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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 迷宮決戦篇

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第74話 迷宮決戦⑭ー遺産の力ー

【リディアンサイド】


「未来が見える……だと?」


 静寂の中、当主ーーマリンがリディアンを睨む。


「ああ、見えるよ。

 首だけになって、この汚い広間の床に転がってる、君達の……姿がね」


「ほざけ!!!」


 マリンの背後で控えていた魔術師が、リディアンに『神槍』を放つ。

 がしかし、放たれた水の光線が彼に届くことはなく、彼の目の前で霧散した。リディアンの対魔術結界である。


「貴様、勝手に攻撃をするな!」


 その魔術攻撃に続いて飛び出そうとする戦士達を、マリンが一喝する。


『……ハッ、申し訳ありません』


 男達はすぐさまその足を止め、マリンの後ろへと下がっていく。


「……次からは気をつけろ」


 マリンは焦っていた。

 代々隠し続けてきた遺産の正体がバレたこともそうだが、なによりも、リディアン•リニヤットという男自身に。

 かれこれ、戦闘は1時間近く続いているにも関わらず、リディアンは『遠隔で王女に張った結界』と『己を包む結界』、その両方を一度たりとも解除していない。


 たしかに無詠唱魔術は、本来の詠唱魔術より消費魔力が極端に少ない。

 しかし、それを差し引いても、代々研鑽されてきた相伝魔術を凌ぎ切るほどの結界を何十分も維持するのは困難。

 それを可能にしてしまうリディアンの底なしの魔力量に、マリンは戦慄していた。


「君達も随分焦ってるよね〜」


「?……」


「国宝の『鸛ノ鉤爪(シャックス)』と……

 ん? あとなんだこれ……魔剣……だよな?

 まあとにかく、ソロモンの魔剣二本に加えて、分家の精鋭十数人、果ては迷宮へ誘導するための民衆の操作。

 そんなに、社交会での一件が響いてるの?」


「……魔剣? 何のことだかな」


 そうシラを切るマリンの頬には、冷や汗が伝っていた。


「とぼけても無駄だよ。

 俺には〝視えてる〟から」


「ハッ、貴様が死ぬ未来がか?」


 マリンが笑みを浮かべながらそう問うと、リディアンは口をつぐみ、その姿を一瞬眩ませた。


「つまらない冗談だ。ユーモアに欠けるよ。

 『遺産』の使い方もろくにわかってない君が、俺に勝てるわけないだろ」


「ぐっっっ……!!!」


 一瞬にしてマリンの背後に回ったリディアンが、それに反応して振り向いたマリンの顔面に拳を打ち込む。


 『この拳はやばい』と、すぐさま回避を試みたマリンだったが間に合わず、彼は大広間の端まで凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


「マリン様ッッッ!」


「当主さーー」


「手を出すなッッッ!!!」


 駆け寄ろうとする部下達を制止するように、瓦礫の山からよろよろと起き上がったマリンが、声を上げる。


「全員ッッ!!!……

 この男に……近寄るなっ……!

 こいつ……魔力……魔力がッッッ!!!」


 顔一面を血に染めて、声を振り絞るマリンを見て部下達は、これまでにない恐怖を覚えた。


 マリン•フィノース•リニヤットという男は天才だった。

 生まれてから今に至るまでの三十数年間、戦闘において一度も血を流したことがなかった。

 若かりし頃の鍛錬の日々でも。

 当主選定の決闘でも。

 果ては、上位の魔物に分類され、討伐の際には軍が動くと言われている飛竜討伐においても。

 彼はそのどれにおいても、目立った怪我を負うことがなかった。

 部下ーー同じ家の者達も、それをよく知っていた。

 

 しかし、この状況はどうだ。

 リディアンに殴り飛ばされたマリンの顔からは、ダラダラと赤黒い血が流れている。

 

「気づいてる?」


 受け入れ難い事実を前に、ただその場に立ち尽くす男達に、リディアンが問いかけた。


「……何がだ」


 男達の内の1人が、そう問い返す。


「君達が今、普通に喋ってることだよ。少し前まで『念話』で話してたのにさ。

 焦ると使えなくなる制約でもあるのかな?

