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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 迷宮決戦篇

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第76話 迷宮決戦⑯ー出会ってしまった2人ー


「セコウさんッッッ!!!」


 黒い煙が漂い、蝋燭の火が激しく揺れる迷宮の広間に、少年の声が響いた。


「ディン……」


 地面に背をつけて目を閉じていたセコウが、ディンの方に首や傾けた。


「大丈夫ですか!?……」


 一瞬、セコウの足に目をやったディンが顔を青くして声を上げる。


「……まあ、なんとかな」


 セコウはそう言って力なく笑うと、目を閉じて静かになった。


「セコウさん!?」


 ディンが慌ててセコウの脈をはかる。


「良かった……死んでない」


「よお、兄ちゃん。無事だったか……」


 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。


 酷く抑揚のない声と共に、広間の奥に漂っていた黒煙をかき分けて、その男は現れた。


「……やっぱりあんたか、セリさん」


「そうだよ、俺だ。 元気してたかぁ?

 もっとも、どの口が言ってんだって話だがな。ハハッッ」

 

 鋭い眼光を向けてくるディンを意に返さず、セリは抑揚なく笑った。


「……」


「なんだよつれねぇな。一ヶ月ぶりの再会だろ?

 何も言うことーー」


「あなたですかッ!!」


 ヘラヘラと笑うセリの言葉を遮って、ディンが吐き出すように声を上げる。

 そんなディンの額には、薄らと青筋が浮かんでいた。

 

「……何がだ?」


 セリがため息を漏らしながら、歪な作り笑いを浮かべる。

 まるで、駄々をこねる子供をあやすような表情だ。


「とぼけるな。半年前の社交会……アレはあんたがやったのか……?」


「『アレ』?…… なんのことだ?」


「ッッッ!!!」


「はいはいわかったよ、いちいち気を立てるなって」


「……」


「ーーで? 社交会のことだったか? ああそうだよ。あの襲撃は、俺がフィノース家に雇われて全部仕込んだことだ」


「……じゃあ、演奏者をやってるってのも」


「嘘だよ。あれは潜入するために色々と準備した結果だ。全く、苦労したぜ……」


「……じゃあ、人質をとってエドマさんを操ってたのもやっぱり」


「ああ、俺だよ」


 セリが最後にそう言うと、ディンは口を閉じて、拳を強く握り締めた。

 ディンは事前に、セリが敵である可能性をリディアンから知らされていた。

 しかし、一時とは言え共に笑い合った仲であるセリが敵であるという事実は、こうして相対してもなお、ディンにとっては受け入れ難いものであった。


「ハハッ、その顔、その殺気。キレた時のお前の親父そっくりだぜ?

 でもよ兄ちゃん、俺に怒りの矛先を向けんのは少々筋違いじゃねえか?」


「……」


「別に、俺はあいつらに恨みがあったわけじゃねえしよ。悪意を持ってやったわけでもねえんだ」


「……じゃあなんだよ」


「それが俺の仕事だからだよ。何当たり前のこと聞いてんだ。俺は傭兵として雇われたから、今こうして戦ってんじゃねえか」


「ほかに仕事はないのか」


「ハッ、お生憎様。孤児だったもんで、俺はこれぐらいのことしかできねぇんだよ。てめぇと違って、最低限の読み書きしかできねえからな。生まれの差ってやつだ」


「……」


「返す言葉もねえってか? 次からは、もう少しものを考えてから話すこったな。

 ーーで、話は変わるが、ここに来たってことは俺達に付くってことだろ?」


「……は?」


「トリトンとか言う騒がしい奴から、話は聞いてんだろ?」


「……あいつは倒した」


「っ!?……」


「あと……お前の仲間になんか、ならない」


「……そうかい。どうも俺はモテねぇんだな」


「当たり前だろ、お前みたいな汚れ仕事やってるやつが」


「あ、汚れ? 

 やっぱ風呂か?

 いけねーな兄ちゃん、これだから貴族は……

 あんたらみてーに好きな時に風呂入れるわけじゃねえのよ」

 

「……風呂に入るのはやめておいた方がいいんじゃないか?

 あんたから〝汚れ〟を取り除いたら、存在ごと消えてしまいそうだ」


「そりゃ耳が痛ぇな!」


 そう言って笑うセリに対し、ディンは静かに舌打ちをした。

 いくら皮肉を吐いて平常を取り繕っていようとも、ディンは段々とセリに対する怒りが抑えきれなくなっていた。


「……どうして、エドマさんにあんなことした。

 もっとやり方があっただろ」


「あ? 奴隷紋刻んだことか?……

 知るかよ。

 俺は俺の知る一番効率の良い手を取っただけだ。

 それに、奴隷紋やら人質のおかげで、そこでへばってる旦那セコウの同情買えたんだからよ。

 結果的にはあの姉ちゃんも、寿命が少し伸びて良かったじゃねえか」


 セリはそう言って、ディンの傍で気絶しているセコウを指差した。

 

