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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 迷宮決戦篇

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第73話 迷宮決戦⑬ーケッチャク×ト×サイカイ


 鉄壁の防御『神鎧』を破り、圧倒的格上の戦士であるトリトンを行動不能にするに至ったディンの作戦は、実に余裕のないものだった。


 まず、彼の作戦の肝となったのは、彼自身の新たな特級魔術と、クロハの魔術の〝真の力〟である。


 そして、この戦闘においてのディンの唯一の勝利条件は、「トリトンに『神鎧』を使わせる」こと。


 トリトンが『神牢』を発動し、ディンの呼吸を封じた際、ディンが『濃霧』を発動して図書室一帯の視界を遮ったことには、二つの理由があった。


 一つ目は、ディンの切り札である『氷の魔術』を相手に見せないためだ。


 自力では解除不能と言われている水の拘束魔術『神牢』を破るためにディンが編み出した対策は、一度『神牢』の水を凍らせて、相手からその水のコントロールを奪い、その氷を壊して顔から剥がすこと。

 であるため、トリトンから受けた魔術を処理する際、どうしても『氷の魔術』を使用する必要がある。


 しかし、「トリトンが『神鎧』を使った瞬間、丸ごとそれを凍らせて相手を封印する」というのが、ディンにとって唯一の勝ち筋であったため、相手にその選択肢を浮かばせないためにも、『氷の魔術』が使えることを隠す必要があったのだ。

 

 そして二つ目の理由は、〝クロハの真の魔術〟をトリトンに見せないため。


 トリトンはクロハの魔術を『自身を透明化する能力』と認識していたが、実際は全く違う。

 クロハの魔術は『対象の〝見た目のみ〟を自由に変更できる能力』である。

 発動条件は、変身させたいものを強く•精確にイメージした上で、変身対象を己の魔力で包むことである。

 例えば、そこらに転がっている石ころをナイフに変身させたいのならば、『ナイフ』をイメージした状態で、石ころを自分の魔力で覆う。

 すると石ころは〝見た目だけ〟ナイフになる。


 この魔術はあくまで〝見た目だけ〟の変身であり、実際に触れた際の質感や大きさ、形状は変身前のものと同じである。

 つまりは〝物体に幻を貼り付けている〟ようなものなので、実際に触れれば偽物だとすぐに気づく上に、魔力による攻撃を受けると、その幻はすぐに崩れてしまうのである。

 また、この魔術の弱点はそれだけではない。

 変身はクロハのイメージに依存するため、あまりに細かいものや、クロハが知らないものは再現できない。

 さらに、クロハの創り出す変身のベールは前述した通り脆く、変身者が魔装ーーすなわち身体強化が行ってしまうと、変身が乱れてしまうため、近接戦において非常に無防備になってしまうのだ。


 クロハがトリトンを不意打ちした際、わざわざ透明化を解いたのは、このためである。


 話を元に戻せば、ディンが霧を出した二つ目の理由は、『クロハがディンに、ディンがクロハに変身してすり替わるのを』そして、『切り札である氷の魔術』をトリトンに目撃されたくなかったからである。


 クロハはトリトンの警戒からほぼ外れていたため、『神牢』を破った際のトリトンの動揺と、変身したクロハの囮と合わせれば、接近できる可能性が格段に上がるとディンは判断した。

 しかしこれは、ほとんどがトリトンの心境に依存したものであり、一つの歯車が少しズレただけで破堤しかねない、まさに紙一重作戦だったのだ。


 そして、状況は今に至る。


ーーー

【ディン視点】


「……ッハァ、ハァ、なんとか上手くいった」


 氷漬けになったトリトンを前に尻餅をつき、そのまま大の字になって倒れた。

 霜が降りた床からは、パキパキと心地の良い音が聞こえる。


 戦いは終わったというのに、足の震えが治らない。耳鳴りや目眩、倦怠感も凄い。

 そしてとにかく体中が痛い。

 最中は自覚していなかったが、相当な無理をしていたのだろう。


「ふぅ〜……」


 深呼吸しながら天井を仰いでいると、スタスタとこちらに歩いてきたクロハが、ひょっこりと俺の視界に入ってきた。

 

「……」


「クロハ……?」


「……」


 クロハは口を開かない。

 ただじっと、俺の顔を覗き込んでいる。

 これは……この表情は、どういう情緒を表しているのだろうか。

 死んだ魚の様な目に加えて、ラルド以上の仏頂面。

 ますます思考が読めない……


 いや、だからと言って彼女を理解することを諦めるのは良くないな。

 ただでさえ避けられてるんだ。俺から踏み込まねば距離なぞ到底縮まらない。


「怪我とかないか……?

 こう、魔力に違和感とか、前みたいに頭が痛いとか」


 散々クロハを戦場から遠ざけようとしていたくせに、結果的には彼女に頼ることになってしまった。しかも囮としてなんて…… 

 クロハの魔術はまだ未発達な上に、使用時には術者に大きな負担を強いる。


 また、彼女に辛い思いをさせてしまった。

 自分が弱すぎて笑えない。

 こんな筈じゃなかったんだけどな。

 もっとさ、異世界に転生なんて言ったら、チート能力で無双したり、ハーレム作ったり、のんびり暮らしたりとかさ……

 まあ、そんなこと言ったってしょうがないか。


「……ごメんなさィ」


 突然、クロハが声を震わせながら口を開いた。


「え?」


「うぅ……ゴめっ……んナさっーー」


 彼女の目元から、ボロボロと涙が溢れ出した。


「うあぁぁぁぁぁん……

 ---- -・- ・-・・ ・--・ -・……」


 クロハは膝から崩れ落ちる様にして、俺の胸に顔を埋めた。

 彼女の鳴き声、息遣いが、体に直に伝わってくる。

 クロハが生きている。それが改めてわかった。

 

