第92話 いざ出発!!
「ハァ……ハァ……
本当にこの道で合ってるんですかー?」
大荷物を背負っているのにも関わらず、ズンズンと平原を進んでいくセリ達に叫ぶ。
「精霊が言っているんだから間違いないに決まってるだろー!」
妹を背負ったリオンが、随分先からプンプンと腕を振り上げている。
10メートル近く離れているというのに、まるで目の前で喋っているのと錯覚しそうなくらいに、ハッキリと声が届いてくる。
声を上げずとも離れた人と会話できるのは本人曰く、『声を風に乗せて精霊がどうたら〜』らしいが、言っている意味がわからないので途中で聞くのをやめた。
「鍛えてるんじゃなかったのか〜?
女の子1人担いで走れねえようじゃあ、まだまだだなぁ〜!」
リオンの隣りを歩くセリが、俺に手を振りながらそう声を上げる。
「話したでしょ!?
身体強化できないんですって!!
こういうと失礼ですが、重いんですー!」
そう……
俺は今、背中でぐーぐー眠っている少女が原因で、みんなに大分距離をつけられてしまっている。
2歳下のクロハが重いのかって?
違う違う。背負っているのはクロハじゃなくて、獣族の女の子だ。
事の経緯を話そう。話は5時間以上前まで遡る。
ーーー
「なんとか騙せましたね……」
去っていく数台の馬車を見送りながら、安堵の息を漏らす。
結局、リーダーを失った商人達は一度アスガルズの拠点まで引き返す事となり、渓谷の入り口まで戻った所で解散となったのだ。
「私の作った金貨だ。
バレるはずがなかろう!」
そう言ってトリトンが、ロジーを背負ったまま両手を腰に当て、ぐっと胸を張る。
いつものご自慢ポーズだが、人1人背負いながらとか、どんな体感してんだよ……
「へっ、何言ってんだ。
金貨に仕上げたのはクロハの嬢ちゃんだろうよ」
セリはこう言うが、実際、トリトンの功績もかなり大きかった。
彼が手伝ってくれなければ、金貨の幻の土台となる石製のコインを作れなかったからな。
「あの金貨偽物だったのか!?」
妹をおぶったリオンが声を上げる。
「そうだよ?
だって金持ってたら、わざわざこんな仕事やってないからさ」
リオンにそう言いながら、手に持っている金貨を強めに叩いて幻を壊し、元の石のコインに戻して見せる。
セリが値切ってくれたお陰で、手元にはまだいくらか金貨が残っているのだ。
「あ、確かにそうだな……
まあ、とにかく助けてくれてありがとう!!
ここまでしてもらったんだ、絶対みんなの役に立つからな!」
そう言ってリオンが胸をドンと叩く。
ああ、なんだこの安心感は……
今まで頼ってきたのが軒並みヤバい奴ばかりだったせいで、リオンという新たな拠り所は、もはやオアシスに感じる……
そう、パパだ。リオンパパだ。
「よし!
んじゃあ荷物も纏まったとこだし、行くか!!」
そう言って荷物を背負ったセリが、パンと手を叩く。
この人と動くようになってから色々やってもらってるが、仕事量の割に全然疲れてるように見えない。
いったいどんな事務体力してんだ……
「リオンの兄ちゃん、ここから1番近いエルフの集落まで、どのくらいだ?」
「ちょっと待ってくれ、今聞いてみる」
リオンは背負っていた妹を俺に預け、両手を耳に当てて目を瞑り出した。
『……』
豊かな草原をバックに、悠々と時間が流れていく。
「精霊対話か?
随分と珍しいな」
目を瞑って集中しているリオンに顔をずいっと近づけて、物珍しそうのにトリトンが言う。
「〝せいれいたいわ〟……?」
トリトンにおぶられているロジーが、気怠そうに呟く。
毒のせいで弱ってはいるが、悪化はしていないようだ。よかった……
「起きたのか、いいだろう、目覚ましついでに教えてやる。
才ある長耳族は、大気に漂う精霊と対話できるのだ。
元は妖精族の技能だったらしいが、彼等が歴史から姿を消して以降は、その辺りの事実もあやふやだ。
まあ、結局のとこーー」
「ぐがーーーッッッ……
すゥゥゥー……」
『……』
「気持ち良さそうに、眠ってますね……」
「だな〜」
「……今日の焚き火は此奴を薪にしよーー」
「生物なんで燃えませんよ」
「あー!!!
お前らうるさいぞ!!!
人が集中してるのにーーって、あれ?」
トリトンの腹をポカポカと殴りながら地団駄を踏むリオンが、突然表情を変える。
「?……
どうしました?」
「お前……だれだ?」
酷く緊張した面持ちで、リオンがそう言って指差した先は……
「誰も何も、クロハではないか」
トリトンが首を傾げながら、そう答える。
しかし、リオンは表情を変えぬまま、クロハの方へ、ゆっくりと近づいていく。
クロハの表情もおかしい。どうしてあんなに汗をかいてるんだ……?