 ディンは、セコウやエドマのことなど正直もうどうでも良かった。

 それ以上に、社交会での襲撃がセリの手によるものであったことに、激しい憎悪を抱いていた。

 愛する人間を、世話になった人間を危険に晒し、自分自身の心に傷を負わせた目の前の男が、何より許せなかった。

 ただ純粋に、「こいつを殺したい」という感情が、彼の奥底から湧き上がっていた。


「……兄ちゃんは綺麗事が多いなぁ。

 甘々だよ。

 まっ、環境が良かったんだろうな。

 その〝甘い〟言葉で、あの金髪の嬢ちゃんも落としたのか? え?」


「ーーーーー」


「惜しかったなぁ〜

 あの嬢ちゃん、娼館にでも貴族にでも売っ払えば、一生遊んで暮らせーー」


「セリィィィイイイッッッ!!!」


 セリが話し終えるのを待たずして、ディンが怒声を上げる。


「そんなにデケェ声出さなくたって聞こえてらぁッ!!!

 来るならとっとと来たらどうだッ!!!」


「オオオオオォォォォォォッッッ!!!」


 雄叫びを上げながら走り出すディンを見て、待ってましたとばかりにセリが手を叩く。


 すると、セリの背後に漂っていた黒煙に隠れていた男ーーブエルが、そこからディン目がけて一直線に飛び出した。


 凄まじい速さで迫り来るブエルに対し、ディンは足を止めることなく腕を突き出し、叫ぶ。


岩砲弾ストーンキャノンッッッ!!!」


「!!!」


 瞬間、ディンの手から放たれた、視界一面を覆い尽くすほどの巨大な岩の塊が、広間の天井と床をゴリゴリと削りながら、相対するブエルの元へと迫る。

 激しい憎悪によって、一時的に精神的リミッターが外れたディンが放つその『岩砲弾』は、本来の120%以上の威力となった純粋な殺意の塊。


「なっーー」


ズッッッッッゴオオオォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッ!!!


 いとも容易くブエルを飲み込んだ岩の塊は、その勢い弱まることなく広間の壁へと衝突し、轟音と凄まじい衝撃波を生んだ。


「ブエッーー

 ッッッ……!?」


 ディンの撃ち出した岩に巻き込まれて広間の壁面に激突したブエルを追うようにして、セリは反射的に空いていた左手を伸ばしかけるも、二撃目の砲弾が自分のすぐ目の前まで迫っていることに気づく。


(早い……! 連射できんのかよ!?……)

 

 咄嗟にサイドステップを踏んで巨大な砲弾から逃れようとしたセリだったが、反応が一瞬遅れ、伸ばしていたその左腕は岩に飲まれた。


 無くなった左手を剣を持つ手で抑えながら、セリはディンの方へ素早く視線を戻す。


「フーッッッ……

 フーッッッッッッ……」


「ハハッ……

 正気か……?

 このままじゃ迷宮がもたねぇぞ?……」


 目を爛々とギラつかせて息を荒くするディンを前に、セリは剣を構えて苦笑した。


「ぶっ殺してやる……」


 そう吐き捨てたディンは、再びセリに向けて手をかざす。


ーー岩砲弾ーー


「またさっきのかッッッ!!!」


 ディンから放たれた巨大な砲弾をセリが両断し、素早く間合いを詰める。


 対して、ディンは回避の動作を見せない。


ーー風波(エアバースト)ーー

  

 単なる中級魔術。

 しかし、並外れた魔力出力を持つディンが全力で放つそれは、超級魔術『暴嵐』に近い威力のものであった。


「ぐあッッッ!?」


 ディンを中心にして生まれた暴風が、セリを壁端まで吹き飛ばす。


「ちっ……クソッタレめ……」

(近づかせてすらくれねえってか……

 早く仕留めねえと、天井が崩落するどころか、あいつが……)


 素早く体勢を立て直し、剣を構え直したセリだったが、目の前には既に岩の砲弾が迫っていた。


「うぉ!?」


 再び砲弾を切り裂こうと、迫り来る岩に剣先を添えるもその刹那、セリは妙な感触に気づく。


(さっきより硬度が上がってやがる……!

 魔剣の出力を上げねえとダメか!!!)


「全部だ!! 『鸛ノ鉤爪(シャックス)』ッッッ!!!」


 セリがそう叫ぶと同時に、彼の持つ魔剣が発光し始め、強い光を帯びた刀身がディンの放った大岩をバターのように切り裂いていく。


 真っ二つになった大岩は、そのままセリを通り過ぎて壁に衝突し、再び広間には土埃が激しく舞った。


「ハァッ……ハァ、くそ……

 根こそぎ持って行きやがった……」


 よろよろと膝をつくセリ、その顔からは血の気が引いていた。


 そんなセリを前に、ディンは再び『岩砲弾』を発射する構えをとる。


 ディンの手から生成された小さな岩が、高速で回転しながら徐々にその大きさを増していく。

 

「……これで死ーー」


「ディン、もう良いよ」


 ディンが魔術を放とうとそう口にしたその時、何者かが背後からディンの肩を叩いて、そう言った。


 一瞬ビクリと身を震わしたディンだが、彼はすぐさま腕を引っ込めて、その聴き慣れた声の方向に首を回した。


「……リディさんですか」


 血走った彼の目には、リディアンの顔が写っていた。

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