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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第3章 旅路篇

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第81話 マッドール


「なんですか……この街は……」


 目の前に広がる異様な光景を前にして、俺は反射的に隣に立っているクロハの手を強く握った。


「貴公は初めてか?

 ならとくと目に焼き付けておくが良い、これがアスガルズ神聖国の〝本当の姿〟だ」


 トリトンが目を細めて、静かにそう答えた。


 森を南下して数時間。ようやく街に辿り着けたかと思えば、なんなんだここは……

 

 街の景観は、他と大して変わらない堅苦しいもの。異常な点はそこではない。


「なんだか……

 身なりの格差が酷いですね……」


 そう、この街の異常さは、人々にある。一言で言えば、『極端』だろうか。

 どこを見ても目に入るのは、豪華な装飾の服に身を包んだ人々か、ボロボロの服に不健康そうな面持ちの人々。〝そのどちらかしかいない〟のだ。

 ちょうど真ん中、一般、中流家庭的な様相の人々がいない。0か100しかない。

 

「『マッドール』だ」


「はい?」


「そこの貧相身なりの者達、この国で『マッドール』と呼ばれる人種だ」


「どういう意味があるんですか?」


「こちらの地域の発音に合わせれば、『マルドゥオゥル』か。なんとも阿呆臭い名だ。

 由来は……忘れたが確か神話が元だったな。

 主に混血の人種を指す差別用語だ。

 知っての通り、この国の国教では純人族と長耳族、妖精族以外は不浄の種とされている。

 そんな奴らが真っ当な職になぞ就けるはずもなかろうて」


「じゃあ、服装が貧しい人達は全員混血ってことですか……」


「いや、少し語弊があったな、全員ではない」


「?」


「ああいった貧民の中で『マッドール』に該当する者なぞ、全体の3割程度だ」


「じゃあ残りの7割は……?」


「其奴らはこの街ーーこの国の重税に押し潰されて行き場を失った者ども。

 ただの純人族だ」


「重税……それは戦争の影響ですか?」


「然り。

 元々重税で有名だった国が戦争を理由に、馬鹿げた大金を市民から巻き上げているのだ。

 観光や主要都市はそれほどでもないが、地方は別だ」


 主要都市だけ栄えてりゃ良しか。中央集権的、わかりやすい悪政だな。よく神聖国なんて謳えたもんだ。

 

「なるほど、つまりこの光景から予想するに、僕達が今いるこの街は王都や主要都市から離れた所に位置してるわけですね?」


「明察……と言いたいところだが……

 それよりも貴公、気づいているか?」


「?……

 何にですか?」


 俺の問いに対し、トリトンはため息を吐いて続けた。


「視線だ。

 先程から周囲の者達が、我々をジロジロと見ているのだが……」


 そう言われて周囲を見渡すと、いつの間にか俺達を中心に妙な人だかりができていることに気づいた。


『なあ、あの銀髪の子供……』


『ええ、きっとそうよ……

 もしかして、隣で顔を隠している子供も……』


 ヒソヒソと、周囲から声が漏れて聴こえてくる。

 銀髪……俺の話か?

 そういえば、俺は今染めていた髪の色が落ちていたな。

 銀髪なんてこの世界でも滅多に見ないし、相当珍しいのーー


『やっぱりそうだ!

 あいつら手配書にあったガキだッッッ!』


 人だかりの奥で誰かがそう叫び、民衆ーー主に例の『マッドール』と呼ばれる人々の俺達への視線が、より強いものへと変わった。

 これはあれだ。獲物を狙う獣の目だ。


「ん……?

 ディンよ、手配書とは何のことだ?

 そしてなぜ、この者どもはジリジリとこちらに迫ってきているのだ?」


「トリトンさん……

 これがその〝とある事情〟なんです」


 やっちまった。

 もう四ヶ月ほど前だったのと、ここ最近の忙しさですっかり忘れていた。

 そういえば、俺とクロハはどことも知らん奴隷商会に指名手配されていた。

 てかしつこいな、まだ指名手配続いてたのかよ。


「何……?

 どうするつもりだディン•オード」


 トリトンが目を細めながら、ゆっくりと槍を構える。


「傷付けるのはダメです、余計に摩擦を生みます!

 霧です!

 霧をお願いできますか!?」


 流石にこんな遮蔽物もない大通りで大勢に囲まれては正面突破は不可能。

 かと言って、だらだらと言い逃れをしていては、騎士を呼ばれる。トリトンがいるから瞬殺も可能だろうが、それではなおトラブルを招くだけ。

 ここは霧で撹乱してひとまず退散しよう。


「霧!?

 まさか私に混合魔術を使えと言うのかね!?」


「そのまさかですよ!

 大至急です!

 水魔術を無詠唱で扱えるんだからできるでしょ!?

 早く!!」


 幸い、貴族階級の人々は俺達に見向きもしていない。簡単な混合魔術だが、発動を妨害されることはないだろう。


「ええい無茶を……

 始まりの息吹ーー」


 トリトンの詠唱が始まった。

 クロハが剣を抜いて周囲に威嚇してくれているおかげか、人々はまだ俺たちとの間合いを測れていない。

 これなら霧の魔術が間に合いそうだ。


 ダメ押しで俺も威嚇しよう。


「退がれ!!!

