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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第3章 旅路篇

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第82話 背後の亡霊


 見張りの男を殴り倒したポルターガイストの正体は、透明化したクロハだった。


「え……助けに、来てくれたの……?」


 思わず呆気に取られて、間抜けた声でそう尋ねると、クロハはコクンと首を縦に振った。


 驚きを隠せない。クロハが真っ先に俺を助けてくれるなんて……

 あ、いやそれ以前にどうやってここに来たのだろうか。俺はあの時、頭を袋で覆われた時咄嗟に握っていたクロハの手を離してしまっていた。

 それに、リディの話ではクロハは魔力感知は苦手らしい。

 尚更方法がわからない。


「うっ……」

 

 床に倒れていた男が唸っている。

 よかった。ム○カ大佐もびっくりの不意打ちだったが、死んではいなかったようだ。

 って違う違う。安堵してる暇はない。


「助かったよ、縄を解いてくれ。

 あと俺にも透明の魔術をかけてくれ。

 ーーって、違う! 縄は引き千切るんじゃなくて解くんだよ!

 こんな太い縄素手で千切れるわけーー

 ーーってなんでちょっと千切れてるの!?」


「あーッッッ!!!」


 上手く縄が解けずにクロハとジタバタしていると、背後の扉がバンと開く音と共に、部屋中に怒声が響いた。

 

 思った以上に戻ってくるのが早い……最悪だ。

 クロハは他人を透明化させるのは苦手だから、今からやってちゃ間に合わない。

 クロハだけなら逃げられるか……?

 

「クロハ、お前だけでも逃げーー」

 

「ディンじゃねえかよ!!!」


 慌ててクロハにそう伝えようとした時、妙に聴き慣れた騒がしい声が、それを遮った。


「……へ?」


ーーー


「いや〜すんませんな!?……

 兄貴の子分とは知らーくて」


 先程クロハに殴り倒された人族の男が、俺を縛る縄を解きながら、申し訳なさそうにへこへこと頭を下げた。


「ギャハハハッッッ、オメェが謝ることはねえよ!

 こんな三下に捕まったディンが悪いわ!

 ……ププッ、それにしてもディン、情けねぇ姿だなぁ!

 ッッッハハハハハハ!」


 ボロい机を今にも壊しそうな勢いでバンバンと叩きながら、赤髪の青年は俺を見て笑う。まあ、赤髪というかロジーだ。迷宮で別れたっきりの、あのロジーだ。うるさくて強面の、あたまがわるいロジーだ。


「……うるさいですね。

 それに、子分になったことなんて一時たりともありませんよ」


「相変わらず硬えなぁ! セコウさんかよ!

 まっ、何にせよ無事で良かったぜ。

 迷宮で別れたっきりだったもんな!」


「そうですよ。

 ていうか、なんでロジーさんがこんなとこにいるんですか?」


 見たところ負傷した跡すらない、ひょっとして、この人だけ迷宮に飛ばされなかったとか?


「あー、それはなーー」


 それからしばらくは俺とロジーの問答が続いた。

 順追って話そう。


 まず第一に、何故ロジーがこんな所にいるのかだ。

 実はこのスラム街は、彼が幼少期に過ごしたいわゆる第二の実家らしい。そういえばセコウが「ロジーは元スラム育ち」だなんて言ってたな。

 って、今はそんなことはどうでも良いな。


 話を戻そう、彼は迷宮をうろうろしてたらたまたま脱出の魔法陣を踏んでしまったらしく、そのまま故郷に近い場所に飛ばされたので、情報集めがてら立ち寄ったそうだ。

 そう、そして第二は迷宮での彼の動向だ。驚くことに彼は、迷宮内で誰とも戦闘にならなかったらしい。

 なんでも、フロアが全部霧だらけでそれを抜けようと走り回っていたら、いつのまにか外にいたとのことだ。


 大方、転移の罠でも踏んづけるなんてどんなドジかと思ったら、霧で視界が冴えてなかったとはな。多分その霧はフィノースの連中が足止めで出したやつだけど……

 まあ、外に出られただけマシか。場合によってはそのまま魔物の巣に飛ばされたっておかしくなさそうだ。

 

 リディやセコウは戦闘になっていた辺り、敵側はロジーの相手をする余裕まではなかったみたいだな。足止めして後で叩くつもりだったんだろう。


「……そうか、隊長やセコウさんとは別れたっきりなのかぁ」


「はい。

 とりあえず僕らは金を稼いでから、アスガルズに向かう予定でした」


「ふーん……それはそのトリトン(?)

 とかいう奴の提案か?

 今から探しに行かせるけどよ、本当に信用して良いんだろうな……?」


「提案というか、自然な流れでそう決まりましたよ。

 信頼云々の方は……まあ大丈夫かと。良くも悪くも、あの人は自分の目的に忠実なので」


「そうか……んならいいんだけどよ。

 じゃあとりあえず、そいつ探してくるわ。

 えーっと、茶髪で少しセコウさんに似てるんだっけか?」


「はい。あ……あと『なんかこいつの身振り、見ててムカつくな』ってなったらその人です」


「なんだそりゃ」


「まぁ見ればわかります」


ーーー


「まったく、ごろつき如きに捕らえられるとは……

 弁解の余地はあるのだろうな?」


 暗いトンネルの壁を辿って歩きながら、トリトンの説教がかれこれ10分近く続いている。よっぽど1人置き去りにされたのが気に食わなかったらしい。

 こればかりは俺の落ち度じゃないと思うんだけどな……


「返す言葉もございません……」


「まぁ、そんくらいにしてやれよ。こいつだってまだ9歳だぞ?

