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第94話 エルフの大集落


「……本当にここなのか?

 貴公、商人に薬物でも吸わされたのではないか?」


「すってないぞ!!!

 バカにしてるのか!!!」


 地団駄を踏むリオンを、トリトンがはいはいと受け流す。

 

 まあ、トリトンがこんな反応をするのも無理はない。

 だって、丸二日近くかけて辿り着いたエルフの森が、草原のど真ん中に木が二本たってるだけの殺風景な場所だったのだから。


 リオンは自信満々に『ここだ!』って言ってるけど、正直信じられない。

 ——いやだって、信じられる方がおかしいだろ。


「……まっ、まあ流石にここからなんかあるんだろ?」


 セリが顔を引き攣らせながら、ピリついた空気をリセットするように、パンと手を叩く。

 流石のセリでも、少し動揺しているようだ。


「もちろんあるぞ。ほら!!」


 そう言ってリオンが手を3回叩く。


「!? 

 え、あれ? いつの間に……」


「!?

 幻惑魔術の類か……?」


「うぉ!?

 たまげたなぁ、こりゃあ……」


 本当に一瞬、一度の瞬きの間に、目の前には広大な森が広がっていた。

 リオンが手を叩くまでは、ただの殺風景な平野だったんだ。幻とかの次元じゃ無い……転移魔術か?


「ここのリーダーはトクベツらしくて、精霊におねがいして森を隠してるんだって」


「はーん、そりゃすげぇな……」


「あ、あと……ごめん。

 村までもうすこし歩くって……」


『……』


 リオンの一言によって、未知との遭遇で輝いていた俺達の瞳から一瞬にして光が消え失せた。


ーーー


「お待ちしてました。旅人の皆様」


 木漏れ日が照らす木々のトンネルをしばらく歩いていくと、出迎えが来た。

 長耳族(エルフ)だ。しかも今まで街で見かけたような人達と違って、民族衣装らしき物を身に纏っている、いかにも本物って感じのだ。

 顔つきもホリが深かったり、耳が大きかったり、血の濃さから違うことがわかる。

 やっぱ本場の長耳族の姉ちゃんはマブイな。


 出迎えてくれた長耳族の元にリオンが近寄って、自分の右耳を掴みながら頭を下げる。

 変わった挨拶のポーズだ。これが長耳族流か。


「おでむかえありがとう!

 おれはリオン! アスガルズの西のほうの村の子供だ! さっきも言ったけど、たすけてほしくてここに来た!」


「……あら、勇ましいお客さんですね。

 もちろん存じております、村長がお持ちです。さあ、ついてきて下さい」


「なんだ?

 黙ってニコニコしたまま見つめ合って……」


 そんな微笑ましい会話をしている2人を見て、セリが首を傾げながら、顎に手を当てた。


「ははは、何言ってんですかセリさん。

 2人なら喋って——」


 あれ? よく見たら、リオンと出迎えのお姉さん、口を全く動かしてない……

 じゃあさっきの会話は——


「念話だ。

 おそらくあの2人の会話を聴くことができるのは、私とディンのみだ」


 セリと揃って首を傾げる俺に、トリトンが顎を撫でながら説明してくれた。


「はーん、なるほど」


「え、なんで僕とトリトンさんだけなんですか……?」


「リニヤットの血には、老化を防ぐために長耳族の血が少し混ざっている。その影響であろう」


「へー……」


 あれ、でもたしかディフォーゼの家は長耳族とか異種族の血を嫌がってたよな?

 実際、ラトーナの母さんは肩身が狭いとかなんとか言ってたし。

 まあそこら辺の事情とか、ラトーナのこともあって聞きにくかったからなぁ……


「おーい、なにしてるんだディン!

