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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第3章 旅路篇

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第88話 逆転の目



 馬車を中心に張られている水のドームを飛び出した。


 もちろん、作戦なんてありはしない。

 相手は崖の上から正確に矢を射ってくる。呪詛が付与された矢は一度でも当たれば死ぬと考えるべきだろう。


 頼みの綱のロジーは俺のせいで動けない。

 トリトンはクロハ含めた他の人達を守るので手一杯。


「無理だろ……これ……」


 怖い。死にたくない。

 そんな思いを抱きながら、薄暗い砂の大地を駆け回る。


 何をやっているんだ俺は……

 他人が巻き込まれたらなんだ。大人しく水の結界に隠れておけば良かったじゃないか……

 

 ーーって、いやいや……隠れたところで相手は呪詛魔術を使うんだ。

 手数は未知数だし、即席の結界なんかじゃ簡単に破られる。


 結局、一箇所に固まるよりも動き回ってる方が幾分マシだろう。


 とりあえず死角を減らすために、皆んなとは少し離れた位置にある別の馬車の物陰に隠れた。


「はぁ……はぁ……」


 くそ、動悸がおさまらない……

 打つ手がないとここまで違うか。

 

 だが、何もしないわけにはいかない。

 どうせ俺の位置はバレている。あれだけ物理法則を無視した軌道で矢を射ってくる相手だ。障害物に隠れたところで、たった数秒の時間稼ぎ。


 ならば腹は括った。

 走る。とにかく走るんだ。

 逃げ回りながら相手の位置を掴んで、なんとか距離を詰めるんだ。


 リオンに回復魔術を使っただけであの激痛……

 攻撃魔術を使うのはギリギリまで相手に近づいてからだ。

 撹乱もしない。自力で凌ぐ。相手が2人以上と考えたら、尚のこと温存が必要だ。


「フー…………

 よし、行くぞっ」


 目一杯息を吸い込んで、馬車の影から飛び出す。


 が、しかし……


「ッ!?……」


 飛び出した直線状、正面頭上には既に矢が飛んできていた。


 この距離は……まずい。

 おそらく、この目の前の矢は任意の展開で再点火ーー平たく言えば、射った後にも軌道修正ができる。

 つまり、あと0コンマ数秒後には更に速度を上げて俺の元へ迫ってくる。

 矢との直線距離は3メートルあるかないか、軌道修正されることを考えると、2回目の加速を見てから避けなければならないというのに……

 これじゃ間に合わないーー


 矢尻から小さな魔法陣が展開されるのが目に映る。

 第二の加速が始まる。

 次の瞬間には、あの矢は俺の頭部に直撃しているだろう。


「……」


 時間がとてもゆっくり流れるように感じた。これから死ぬというのに、恐怖を感じない。

 まあ、強いて思うことがあるならば

『せっかく思い切って飛び出したってのに、【決め撃ち】なんて酷すぎだろ』くらいだ。


 そして、ゆっくり流れていた時間は通常に戻り、矢は凄まじい速度で俺の元へ迫り出した。


(終わりか……)


 反射的に目を瞑りかけたその時だった。


「!?」


 閉じかけた目を見開いた。


 迫り来る矢と俺の間に割って入るようにして、突如一つの小さな魔法陣が浮き上がり、そこから発動された風の魔術が矢の軌道を僅かに逸らしたのだ。


(チャンスか……?)


 軌道が逸れただけでは足りない。

 しかし幸い、今はまさに走っている最中。


 刹那の中で、俺はほんの少しだけ身体の重心を逸らすことに成功し、矢の狙いは俺の脳天を逸れて、肩に突き刺さった。


「うぅッッ……」


 焼かれる様な痛みが、肩を起点に全身に広がる。

 しかし痛がっている場合ではない。

 追撃が来る。

 それに、俺を助けてくれた人はーー


「わるいディン!!

 間に合わなかった!!」


 少年の叫び声が薄暗い谷底にこだまする。


 それは馬車、先程隠れ蓑にしていた馬車からの声だった。


「リオン……!」


 振り向いた先には、荷台の檻の隙間から目一杯手を伸ばしているリオンの姿があった。


「いいから早く戻ってこい!!」


 そう言われて、咄嗟に俺は腕に魔力を込めた。


ーー濃霧《ディープ•ミスト》ーー


 ズキンッッ


「ッッ!!!」


 両腕の激痛を堪えて、リオンの元へと戻る。

 谷底一帯を霧で包んだので、数分程度なら時間は稼げるだろう。

 酷く痛むが、魔術もまだ使えそうだ。

 

「……ありがとう、リオン。助かったよ」


「ああ、それよりおまえその肩の矢……

 はやく抜いたほうがいいんじゃないか?」


「抜いたら止血する羽目になるので後回しです」


 まあそもそも、刃先に返しが付いてるから簡単に抜けないんだけどね。


「いったいなにがあったんだよ……」


「襲撃だよ〜既に1人犠牲が出てるぜ?