 よくやってる方だ」


 よっぽど不憫に感じたのか、珍しくロジーが助け舟を出してくれた。

 これでようやく説教が終わーー


「貴様には関係がないであろう。

 スラム街の住人が一端の騎士のような格好をしよって、まずは名を名乗ったらどうだ!」


「ロジーだって言ってんだろ!

 さっき名乗ったじゃねえかよ!

 それに関係あるわ!

 これから一緒に動くんだよ!

 あと『騎士のような』じゃなくて、れっきとした騎士だボケが!!」


「む……?

 そうだったか、それは失礼した。

 貴公の言動からは品と知性を感じられなかったのでな。

 ただの盗人かと早とちりしてしまった」


 真剣な面持ちで、トリトンは顎に手を当てる。

 もう一度言おう、彼は至って真剣だ。


「……ぁあ〜そうですかい、これはどうも失礼致しまたですわ!

 広ーい御家の中だけで過ごされてきたおボックス入りのお貴族様方にはお配慮が足りておりませんでしたわね〜」


「ハハッ、なんだその口調は!

 なに、庶民相手に無理に会話を合わせろとは言わんとも!」


「ッ……」


 ロジーの煽りにも一切動じていない。

 恐るべしトリトン……いや、それとも単に皮肉だって気付いてないのか?

 だがどちらにせよ、このまま放置していては、いつロジーが彼に殴りかかるかわからないな。


「あー! あー!

 それよりロジーさん、僕らは今どこに向かってるんですかね?

 狭い地下トンネルをかれこれ1時間ほど歩いている気が!」


「……向かってんのは依頼人の所だ。

 こんな陰気な道通ってんのは、お前らがお尋ね者のせいだ」


 よし、なんとか話題は逸らせた。


「それにしても、スラムにこんな地下通路の入り口があったなんて驚きです」


「このトンネルはまた別だが、アスガルズの街のほとんどはこういう地下通路が沢山あるぜ。

 神聖国を自称してる分、表にゃぁ出したくねぇもんが多いんだろ。

 改めてクソみてぇな国さ」


「じゃあこのトンネルも?」


「これは違う。

 その貴族様方愛用の秘密トンネルに外から侵入するために昔の連中が掘ったんだよ。

 結構良いモン盗れてたらしいが、最終的にバレて結界が張られて、この地下通路も用無しよ」


「へぇ〜」


 しかし、スラムの連中が手作業で掘ったにしては随分と大掛かりだな……そうしてでも侵入するほどの価値があったというわけーー


「あれ、じゃあ今僕等はどこに向かってるんですか?

 このトンネルどこにも繋がって無いんですよね?」


 金稼ぎならアテがあるとロジーが言うものだから着いてきたが、まさか俺達に盗みをさせる気か……いや、ロジーに限ってそんなことはないな。こいつは悪事を他人にやらせたりはしない。


「まあ、見たほうが早いぜ」

 

ーーー


「……」


 トンネルをしばらく進んだ先にあった怪しい階段を抜けると、広場に出た。

 周囲にはまるで、この場所を隠すかのように建物が立ち並び、外への道が一つ。嫌な光景を思い出す。

 いや、単にクロハと出会った場所に似ていると言うだけならまだ良かった。


「……これが、金稼ぎのアテですか……?」


「そうだ」


 首輪をつけられた子供達と、いかにもタチの悪そうな男達を前に、ロジーは自信に満ちた顔で首を縦に振る。

 

「ッ……何考えてるんですか!!!」


 奴隷だ。ロジーの〝アテ〟というのは、あろうことか奴隷関連の仕事だったのだ。


「うぇ!?

 何がだよ?……」


「クロハの気持ちを考えて下さいよ!!!」


 俺がそう怒鳴った後、数秒の間を置いてロジーがハッとした様に口を開いた。

 どうやらようやく気付いたらしい。


「……で、でも他にこれ以上割の良い仕事なんてないんだぜ……?

 まさかクロハがそれほどーー」


 ロジーが口答えする傍で、クロハがカクンとその場にしゃがみ込んだ。

 震えている。目元に涙が溜まっている。泣き出さないのが不思議なくらいだ。

 そんなクロハの様子を見て、俺は開口一番に口答えをしたロジーに余計に腹が立って、さらに声を荒らげた。


「だとしてもやりませんよ!!!

 そもそもロジーさんはーー」


「まあまあ落ち着けよ」


 シュンと肩を窄めているロジーに怒鳴り散らす俺を見て、誰かが俺の肩に手をかけた。大方、奴隷商だろう。こんな非道な行いは平然とするのに、ロジーには同情するんだな。

 クソ野郎が。


「うるせぇッッッ!!!

 俺は今ロジーさんと話してんだッッッ!!」


 そう叫んで、背後の男の顔も見ずに肩の手を力一杯振り払う。


「うおっとっと、怖い怖い。

 相変わらずキレだすと止まんねぇな〜

 〝兄ちゃんは〟」


「…………!?」


 体の動きがピタリと止まり、同時にブワリと冷や汗が噴き出す。

 

 『相変わらず』……?

 『兄ちゃん』……?

 おかしい、俺の知り合いに俺のことを『兄ちゃん』と呼ぶ人間は1人しかいない。

 しかもそいつはついこの前死ーーいや殺したはず……




 じゃあ、今俺の背後にいるのは誰だ?

次の更新は早めです

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