 長のところまであんないしてくれるってー!」


 リオンの声に顔を上げると、いつの間にかみんなが大分先を歩いていた。

 

「あ、今行く!!」


 ともあれ、とりあえずはロジーの治療手段、そしてあわよくば俺の『魔術使えない病(?)』の手掛かりが掴めればいいのだが……


ーーー


〔今年は山猪がよく獲れるなぁ〜〕


〔去年空蛇を狩りすぎたせいだろうなぁ、今年は控えようぜ〕


〔ああ、そうだな。

 でもくそ〜

 空蛇美味いから好きだったのにぃ〜〕


〔ねぇ聴いた!? 隣の村で黒狼獲ったんだって!!!〕


〔お、マジかよ……あれの毛皮売れるからなぁ……〕


 案内のエルフの後を追って、森の中を進む。


「なんつーか薄気味悪ぃなぁ、この先に集落があるってのによぉ。静か過ぎやしねぇか?」


 セリが眉を顰めながらそう吐き捨てた。


 それもそうか、長耳族の念話を聞き取れないセリには、さっきの狩の会話も聞こえてないんだろうしな。

 人の声が全くしない村なんて不気味だろう。


「貴公に聞こえてないだけで、集落自体は活気に溢れているぞ」


「へぇ、そういうもんかぁ。

 けど念話なんかしなくたってよ、普通に話せばいいじゃんか」


「おや、そちらの槍の方と銀髪の……は念話を聞き取れるのですね。

 そしてそちらの剣士の方、日頃から念話を使うことは重要ですよ。それがそのまま狩の訓練に繋がるわけですから」


 先頭を歩いていた案内のエルフがそう答える。

 その際彼女はこちらに顔を向けながら話していたが、なぜか俺と目が合った際に少し顔を顰めていた。

 しかもトリトンのことは『槍の方』だったのに、俺の時だけなんか途中で言葉切ったよな? 

 露骨に嫌がられてんじゃん。なんか嫌われるようなことしたっけ……

 

「ほーん、そういや長耳族の狩は〝無音〟で有名だったな。

 するってーと、ガキのうちから念話を使って生活してんのか?」


「ええ、我々が言葉を発することは基本ありません。

 それこそ、こうした他種族との交流を除くと、産声を上げる時と婚姻の時だけです」


「はぇ〜……

 ——そんで話変わるけどよ、いつになったら村長んとこ着くんだ?

 曲がってばっかで、まだ民家の一つも見えねぇが……」


 たしかに、かれこれ30分近くは歩いている気がする。

 どう進んでも景色が変わらないせいで、自分達の正確な位置もわからない……


「……なるほど、これがこの集落の防衛機構だな?」


 トリトンは何か気づいたらしい。今日の彼はやけに冴えているな。


「というと?」


「本来、集落は森の中心にある。だから直進していれば着くはずなのだ。

 それをわざわざ、こうして何度も曲がって変則的な道を辿っているのだ。

 決まった通りに歩かなければ、辿り着けないような仕組みでもあるのだろう?」


「ご明察です、槍のお人。

 昨今、我々のように人里から離れて暮らす民族は、紛争に乗じて集落を襲われることが増えました。

 それを防ぐためにと、ドリュアス様が精霊達とこの集落を作り上げたのです。

 ——っと、失礼致しました。そんなこと話している間に、ちょうど到着です」


 そう言って案内のエルフが指差した先には、一つの白い穴があった。

 緑一色、一面木々で埋め尽くされた景色の中にポツンと存在するそれは、木々が互いに空間を譲り合うかのようにして形成された一つのアーチに、向こうから強い光が差し込むことによって、真っ白な穴に見えているのだ。

 出口——そう、まさに出口だと一目でわかる。

 

「やっとかよぉ〜!

 へへっ、俺が一番乗りだなぁー!」


 そう言って伸びをしたセリが、真っ白な穴に向けて走っていく。


「あ! ちょっ、急に走らないでください!!」


 セリに続いて走り出すトリトンやリオン、そしてまたもや置いてきぼりを食らう俺。

 待ってくれるのはクロハだけ——

 ……じゃなかったわ。クロハにも置いて行かれてたわ。


ーーー


「あ゛ー……やっと、ついた……」


「遅ぇぞ兄ちゃん」


「もっともだ。だらだらと歩くでないわ」


「いや、だから重いんですって!!!

 そんなに言うなら誰か変わってくださいよ!!」


 あーしんどい……

 なんで出口までが若干坂道になってるんだよ。吉田さ○りじゃないんだからさ、人おぶりながら坂道ダッシュして無事なはずないだろ。


「まあそれは良いとして、貴公も見てみろこの景色を」


 息絶え絶えになっている俺に構わず、トリトンが肩をつつく。


「うぅ〜……景色がなん——

 って、うおぉ……!!」


 全身の筋肉痛と疲労で少しイライラしていたが、そんな気分も目の前に広がる光景によって真っ白に洗い流された。


 

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