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第93話 魔装の壁


「魔装を教わりたいだと?」


「あ、はい……そうです」


 夜が開けて、森を出発する際にトリトンに声をかけた。

 

 魔装、すなわち魔力操作による身体強化。

 今現在魔術を使うことが出来ない俺にとって、唯一の戦闘手段だ。


 魔術が使えないということをセリ達に打ち明けたあと、まあ色々あってセリに剣の腕をみてもらうことになったのだが、始まって早々セリに待ったをかけられてしまったのだ。

 彼曰く、『魔装がおかしい』とのことだ。で、二言目は『俺は感覚でやってるから魔装は教えらんねぇ、トリトンの旦那にでも聞きな』だ。

 ってなわけで、たらい回しにされて今に至るのだ。


「貴公は既に魔装を習得しておろう?」


「できるにはできますが……持続できないんですよ」


 そう、俺の身体強化は非常に燃費が悪い。

 ゼロかマックスの出力しか出せないせいで、5分と持たないし、使用中は身体中に軋むような痛みが走る。


 まったく、ワンフォー○ールじゃないんだからさ。

 大して凄いパワー出せるわけでも無いのに、使うたびにこれってのは辛い。身体だけSMASHされても困るのよ。


「なるほど……な。

 よし引き受けた。では道中の休憩がてら手解きをしよう」


「ありがとうございます!!」


 よし、なんとか確約貰えた。

 目的地までは今日中に着くらしいし、気を引き締めよう。


ーーー


「ハァ……フゥ…………うっっっ

 お゛え゛ぇぇぇぇぇぇ……」


 やっと……やっと休憩だっ……

 まさか……

 3時間もぶっ続けで歩くなんて……

 しかも途中で獣族の子が倒れたから、また背負う羽目になったし……


「おい、膝をついてる暇などないぞ。

 教える事は多い。早急に立て」


 んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!

 またスパルタ指導が始動だ。なんちって、あははははははは!!


「ウギャアァァァァァァァァァjgdvddk7もdmldYa&&r&”;!?!?!?!?」


「おいどうした! ついに狂ったか!!」


「ふへへへはへひひひひひッ」


「おいしっかりしろ!!!」


ーーー


「……落ち着いたか?」


 大の字になって空を眺める俺の顔を、トリトンが呆れたような顔で覗き込む。

 

「はい……すみません。ちょっと疲れてました」


「無理はするな。

 ロードスターみたいに倒れては本末転倒だからな」


「ロジーです。

 誰ですかロードスターって」


「そんなことより、早く魔装の特訓だ」


「あ、はい」


 そう言われて、慌てて立ち上がる。

 寝転がっていたせいで、服の中に芝が入ってチクチクする。


「まず、貴公の生得魔術はなんだ?」


「はい?

 なんですかそれ」


 生得……? そんなの聞いたことないぞ?

 よくある異世界転生モノのスキル的な?

 ていうか身体魔力操作の話なのに、なんで魔術?


「はぁ……

 生得魔術というのは、産まれた最初に扱った魔術、又は最初に無詠唱で使用できた魔術。

 まあわかりやすく言うなれば、貴公がもっとも得意な魔術だ」


「あ、なるほど。

 となると、別にどれが得意とか無いから、『最初に使えた魔術』を参考にした方が良いですかね?

 えーっと……なんでしたっけ……」


 ぶっちゃけ、雷以外はスムーズに習得したから、どれが得意とかないんだよな。


「む、わからんか……

 ーーたしか貴公、以前にリニヤットの血が混じっていると言っていたな。

 どこのリニヤットかわかるか?」


「あ、はい。

 母が『ディフォーゼ=リニヤット』本家の人間です」


「…………ふむ、なるほど。となると貴公の生得魔術は〝風〟であろうな」


「あー、たしかに」


 たしかに、トリトンの『フィノース家』が水魔術を代々司ってきたように、『ディフォーゼ家』も風を扱うらしいが……

 どうなんだろう、ここ最近で風魔術を使った記憶が全くない。


「ーーでも、その魔術の生得(?)が、身体魔力操作になんの関係があるんですか」


「何を言うか、むしろ魔術無しに魔装は語れんぞ?」


「は、はぁ……(?)」


「いいか、生得魔術は己の〝魔力孔の癖〟を表しているのだ」


「魔力孔の癖?」


 魔力孔というと、全身にある魔力を放出する穴だっけか? 毛穴みたいなやつ。


「そう、癖だ。

 風が生得魔術なら『放出』。

 水なら『佩帯』。

 炎なら『昇華』。

 土なら『凝固』と、己の身体が先天的に得意とする魔装の分野を、属性が示しているのだ。

 雷はばらつきがあるので割愛するぞ」


「なるほど……って、うん?

 魔装って、いくつか種類があるんですか?」


「ーーは?」

 

「え? なんか変なこと言いましたか?」


「待て、貴公は……

 貴公はそんなことも知らずに、魔装を使って戦っていたのか……?」


「はい」


「師は誰だ。 

 よもやディフォーゼの連中はそこまで頭がおかしいのか?」


「あ、師匠というか、教えてくれたのは父です。あと幼馴染にも少し……」


「父だと……?

