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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第3章 旅路篇

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第90話 どん詰まり

〔ーーどうぞ結界の男には気をつけて……〕


「ーーハッ……!?」


 崖から突き落とされた様な感覚と共に、目を見開く。


 そこには、俺の目の前で今にも剣を振り下ろそうとしている男の姿があった。

 

 目を瞑って、変な声が頭に流れ出してから結構時間が経っていた筈なのに、どうやら時間は全く経っていなかったようだ。


 時間がとてもゆっくりと流れる様に感じる。男が剣を振り下ろす姿が、目の前でスロモーションで進んでいる。

 今なら簡単に避けれそうだ。

 そう、避けれそうなのに……身体は全く動かない。意識だけが独り歩きしている様だ。

 

(え、あれ……!?)


 動かせない。

 そう思っていたが、なぜか突然に俺の手が勝手に動き出す。


〔なに、これはほんの餞別だとも〕


 一瞬、そんな言葉が頭をよぎる。

 ゆっくりと持ち上がった腕が、剣を持つ男に掌を向けた状態でピタリと止まる。


「……?」


ーー岩礫ーー


 何十倍にも圧縮された様な時間が、再び動き出す。

 

 俺の手から勝手に放たれた『岩礫』が、男が振り上げていた剣へと飛んでいく。


「なにッ!?」


 『岩礫』によって、手から剣を弾き飛ばされた男が動揺の声を漏らしーー


「貴様、一撃目はブラーー」


 そこに間髪入れず、スコン!! と音を立てて、男のこめかみに剣が突き刺さる。


「ぁっ……」


 男は喋り終える事なく、静かに倒れた。


 男の頭を貫いた剣ーー弾丸の様に真っ直ぐな軌道で飛んできた剣……

 当然、投擲で成せる様な技ではない。

 これは……彼の魔術だ。


「ロジーさん!!」


 剣の飛んできた方向に顔を向けると、やはりロジーがいた。


「……なんとか間に合った様だなァ!」


 息を切らしながら、膝に手を置いて屈むロジー。

 どうやら本当にギリギリの所だったようだ。


「助かりました、ありがとうございます!」


「あ、ああ……なら良かった。

 それより、その隣のガキは?」


「あ、紹介が遅れました。

 彼はリオン。僕の恩人です」


 そう言って、リオンをずずいとロジーの前に押し出す。


「おっ……ど、どうも……」


「ああ、ディンを助けてくれてあんがとな。

 で、セリの奴はどこ言ってんだ?」


 そうだ、すっかり抜けていた。

 順当に事が運んでいれば今頃こっちにーー


「おーい!!

 終わったぞ〜!!」


 そんな矢先、崖の上からセリの声が響き渡った。噂をすればなんとやらだ。


ーーー


「お疲れ様ですセリさん。

 怪我はないですか?」


「おう、元気元気さ!

 んで、これが仕留めた証拠……」


 そう言ってセリが、帰ってきてからずっと手に持っていた謎の風呂敷(?)から何かを取り出した。


「ーーっと……ほれ、敵の首」


 にこりと笑みを浮かべて、セリは敵の弓兵の首を見せてきた。


「……ぅあ、ありがとう、ございます。

 もう結構ですので……」


 最悪だ、今生首と目が合った。

 絶対今日夢に出てくる……

 おぇ……


「ーーと、とりあえず皆んなの方に戻りましょうか」


 そう言って、セカセカと馬車に向けて歩き出す。


「?……

 ロジーさん、どうかしましたか?」


 ふと、ロジーが着いてきていないことに気づき、後ろを振り返る。

 

「……」


 不気味にも、ロジーは返事もせず下を向いたまま突っ立っている。


「ロジーさん……?」


 ロジーは動かない。棒立ちだ。


「おいロジーの兄ちゃんどうしーー

 って!? おっとっと!?」


 痺れを切らしたセリがロジーの元まで戻って、顔を覗き込もうとするも、突然ロジーが倒れる様に彼にのしかかる。


「うわーっとと!!」


「大丈夫ですか!? 2人とも!!」


 突然倒れたロジーを受け止めて、セリがバランスを崩しかけていたので駆け寄ろうとすーー


「ッ……あれ…………?」


 駆け寄ろうと一歩踏み出した時、突然俺の視界は歪み、そのまま地面に倒れてしまった。


ーーー


「ーー……か!!」


 静かな暗闇の中に、ぼんやりと声が響き渡る。

 

「おいディン!!」


 体を揺さぶられた。

 そういえば地面が硬い。

 俺は今どこにいるんだ……?