 おそらく狙いは兄ちゃんだな」


「うぉっ!?」


 俺の背後からヌルッと現れたセリに思わず声を上げる。


「よお兄ちゃん、無事か?

 随分と痛そうなことになってんな!」


 いつも通りの胡散臭い笑みと共に、セリは俺の頭にポンと手を置いた。


「どうしてここに……?」


「どうも何もよ、トリトンの結界で待機してたら突然辺りが霧だらけ。

 好機だとばかりにあいつが俺に『外の様子を頼む、霧が出たということは状況が動くやもしれん』とさ!

 渋々霧の中に飛びこんでみれば、兄ちゃんの声が聴こえたわけよ」


「な、なるほど……」


「そんなことより兄ちゃんだよ! 矢を受けちまったんだろ?

 何か異変はあるか?」


「……魔力が」


 魔力が急激に減り出している……

 この効果はおそらく『耗魔の呪詛』だ。

 あいつ、さっきの一撃で仕留められないことは折り込み済みだったわけか……

 

「セリさんのその剣で解呪できませんか……?」


「お、おう。 やってみらぁ」


 リディの話では、セリが持っていた魔剣には魔力を奪い取る権能がある。

 あわよくばそれで……


 慌ててセリが鞘から剣をガラガラと引き抜くと、突然リオンが顔を顰めた。


「うわっ……

 なんだよそのきもちわるい剣。

 おぇ…… 早くしまってくれ」


「?……

 まあまあちょっと待てって」


 酷い頭痛に当てられた様な顔をして頭を抱えるリオンをいなして、セリが俺に魔剣の腹をそっと当てる。

 てかあれ、ほっといて良いのだろうか。リオンもリオンで結構辛そうだ。

 魔剣がどうとか言ってたが、あれかな?

 よく漫画とかであるエルフが金属を嫌うやつ……いやでも、それは無さそうだな。

 だってラトーナは金属系のアクセサリーとか大好きだったし。


「どうだ兄ちゃん?

 一応、やるだけやってみたがよ」


 セリがそう言って剣を鞘に収めたので、俺は一度目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。


「……呪詛は解けたみたいですが、なんか余分に魔力持ってかれた様な気が……」


「あー……

 そりゃすまねぇ。正直、この剣は俺の言うことちゃんと聞いてくれねぇんだわ」


 セリはそう言って、申し訳なさそうに目を逸らして、頬をポリポリとかいた。

 必要以上に俺の魔力を奪ったのが故意なのかどうかはさておき、魔力の自動消耗は無事に止まってくれたのでひとまず良しとしよう。


「……おわったか?」


 リオンが手で顔を覆いながら、食い気味にそう尋ねてくる。


「終わったよ。もう目開けたら?」


「……もうあんなモノ使うなよ」


 ゆっくりと顔から手を退けながら、リオンがこちらを睨む。

 異常な嫌がり様だ。後で聞いてみるか。


「使うなって言われてもなぁ〜

 それは兄ちゃん次第だな。だろ?」


「え、ああ、はい……」


 さて、一時はどうなるかと思ったが、思わぬ戦力の追加のおかげで出だしより遥かに良い状況になった。

 

 せっかく出した霧が晴れてしまう前に、なんとか作戦を立てて実行しよう。

多分誰も気にしていないことの解説


 呪詛弓師が矢を2段回加速して軌道を操っていた仕組みですが、あれは『封魔の呪詛』によるモノです。


 効果は魔力を一点に圧縮して封じ込めたりするものです。

 用途はまあ、罪人の拘束手段や、魔道具の封印、魔力汚染への対策など様々です。

 仕込むの時間がかかるので、暗殺には向いてません。


 まあまた説明がややこしくなり過ぎるので割愛しますが、基本的にこの魔術は『持続型』で使われることが多い(術者が常に魔力を注いで効果を維持する)わけです。


 何が言いたいのかと言いますと、この魔術は術者が解除すれば、その時点で封じ込めていたモノが溢れ出すわけですね。

 例えば、胡麻粒かなんかに大量の魔力を纏わせて、それを『封魔の呪詛』で封印する。そしてそれを解除すると、めっちゃギュウギュウに圧縮封印されていた魔術が溢れ出して、その胡麻粒はジェット噴射みたいに飛んでいくわけです。


 つまり、魔力を封じ込める対象が小さければ小さいほど、解除時に溢れてくる魔力の勢いが上がるわけです。


 弓師はこれを利用して、小さな矢尻の一点に大量の魔力を圧縮して封じ込めたわけです。

 そして後は、任意のタイミングで呪詛を解除してズドン!! です。


 実は矢の姿勢制御等にも複数の呪詛が仕込まれていましたが、こっちはさらにややこしい(説明が面倒)なので端折ります。


 結論、敵の弓師の呪詛の矢は、1本用意するだけでまる1日近くかかる。


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