 それとも、ただ焦って使うの忘れちゃった?」


「!……」


 その場にいた、リディアン以外の全員が、息を飲んだ。


 リディアンの読みは正しかった。

 フィノース•リニヤット家が所持する王の遺産、『影の共犯者(サイレントセッション)』は、〝相手と思考を共有するチャンネルを創り出す〟能力であり、いわば『念話』である。

 リディアン達を強引に迷宮へ飛ばした魔法陣の設置も。

 転移先はランダムにも関わらず、明らかに計画していたかのような戦力の割り当てを行えたのも。

 今に至るまで彼らが見せた、言葉を交わさない一糸乱れぬ連携戦闘も。

 これら全てが『念話』によって成り立っていたのだ。


 そして、この『念話』の欠点は、使用時に一定以上の集中がいること。

 つまりリディアンは、彼らが『遺産』の力を使わなかった理由を両方言い当ててしまったのだ。


「またもや図星かな……まあいいや。

 せっかくだし、冥土の土産に『遺産』の使い方を少し教えてあげるよ」


 そう言ってリディアンは目を閉じ、息を深く吐いた。


『?……』


 突然静かになったリディアンを、怪訝そうに見つめる男達だったが、その表情はすぐに一変することとなった。


ーー解除ーー


 リディアンが再び目を開いたその時、彼の体から恐ろしく膨大な量の魔力が流れ出し、それは瞬く間にして、この広大な迷宮全てを駆け巡った。


ーーー


 同時刻、ミーミル王都全体を覆っていた防衛結界が消滅したことにより、王室では大変な騒ぎとなった。


ーーー

【ディン視点】


 薄暗い迷宮の廊下を、クロハと2人壁伝いに進む。


 体が鉛のように重い。

 関節がジンジンと痛む。

 少し寒気もしてきた。


 いや、この寒気はさっき感じた膨大な魔力に当てられたからかもしれない……

 あの魔力は一体なんだったんだ?


 感知が下手くそな俺でも、鮮明に感じとれたぞ。こう……無機質というか、空っぽというか……とにかく薄気味が悪い亡霊のような魔力の質だった。

 ロジーのでもなければ、セコウのでもない。ならば消去法でリディか?

 いやでも、彼は体を己の結界で覆っているから、魔力が外に漏れ出すなんてことは無いはずだ。

 となれば、敵の魔力なのか?

 随分とヤバそうな感じだが、みんなは大丈夫なのかな……


 ていうか、もう随分と歩いている気がする。迷宮なら階段があるんじゃないのか?

 全然見つかる気配ないんだが……


「クロハ、お前図書室に来る前に、階段とか見かけなかったか?」


 分かれ道に差し掛かったところで、俺の後に続いてよろよろと歩くクロハにそう問いかけた。

 一応、体力を少しだけ回復してくれるポーションを飲ませておいたのだが、どうやら効果は薄いようだ……


「……トショシツ?」


 クロハが目を細めて、俺に問い返す。

 一瞬、睨まれたのかとドキッとしたが、首を傾げていたので、どうやら『図書室』という単語がわからないようだ。

 良かった。俺が話しかけたから怒ったのかと思った……


「さっき、俺達が、いたところ、だよ」


 そう伝えると、クロハは目を閉じた。

 どうやら記憶を探ってくれているようだ。


「……」


「どうだ……?」


「……あっち」


 そう言って、クロハが、二つある分かれ道の、右側を指した。


「よし、わかった」


 図書室で見つけた日記によれば、この迷宮には呪詛魔法のトラップだけでなく、ゴーレムがや魔物がいるとあった。

 満身創痍とはいえ、1匹や2匹程度なら問題ないと思うが、出来るだけ遭遇しないように気をつけよう。


「いくぞ、クロハ」


 俺達は再び歩き出した。


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