「どくがいい、エルフの少年よ。

 人を起こすのはこうやるの……だッッッ!!!」


 うわっ!? 冷たッッッ!!


「!!!……

 ゲホッ! ガハッ、カハッ……」


 顔に大量の水をかけられて、陸に上げられた魚の様に飛び起きた。

 

「おお!

 本当に起きた!!」


 リオンが満面の笑みで、むせこんでいる俺の顔を覗き込んでそう言った。

 

 寝起きの霞む目で、辺りを見回す。


 ボロい布の天井、ボロい毛布、赤茶色の砂の大地、そり立つ絶壁。

 どうやら渓谷からは移動せず、その場に軽いベースキャンプを作っていた様だ。

 で、俺はそのテントの内の一つに寝かされていたと……


「死者すらも呼び起こす。

 それがフィノース=リニヤットの水魔術だ!

 以後忘れることなきよう、その頭に焼き付けておくが良い! エルフの少年よ!!!」


 俺がキョロキョロと辺りを見回している傍で、トリトンがフンッと鼻息を鳴らす。

 相変わらず腹が立つ。

 頭に焼き付ける以前に、こいつの頭が沸いている。


「もともと死んでないんですけど!

 また氷漬けにしまーーって、痛ッ……!」


 トリトンに文句を浴びせながら立ち上がろうとしたその時、全身に強い激痛に走り、やむを得ず再び腰を下ろす。


「お、おい大丈夫か……?」


 リオンが心配そうに俺の背中に手を添える。随分と深刻な表情だ。

 こいつ、結構優しかったりするのか?

 貸し借りを良く話に持ち出してたから、もっと合理的な奴かと思ってた……

 流石にまだ子供だし、そんなひん曲がった性格なわけないか。


「あ、うん。大丈……夫、かな……」


「あんまり動がない方が良いぜぇ〜

 兄ちゃんよ」


 背後からおれの頭にポンと手を置いて、セリがそう言った。


「どういう意味ですか?」


「いやどうも何も……自分でわかんねぇのか? 毒だよ毒」


「へ?」


「兄ちゃんが倒れた後、肩に刺さってた矢は取り除いてやったけどよ。

 あの弓野郎、呪詛に加えて毒まで矢に仕込んでやがって……

 ロジーの兄ちゃんなんか相当無理してたみてぇで、意識すら戻んねぇよ」


「ロジーさんが!?」


 俺のせいだ。

 俺を庇って矢を受けたせいで……

 

「そ、そのっ、ロジーさんは大丈夫なんですか……!?」


 重い体を持ち上げてセリに詰め寄ると、彼は少し難しい顔をして頭をポリポリと掻き出した。


「あ〜……

 このままじゃあ、良くねぇな」


「治療は!?

 何か薬とか!!」


「お、おいおいあんま興奮すんなって!

 毒が回っちまーー」


「毒なんか効いてないですよ!!!

 それより薬はあるんですか!?」


「効いてねぇわけねぇだろ!!

 意地張ってねぇで休んでな!!」


 いや実際、俺の身体に目立った不調はない。

 矢を受けたタイミングもロジーと大して変わらないし、なんなら俺の方が動き回っていた。

 毒があるならとっくに回っているはずだ。

 だかしかし、それをセリに証明する手段がない。ここは一旦引き下がるべきか……


 ひとまず腰を下ろして、一息付いてからセリに問う。


「他の人は無事ですか?」


「ああ、死んだのは雇い主様だけだよ」


 なら良かったーーっていや、良くないわ。


「雇い主が死んだ場合、僕らはどうなるんですか?