 それ以上近づけば、この男の魔術の餌食にするぞ!」


 トリトンを指差しながらそう叫ぶと、周囲の人々がざわつき始めた。

 逃げ出す者もチラホラ見受けられるが、残りはジリジリとたじろぐ程度。まあハッタリならこんなもんか。


「ーーその熱を我が手に、『濃霧』!」


 トリトンが叫び、辺りが一瞬にして彼の生み出した白煙に包まれた。


『うぉぁぁぁぁぁ!?』


 人々の歓声が響く。


「霧だ!! 逃げられるぞ!!」


「誰か風魔術を使え!!」


 予想通り周囲は大騒ぎ。

 この隙に乗じて街から出るとしよう。


「2人とも、今のうちに逃げまっーー

 ッッッ!?……」


 霧の中でそう叫びかけたところで、突然真っ白だった視界が真っ暗になった。


「ッッッ!?」


 失明したわけじゃない……!

 このザラザラとした肌触り……袋だ!

 誰かに革製の袋を被せられてる!?


「うぇ!?

 ちょッッッ!!」


 振り解こうと思って力んだ矢先、そいつが俺の体をヒョイと担ぎ上げ、そのまま走り出した。


「離せ!!

 ふざけんな!!

 トリトン!!!!!

 クロハ!!!!!!

 ここだ!!!」


 せめてもの抵抗で大声を出してバタついてみるも、拘束は一向に解けない。2人の応答もない。

 俺が逃げ遅れたことに気付かずに、2人はもう街を出てしまっているのか……?

 嘘だろ……?

 

ーーー


 担がれたまま数十分程経ったところで、ようやく椅子らしきものに座らされ、顔に被されていた袋を取ってもらえた。

 数十分とは言ったが、運ばれて数分し出してから周囲がやけに臭くて臭くて、とても意識を保てそうになかったから、寝てたんだがな。

 ていうか、今も臭い。地方の小さいカードショップみたいな匂いだ。

 すまん、話が逸れたな。まずは俺がどこに連れてこられたのかだ。


 ぶっちゃけ俺もわからん。

 ボロくて臭い小屋に監禁されていることしか。

 

「兄貴……こいつどうします……?」


 ボロい椅子に縛り付けられた俺を前に、犬耳ーーおそらく獣族の男が、隣に立っている強面の男に尋ねた。

 見るからに鼻の効きそうなこの犬耳男が、おそらくあの霧の中で俺を捕らえたのだろう。


「どーもなにもヨォ、捕まえたは良いんだが、役所に入れない俺たちが捕まえたところで、賞金以前の問題じゃねえか……」


 隣の強面が、頭を掻きむしりながらため息を漏らす。

 ガリガリと掻きむしっているその頭からは、シラミやら埃がポロポロとこぼれ落ちて……

 うぅ……見なかったことにしよう。


「そうかぁ、たしかに……

 あ、でも今あの人がいるんだよな!?」


 犬男がシュンと耳を下げたかと思えば、突然声を明るくしてそう叫んだ。

 いちいち騒がしい奴だ。

 

「!……

 たしかにそうだな。あの人なら入れるか!」


「俺探して呼んでくるよ兄貴!」


 そう言うとすぐさま、犬耳男が勢いよく小屋を飛び出して行った。


「……」


「……」


 急に静かになった。

 しかし、今なら色々聞き出すチャンスだ。


「あの……」


「あ!?」


 強面の男が面倒くさそうに俺を睨む。

 あー、嫌だ嫌だ。

 けどここで引き下がるわけにもいかん。


「あの……ここはどこですか……?」


「あ?……スラムだよスラム。

 大人しく静かにしてろ、ガキが……」


「っ……ぅす……」


 なるほど……スラムね……

 つまり、賞金がかかってる俺はこいつらにとって金のなる木ってわけね。


 え、やばいじゃん……

 ここからどうすんのさ……

 いや交渉するしかないだろ。

 よし、何をする……俺には何がーー

 って、ん……?


 貧乏ゆすりをする男を前に俺が思考を巡らせると、ふと不思議な光景が目に入った。


 浮いている。

 男の背後のテーブルに置いてあった酒瓶が、突然フワフワと空中に浮き出したのだ。

 ポルターガイスト……いや、新手のスタンド攻撃だろうか。

 

 そして間髪入れず、瓶が凄まじい勢いで男のこめかみへと飛んでいった。

 当然、男は迫り来る危険に気づいていない。


「がっ……!?」


 瓶が割れるほどの勢いでそれを叩き付けられた男が、バタりと頭から倒れた。


 それから間も無くして、その欠けた瓶は、フワフワとこちらに向かってゆっくりと近づいて来た。


 えっ、ちょ……怖い怖い!

 次は俺が殺されるの……!?


「っ……ひょっとしてクロハ……!?

 嫌そうだよね!?

 そうなら止まって!?!?!?」

 

 願望混じりにそう叫ぶと、浮遊していた瓶の動きがピタリと止まり、それからすぐに瓶の周りの空間にクロハの姿がスーッと滲むように映り出した。





「え、マジのクロハじゃん」


お久しぶりです。

突然ですが、作品に関する重要なお知らせを活動報告の方に載せさせて頂いたので、宜しければ目を通していただけると幸いです。

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