 流派はどこだ?

 いやそもそも剣士か?

 普段は何をしている?」


「えっ……あ、えっと……

 流派は疾風流と剣聖流で」


「ふむ」


「一応、剣士なのかな……?

 昔はセリさんやリディさんと同じ傭兵団にいて」


「……ふむ」


「前は村で剣術道場をひっそりとやってましたが、今はディフォーゼに呼び出されて用心棒とかをやーー」


「待て」


「え、はい?」


「いや、万が一にも、十中八九私が間違う事などないのだがな?

 一応、一応尋ねておく。

 貴公……『死神』の息子か?」


「あ、はい。

 知ってるんですね、その名前」


「ーーーーーーーーーー」


「あれ、トリトンさん?

 どうしましたーーって、え? ちょっ、なんですか!?」


 突然トリトンが俺の目の前に来て屈み、肩に手を置いてきた。


 なんだ……なんだこの、何とも言えない表情は?


「貴公も苦労しているのだな……」


「えっ!? あ、いやそんなーー」


「死神とディフォーゼの混じり血に加えて、直々に手解きを受けていながら、ここまで武闘の才能がないとは……」


「……」


「血も絶対では無いということだな。

 では話を戻そう、貴公はーー」


「あ、もういいです……

 はい、もう、戻って寝ます……」


「何をふざけた事を、続けるぞ」


「……はぃ」


 帰らせてくれないのかよ。もう嫌だ……

 言っていい事と悪いことがあるだろ……

 俺だって気にしてたのに……


「ともあれ、貴公の話を聞いたことで、魔装の消耗が激しい原因に確信が持てたぞ」


「……そうですか」


「貴公は四つある魔装の基礎技術のうち、一つしか使っていない」


「ーーえ」


「わからぬか?

 貴公は、身体の瞬発力を上げる『放出』しか扱えていない。

 と言っても、瞬発力が上がるというのはあくまで、おまけのようなものなのだ。だというのに貴公は、それを自前の馬鹿げた魔力放出力で底上げしていたのだ。まさかあの時の闘いが捨て身の奇策ではなかったとはな……

 ーーとにかく、要は効率が悪すぎる。普通に身体能力を強化した方が早い」


 え、まじかよ。だってラルドは『これで良い』って言ってたのに……


「よって、私が教えるのは『放出』以外の三つの技術だ。

 それらを覚えれば、幾分マシであろう」


「……あ、はい」


 まあともかく、方針は決まったことだし、ちゃちゃっと習得してしまおう。

 無詠唱魔術を使える今の俺なら、魔装なんて朝飯前だろう。


ーーー


「あれ……

 全然できない……」


「……できていないな」


 これで100回目。トリトンが付きっきりで見てくれているのに、一向にマトモな魔力操作ができない。

 なんで……?


「……そういえば急用を思い出した。

 私は皆の所に戻るが、時間までには切り上げてくるよーー」


「待ってェェェェェェッッッ

 見捨てないでぇぇぇぇぇぇえッッッ!!」


 背を向けてスタスタと歩き出したトリトンの足に飛びついて、精一杯叫ぶ。

 

「せめて術式とか取説的なのを教えてくださいぃぃぃ!!」


「何を言っている!

 そもそも貴公は固く考え過ぎなのだ!

 魔術は道具ではなく、手足の延長上にあるものだ!!!

 私が教えることはもう教えた!!」


「ううううううううううぅ……」


 クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ1人でやるしかねえってのかぁぁぁぁぁ!!!


 結局、トリトンはこの後も俺の修行を見ていてくれたのだが、マトモな成果は得られずに、出発の時間がきてしまった。

 リオン曰く、もう1日もかからずに目的地らしいので、修行は向こうについてからになりそうだ……


さらっと流した『魔装』の基礎四大技


ポイント① 「そもそも『魔装』って?」

 

 『魔装』とは、獣人族が使っていた体内魔力を用いた戦闘法を元に純人族が編み出した『武術』のようなもの。

 『放出』『佩帯はいたい』『凝固』『昇華』の基礎四つと、追加で四つの応用技がある。(基礎もできない皆さんには応用はまだ早いので割愛)

 

ポイント② 「それぞれどんなものなの?」


『放出』 体内の魔力を外側に放出する。放出中は、身体の瞬発力がほんの少し上がる。

 攻撃の瞬間などにも使う。(剣聖流とかは斬撃を飛ばす際にこれを使う)


佩帯はいたい』 対象を己の魔力で包む。この技術が1番個人差が出る。上手い人は全身均等に覆えるし、下手な奴はムラがある。防御力が少し上がる。


『昇華』 体内の魔力をエネルギーに変換し、身体能力を底上げする。最難関の項目であり、凡人が習得するには1年以上平気でかかる。


『凝固』 体や物に纏わせた魔力を圧縮し、硬くする。剣士とかはみんなやってる。


まとめ 

『魔装』とは以上の四つの技術を状況によって使い分けながら戦う『武術』である!

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