 部下の人達が引き継ぐとか……?」


「いやいや、今回はこれで打ち止めだ」


 ため息を漏らしながら、セリが首を横に振る。


「!……

 それはどうして……」


「ローランがいなけりゃ、ムスペル王国に入れねぇからだよ。

 金の方はまぁ、ある程度は貰え……いや、護衛対象が死んじまってるから無報酬かもなぁ」


 マジかよ……

 全部水の泡じゃねえか……


「すみません……

 俺のことに巻き込んで……」


「まぁ仕方ねぇさな。

 それに、俺ぁこの魔剣シャックスを売れば最悪なんとかなるからーー」


「それは困るな!」


 セリが言い合えるのを待たずに、声を張り上げながらテントに飛び込んで来る男が1人。


「うわっ!?

 ーーってなんだ、トリトンさんかびっくりした……

 で、何が困るんですか?」


「そのブエルとか言う男が使っていた魔剣はともかくーー」


 あ、ブエルの名前は間違えないんだ。

 ロジーの名前は頻繁に間違えるのに。


「もう一振りの『鸛之鉤爪シャックス』は、我々フィノース家がマルテ王子派閥の者との取引にて、一時的に貸与されている物だ。

 それを紛失したとなれば、我々の立場は今度こそ危ういものとなる。

 たとえ、リディアンとの密約を交わすことに成功していてもな」


「あ〜……

 そんなことあったっけか……?」


 ヒューヒューと下手くそな口笛を鳴らしながら、セリは目を泳がせる。


「仕方ない。

 私は今からこの男を始末ーー」


「あーもう! わーったよ!!!

 この仕事が終われば返すから!!!」


「ならば今すぐ返せ。

 雇い主が死んだ今、仕事なぞ無い!」


「いやいや、何言ってんだ。

 まだ一つ残ってるぜ」


「なに……?」


 トリトンが首を傾げると、セリが俺の方を指差した。


「兄ちゃん達の解毒だよ。

 一応指揮を預かった者としちゃあ、この状況は見過ごせねぇからな」


「……なるほど、一理ある。

 ならばしばしの猶予を与えよう。

 して、どうやって解毒をするつもりだ」


「ん〜……

 わかんねぇな〜」


「貴様、死にたいのか」


「いや、本当にわかんねぇんだって!!

 お前こそどうなんだよ、四大貴族の魔術師なら、解毒魔術の一つや二つあるだろ!!」


「ない。

 そも、我々四大貴族は元より普通の毒など効かぬ身体を持っている。

 何代にも渡り受け継がれているのは、魔術だけではないということだ」


「うげ、そいつぁ困ったもんだ……

 通りであの時失敗しーーいや、その話は今はいいな。

 するってーと、兄ちゃんに毒が効いて無いっぽいのも……」


 なんか聞き捨てならない内容が一部混じっていたが、たしかに俺も免疫のことは初耳だ。

 いやまあ、当然か。俺は貴族として育てられたわけじゃないしな。


異物ラルドの血が混じっているゆえに断言は出来ぬが……まあそれなりに関係してはいるだろう。

 だが気になるのは、なぜロドリゲスには毒が効いたのかだ」


「ロジーな」


 本人不在故に、セリがツッコミを入れる。


「勘当された身とは言え、奴にはアスガルズ王国貴族の血が流れている。

 だが、それにしてはやけに症状が重い」


「あー……たしかにな。

 まぁ何にせよ、動かないことには始まんねぇなぁ……」


 セリの言う通りではあるが……

 そもそもどう動くべきなんだ?


「魔物の毒ならまだしも、正体不明の毒となれば、それをすぐに治療できる腕の者はそう多く無い。

 重ねて言えば、どこの国だろうと『解毒魔術師』はそう滅多に会えるものではないぞ」


「うぇ……マジですか……」


「そりゃあ、困っちまうな……」


 ムスペル王国にも入れない。

 金もない。

 移動も簡単にできない。

 毒の治療手段もない。


 一体どうしろってんだよ……


〔友人を侵す未知の毒、治したいならエルフの森へーー〕


 あ、そういえば……


「エルフの森に行きましょう!!!」


『はぁッッッ!?』

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