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第77話 迷宮決戦⑰ ー決着ー


「もういいよ、ディン」


 全身全霊の魔術を放とうとした時、誰かが俺の肩を叩いた。

 一瞬、背後を取られたことに肝を冷やしたが、聞き覚えのある声だということに気づいた。


「リディさん……」


 俺の背後には、リディがいた。


「……無事だったんですね、よかったです」


 リディは傷どころか、服に汚れ一つついていなかった。

 彼が強いのは知っていたが、流石にここまで化け物じみているとは……


「うん、そっちこそ…………

 うん……まあ、無事だね」


 俺の体をしばらく見つめていたリディは、バツが悪そうに頬をポリポリとかいた。


「……リディか?」


 剣を杖代わりにして片膝をついていた糞やろーーセリが、顔を上げた。

 先程まで元気だったのに、どうして急にあんなに弱り出したのだろう。


「2回しか権能を使ってないのにその消耗具合……

 どうやら適性がなかったようだね」


「適性?」


 俺がそう尋ねると、リディはセコウの持つ剣を指差して、語り出した。


「ソロモンの魔剣には、必ずその能力を開花させた〝初代〟がいるの。君の知ってる人だとラルドとかだね。

 そんで、初代以外の人がその剣を使うとなると、引き出せる能力に差が出てくるんだ。あと能力使用時のリスクとかもね。

 現に、今君の前でへばってるセリは能力を2回しか使ってないのに、立ち上がれないほどに消耗しているだろう?」


「あの魔剣の能力って何ですか?」


 ていうか、そもそも能力を使われてたことにすら気づかなかった。


「誰かから聞いた話だと、『刀身が触れた相手の魔力を奪って自分に還元する』ってやつだね」

 

「え、じゃあ僕の魔術に対しても、その能力が使われてたんですか?」


「それはないね。セリの体にはもう魔力がほとんど残ってない。

 だから多分、セリが使える能力は『魔力を奪う』っていう部分だけで、『自分に還元』は出来ないんじゃないかな」


「はあ、なるほど……」


 魔力吸収『だけ』なんて軽々しく言ってるが、それめちゃくちゃ強いと思うんだが。


「さっき君が仕留めた魔剣使いと組んでいたのを察するに、セリの相方の能力は『回復系』かな。それも特殊なやつ」


「え、魔剣使い……?」


「君がさっきペシャンコにした男だよ。

 まだ生きてるみたいだけど」


「あ、あの人も……」


「全く、危なかったんだよ? 

 俺の到着がもう少し遅れてたら、この広間——いや、このフロアは今頃瓦礫の山だった。

 全力で戦うことを悪いとは言わないが、流石にさっきの『岩砲弾』は後先考え無さ過ぎだ。

 君自身は崩落から身を守れるけど、セコウや後ろで控えてたクロハをどうするつもりだったの?」


「でもあいつ——

 痛てッッ!」


 リディが俺の頭にゲンコツを入れた。

 いつもより力が篭っている気がする。


「言い訳しなーい。

 悪いけど、これ以上君とセリを一緒にいさせるわけにはいかない」


「でもッ!……でもこいつが!!」


 そうだ。こいつがいなければ、俺はこんな目に遭わずに済んだんだ。

 ラトーナを売っ払おうとしてたやつだ。こんな悪人、早めに殺した方がいいに決まってる。


「随分食い下がるね。

 仕方ないな……」


 リディはそう言って、俺と視線を合わせるようにしゃがみ込み、俺の顔に向けて手を伸ばした。


「悪いね。

 また後で会おう」


 リディのその言葉を最後に、突然俺の視界がブレて、意識は暗闇へと落ちていった。


ーーー


「では、私は行くとする」


 リディの前に立つ人影はそう言って、ディンを担ぎ上げた。


「うん、頼んだよ。

 じゃあ、クロハもまた後でね〜」


 リディアンは笑って、人影の横に立つ少女——クロハに手を振った。


「……」


 クロハはリディをじっと見つめたまま、口をつぐんでいる。

 それを見て、リディは困ったように頭を掻きむしった。


「あれ、伝わらなかったかな?

