと料理が運ばれてくる。

 新鮮な肉、魚の干物、フルーツ、パンによく似た不思議な物体。凄い量の御馳走だ。


「病み上がりでそんなに食べて大丈夫なんですか?」


 ご馳走バキューマーと化したロジーの横腹をつつく。


「あ? 何言ってんだ! 食わなきゃ治るもんも治らねーだろ!!!」


「後で吐いても介抱しませんからね」


 そんな会話をロジーとしていると、俺の前にも一皿のスープが運ばれてきた。

 

「今日獲れた山猪のスープです」


「あ、ありがとう……ございます……」


 そっけない態度でスープを渡された。

 何故だかはわからんが、やはり俺だけエルフ達に嫌われている。

 後で村長に理由を聞いてみようかな……いや、そもそも理由があるのか……? 


「……あ、おいしい……」


 彼らの態度は冷たいが、スープは温かくて美味しい。

 ハーブかなんかで肉の臭みが消えていて、野菜も程よく柔らかい。リニヤットの屋敷の料理にも匹敵する絶品さだ。


 そんなスープに舌鼓を打つ俺を、横でクロハがじっと見つめてくる。

 いや、正確には見つめているのは俺では無く、スープの方か。


「クロハも食べるか?」


 そう尋ねると、クロハが喰い気味にコクコクと首を縦に振る。


「はい、熱いから気をつけろよ」


「あっ……あふっ、はふっ……んっっ!」


 忠告したのにも関わらず、スプーンにすくったスープを冷ましもせずに飲んだクロハが、ハフハフと息を漏らす。


 めちゃくちゃ美人な女の子が俺に顔を近づけ、顔を赤らめながら息を荒くしている。

 ……なんだろう、俺は今凄く、すごくイケない事をしている気分だ。とてもエッチだ。だがそれも良い。


「うほっ! たひかに熱ひーな!!」


「はふ! 兄ひゃんはよく平気はな!」


 せっかくクロハの放つ危険な色気に浸っていたのに、横のむさ苦しい男2人が息を荒くしてスープを飲みだしたせいで台無しだ。

 大気汚染だよ、大気汚染。


ーーー


 食事の輪はいつの間にか宴会の輪に変わっていた。

 理由はわからんが酒に酔うことが出来ない俺にとっては、少しい居づらい空気だ。

 だからか、気づけば1人その輪を外れて、村のはずれの湖に涼みに来ていた。

 とても静かで、周囲に浮かぶ精霊と合わさって幻想的な雰囲気を醸し出している。

 いい場所だ。


「おい、こんなところで何してるんだよ」


「?……なんだ、ロジーさんですか。 もう料理はいいんですか?」


「それは貴公こそだ。はむ見たところ大して飯も口に運ばず、こんな辺鄙な場所で物思いに沈むとは……

 何かあったのか?」


 ロジーの後ろからヌッと現れたトリトンがそう言った。

 彼が人の心配をするなんて、よっぽど俺の行動がおかしく見えたのだろうか。


「はは〜ん」


 そんなトリトンの言葉にどう返そうかと考えていたら、突然ロジーが眉を八の字にして、おかしな声を出した。


「さてはフラれたな〜? ぅひっく」


「はい?」


「んだよ水くせぇなぁ〜! こいつ(トリトン)はともかく、俺にくらい相談してくれたら良かったのによぉ〜」


「???」


 ロジーの言ってることがわからない。

 いったい何を勘違いしてんだ……?


「だーかーら〜クロハに振られちまったんだろ?」


「……は?」


「わかるぜ? あんなに親身になって世話してたもんなぁ〜……でもまあっ! そんな時もあるわな!」


 得意な顔をして俺の肩を叩くロジーと、横で頷くトリトン。見当違いもいいところだ。

 ベロベロに酔ってるだけだと思うが、それでも少しは、彼らなりの気遣いもあるのだろうか。

 となれば、いちいち反論するのも無駄なので適当に流そう。


「あはは……まあそんなところですかね。わざわざありが——」


「へぇ、なんだその話。俺にも聞かせろよ」


 知らない声だ。


『!!!』


 音もなく、いつのまにかロジーとトリトンの後ろに立っていたローブ姿の男がそう言った。 


 俺はずっとロジー達の方を見ていた。

 なのに、それが現れてから声を発する瞬間までの流れに、全く反応が追いつかなかった。

 ごく自然で、一瞬の出来事だったのだ。


「なっ! お前だ——」


 俺が一度瞬きする間に、即座に反応して振り向いたロジーが顎を蹴り上げられた。

 相手は信じられない柔軟性と素早さだ。


「曲者かッ!」


 そして二度目の瞬き。

 ロジーに続いたトリトンが、ローブの男の攻撃を避けた。

 今度は見えた。男が放ったのは回し蹴りだった。軌道が残像を残すほどの速さの蹴りだ。


「っあ——」


 しかし、男の回し蹴りを避けたことでトリトンは体勢を崩し、彼の側頭部には敵の追撃の拳が叩き込まれた。


 そして三度目の瞬き。

 ロジーとトリトンは地に伏して動かなくなった。

 俺はその光景を前に、いつのまにか尻餅をついていた。


「あ……あ……」


 声が出ない。

 足が動かない。

 フードで顔が隠れているというのに、男から伝わってくる殺気が俺の肌を焼いている。


「……」


 男は2人を倒して以降棒立ち、ただじっとこっちを見つめているだけで、何もしてこない。

 動きが読めない。

 恐ろしい。


「……ちょっと背が伸びたか? ディン」


 急に喋り出したかと思うと、男はそう言ってフードをめくった。


「えっ……あ、あれ……?」


 黒いフード中からは、月光に照らされた美しい銀髪が現れた。


「父さん……?」


「やっと見つけたぞ、賞金首」

イマイチピンとこない設定補完①

魔術の階級編


 魔術には階級が存在し、それらは規模や習得難易度、またある一つの条件によって決められる。


『初級』

詠唱3節で構成されており、事象の発生のみを効果とする。(発火等)

『中級』

 詠唱6節以下で構成されており、初級で発生させた事象を制御し、操作可能としたもの。(火炎弾等)

『上級』

 通常は掌に構築する魔法陣を、大気の魔素を利用して空中で発動させる。

『超級』

 大気の魔素を大量に取り込んで威力を増した中級魔術。(威力だけならディンの全力岩砲弾が近い)

『英級魔術』

 今を生きる人間が出し得る、最高峰の出力を持つ魔術。(ミーミル王都に○○○が張っている結界)

『災級魔術』

 人類を脅かす災いを鎮めるために、○○が○○からバックアップを受けた状態で行使する魔術。

(国蛇の覚醒もこれによって鎮められたので、大騒ぎにはならなかった)

『神級』

???


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