え、まさか俺達が今一緒にいるのは『クロハに変装した誰か』とか……?
じゃあ本物のクロハはいったいどこーー
「……クロハのことじゃない」
あ、なんだ違うのね。
「こいつだよ……」
そう言ってリオンが指差したのは、クロハの隣の何もない空間。
そう、本来ならば何も無い。
「……クロハ、何を隠してるんだ?」
クロハは物を透明にする魔術を扱う。
加えてリオンの『こいつ』や『誰』と言う発言からも、彼の指差した虚空には、誰かがいる。
クロハは誰かを匿っている。
「……」
クロハは顔を真っ青にして、口をつぐんでいる。
叱られると思っているのか、全く目を合わせてくれないな。
「別に怒らないからちゃんとーー」
そう言いかけた時、背後から飛んできた『水弾』が、俺の真横を凄まじい通り抜け、クロハの隣に立つ〝透明な誰か〟に直撃した。
「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!
何やってんだトリトォォォン!!!」
「衝撃を与えれば透明化は解けるのであろう?
ならばクロハに問わずとも、こうすれば早い」
顔をさらに青くして慌てふためくクロハをよそに、トリトンがフンと鼻を鳴らす。
容赦の『よ』の字もない。
「そんな強い威力の当てたら怪我するでしょ!!」
「知ったことか、時間の浪費は避けるべきだ。
それに、透明化も解けたようだぞ」
そう言われて、トリトンの指差す先を凝視する。
たしかに、何も無い空間に人型の歪みが生じ出している……
ーーー
ーーで、そこからスゥーッと姿を露わにしたのが、俺に今背負われている獣族の女の子ってわけだ。
見た目はまんまネコ科の獣族で、体格的に見たら俺と同い年くらいだ。
クロハ曰く、1人くらいなら連れ出せそうだったから、隙を見て奪ってきたそうだ。
あんまり危ないことはして欲しく無いのだが、俺が言えたことではないので、強く注意できない……
今度からちゃんと見張っておこう。
まあ、結果良ければなんとやらだ。トリトンが加減を知らないせいで、この子が気絶したままってこと以外はな。
あと……そう、少し言いにくいんだが……
今背負ってる子の体臭がキツい……
まあね? ついさっきまで奴隷として水浴びの一つもできずに、不潔な牢屋に寿司詰めにされてたわけだがら、仕方ないんだけどね?
それに、俺だってここ数日水浴びとかしてないから人のこと言えないんだけどね?
とにかく、早くエルフの里に行って水浴びの一つでもしたい。
覗きがいもありそうだし。
ーーー
さらに歩いて数時間、小さな森林に差し掛かった。
そろそろ日が暮れる頃だし、今日はここで野宿になりそうだ。
「お?
なんだこのランタンみたいな花は?」
目の前に沢山実る不思議な果実(?)を前に、セリが目を見開く。
「ふむ、これは狼そーー」
「それは『ウルフプラント』ってんだ!
気をつけろよ、その実は乱暴に扱うと破裂して、タネをばら撒くんだ」
そう言って、リオンが慣れた手つきでひょうたん程の大きさの実をとって見せた。
「ウルフ?
なんでまたそんな名前を」
「あぁ、それはーー」
「それはだな!!
天敵から幹を守る為に破裂させる実の音が!!
黒狼という魔物が吠えた際の音に類似しているっ、からっ、だ!!!」
「あ、はい。そうですか」
哀れトリトン、さっき解説の場を奪われたのがよほど悔しかったのか、とんでもなく食い気味に声を張り上げている。
「おー、さすが貴族様は知識量がちげぇな。
んでよ、これ食えんのか?」
「もちろーー」
「食べれるぞ!
このままだと苦いけど、干すと甘くなるんだ!」
「じゃあ今食えねぇじゃねえかよ!!」
「あははは……困りましたね……」
8人分の食糧をなんとかしなければいけないのに、こんな調子で大丈夫かな……
超久しぶりのQ&A(質問者二桁未満)
Q.設定公開にソロモン魔剣は壊れないとありましたが、何故ですか?
A.精霊が率先して魔剣を護るからです。
Q.精霊は本当にいるんですか?
A.います。大気中にウヨウヨいます。上位種は知能もあります。
Q.ロバートの特級魔術本当に公開する気ありますか?
A.ロジーです。誰ですかロバートって(ありがとうございます)
魔術を公開する気はありますが、まだずっと先です。でも勿体ぶる程の物じゃないんで、流してくれて構いません。
Q.何話くらいで完結する予定ですか?
A.300手前か、それよりちょっと多いくらいじゃないですかね?
ーーー
気になった設定、『ここ矛盾してない?』など、ありましたら、お気軽に感想欄にてご質問ください。
単細胞は暇なのですぐに回答が来ます。
それではまた明日!