 『-・・- -・ --・-- ・・-・・ ・-・-- ・・ --・-〜』」


 魔神語に言い直して再び手を振ったリディに対し、クロハはそっぽを向くようにして彼から視線を逸らした。


「ん〜……ディンに手荒な真似したのが良くなかったかな。

 ……まあいいか、じゃ、行っていいよ〜」


 リディが苦笑しながらそう言うと、ディンを抱えた人影がクロハの肩をそっとつつき、廊下の方へと彼女を連れて歩き出した。


「話は……終わったのか?」


 ディン達が去るのを見計らって、広間の隅で事が済むのを静かに待っていたセリが口を開いた。


「ああ、終わったよ。

 改めて、久しぶりだね。セリ」


 彼らの背中を見送ったリディアンが、セリの方に向き直って笑う。  


「……随分と、立ち振る舞いが変わったじゃねえか。

 前はもっと陰気な奴だったのによ。まるで昔のラルドだ。真似でもしてんのか?」


「ははっ、どうだろうね。

 そういうセリは、昔と変わらないね。

 相変わらず姑息でケチだ」


「ハッ、今のオメェに……言われたかねぇな。

 ラルドのガキと魔族の娘なんか連れ回してよ。何企んでんだ?

 まさか、兄ちゃん(ディン)を使って、ラルドに仕返しでもするつもりか?」


「ははっ、嫌だな〜

 俺はそんなみみっちいことしないよ。

 やるならもっと大胆にやるつもりさ」


「……じゃあなんだ?

 兄ちゃん(ディン)の境遇に同情でもしたのか?

 昔のお前と似てるもんなぁ」


「ははっ、そうかもね」


「……答える気はねぇってか」


「悪いね。秘密主義なもんで〜」


「そんな秘密(モノ)を抱くより、女の1人でも抱いたらどうだ?

 少しは、そのひん曲がった性格もマシになーー」


「……」


「……なんだ?

 まだ〝あいつ〟のこと引きずってんのか?

 小せぇ男だなぁ〜お前はよぉ〜」


「俺は小さい男だよ。

 それに……いや、少し話し過ぎたな。

 そろそろ幕引きにさせてもらうよ。魔剣も回収させてもらうね」


「……そうか」


 2人の間に、一時の静寂が訪れた。


「……なぁよ?

 こんなこと言えた立場じゃねえが、元同僚のよしみで、あいつぁ見逃してくれねぇか?」


 セリは落ち着いた声音で、広間の壁にめり込んでいる大岩の方を指差してそう言った。

 よく見れば、壁と岩の隙間から人間の手が飛び出ている。

 先程から沈黙を保っている男——ブエルの手である。


「あいつ……?

 ああ、もう1人の魔剣使いね。

 珍しいね、あんたがそんなこと言うなんて」


「気のいい奴だったからよ。

 それだけのことさ」


「ふーん。

 まあ、面倒だから殺しはしないけど、助ける気も無いよ。

 致命傷ではないから、あのまま自力でなんとかしてもらう」


 そう言って気怠そうに伸びをするリディアンを前に、セリが突然鼻唄を歌い出す。


「〜♪」


「……何? その歌」


「ん? 知らねえのか?

 国蛇様の歌だよ。こっちだとミーミルで歌われてるものと少しメロディーが違うんだ」


「国蛇様……ああ、『国縫いヘビ』か。

 『太古の昔、文字通りバラバラだった国々を、大蛇自らが糸となることで繋ぎ合わせて一つの大陸にした〜』だっけ?

 面白みがない話だよね。ムスペルの王様も言ってたよ。

 神格化するにしても何にしても、どうして蛇なのさ」


「いやよ?

 この迷宮には面白い文献があってな。

 なんでも、本当にいるらしいんだよ。

 この迷宮の最下層——つまりこの階のすぐ下によぉ」


「は?……」


 リディがそう言葉を漏らした瞬間、迷宮の広間に地響きが鳴った。


「!……

 なんの地震だ!?……」


「わからねえか?

 散々爆発やらなんやら騒いだからな!

 目覚めたんだよ。その『国蛇様』がよ!」


「ははっ、まさかね。笑えない冗談だ」


「冗談かどうかは今にわかるぜ。

 これが俺の最後っ屁だ。一緒に地獄まで来てもらうぜ? リディ」


「ッ……」


 未だ鳴り止まぬどころか、その激しさを増す地響きの中、リディは慌てて近くで気絶していたセコウを担ぎ上げて走り出した。


「へっ、今更逃げたって間に合わねえよ」


「期待に添えなくて申し訳ないが、俺はまだ死ぬわけにはいかないからね。

 あんたのことは嫌いだけど、久しぶりに話せて良かったよ」


 壁にもたれかかったままヘラヘラと力なく笑うセリを尻目に、リディアンはそう言って笑い、広間を後にした。


「……ハッ、相変わらず癪に触る奴だな」


 地響きと共に崩れゆく広間の中で、セリはそう呟いて目を閉じた。


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