 最後の方の言葉を聴き取れなかったのが悔しいが、体の震えからして、きっと怖かったのだろう。


 クロハの鳴き声が部屋中にこだまする中で、俺は彼女頭へと手を伸ばし、そっとその髪を撫でた。


「織りなすは魂の息吹、捧げるは我が英気、汝に祝福を。『治癒ヒール』」


 念のため、クロハと俺自身に治癒魔術をかける。

 最近覚えたての中級の治癒魔術だから、大した治療なんてできないが、無いよりはマシだろう。


「うぅ……

 よっ、こらせっと……」


 右手にできていた青痣がいくらか薄まっている。

 身体中の軋むような痛みも申し訳程度に和らいだので、力を振り絞って、重い体を起こす。


 正直、このまま数時間は眠りたいところだが、王女や他のみんなも心配だ。

 なんとかして誰かしらと合流せねば。


「……クロハ、もう動けるか?

 みんなと合流しよう」


 そう言うと、クロハは涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を上げて、首を縦に振った。


「……その前に顔拭いてやる」


 クロハの顎を指で押さえて、水魔術で彼女の顔を濯ぎ、適当に持っていた布で拭く。


「……そういえば、寒くないか?」


 クロハの顔を優しく拭きながら、問いかける。

 先程使用した『氷の魔術』は、まだ制御がうまく出来ないので、部屋中に冷気をばら撒いてしまった。

 まあでも、全力で撃たなきゃトリトンを水の鎧ごと一瞬で凍らせるなんて芸当、できなかっただろうがな。


「……さむい」


「そうか、ごめんな」


 上着を脱いでそれをクロハにかけた後、俺は氷漬けになったトリトンの前に再び立った。


ーー土牢ーー


 どデカい氷の塊を、岩の格子で囲う。

 もちろんタングステン製だから、簡単には壊せない。


 続けて、混合魔術を使う。


ーー火炎風ーー


 両手から生み出した熱風を、鉄格子ごしに、氷塊に当てる。

 

 トリトンを氷漬けにして勝利したのは良いが、このままだと彼は窒息死してしまう。

 話してみた感じ、かなり癪に触る部分も多かったが、極悪人ってわけじゃなかった。

 ていうか、割と騎士道精神的なものはあった。

 流石にこの人を殺す気にはなれない。

 だからせめて、氷だけは溶かしてこの牢屋で大人しくしておいてもらおう。

 相手はもう、魔術を使う余裕もないだろうしな。


「クロハ、こっちにおいで。 暖かいぞ」


 あんまり火力上げても危ないし……

 完全に溶けるまで、もう少しかかりそうだな。

 ちょうどいいか。体中の痛みが治まってなかったし。


ーーー


 なんとか氷は溶かし切れた。

 氷から解き放たれたトリトンは気絶していて、まだ起きそうにない。

 まあ息はあるし、放っておいても問題はないだろう。風邪ひくぐらいかな?


「クロハ、もういくぞ。 動けるか?」


 服の埃を払いながら立ち上がり、クロハにそう尋ねると、俺の隣にちょこんと座っていた彼女は、静かに首を縦に振った。

 彼女も落ち着いてきたのか、さっきより顔色が良くなった気がする。

 先程の戦闘時の彼女の興奮具合は、どこか異常なものがあった。焦りや、憎悪、怒りが彼女の目に宿っていた気がする。

 トリトンとの戦いを通して、何かトラウマが掘り出されたのだろうか。

 それとも、リディが何か吹き込んだとか……

 いや、さすがにリディがそんなことするわけないか。

 とりあえず、迷宮の探索を再開しよう。


 座っていたクロハに手を差し伸べると、彼女はそれをそっと振り払って、自分で立ち上がった。


 どうやら、共に死線を潜ったからといって、彼女との距離が縮まったわけではないようだ。

 さっき泣きついてきたのは、その場に俺しかいなかったからなのかと考えると、少し悲しくなってきた。

 どうすれば仲良くなれるのだろうか。


 まあ、そんなことは生き残ってからゆっくり考えよう。


「よし、出発!」


 俺達は図書室を後にした。


偉人紹介ファイル No.1


『ソロモン』


「持たざる王は許されない。

 なぜなら王とは搾取する者ではなく、常に与える者の立場でなければならないからだ」

 

 遥か昔、英王暦が始まるよりももっと前。

 ヘルイム王国のずっと先から渡ってきた支配の一族、『龍族』の血を引くものであり、現代では、かの『ソロモン72柱魔剣』を生み出した名匠として広く知られている人物。


 戦神としても有名であり、配下に与えた魔剣の力で幾つもの大国を破り、バトシェバ王国ーーミーミル王国の前身となった巨大な国を作り上げたとされている。

 文献により多少内容は異なっているが、その功績はどれも目覚ましいものばかりで、第12代ミーミル国王『イェン•ペレアス•ミーミル』が誕生するまで、『英雄王』の共通認識は『ソロモン王』で通っていた。


 また、その文献の多くには『ソロモン王は武芸に秀でていなかった』と記されており、彼を戦神•王たらしめていた所以は、その魔術への知識と、圧倒的頭脳であったとされている。


 なお史実では、彼は子宝に恵まれなかったとされている上、バトシェバ王国は彼が没して以降、幾度もの革命の後に崩壊しているため、現代のミーミル王族が彼の血を継いでいるかは一切不明である。


 彼の手で生み出された魔剣には謎が多く。

 製作過程、素材、魔法式共に、全てが王国の優秀な研究者を導入しても解き明かすことができなかった。


 余談だが、『ソロモン72柱魔剣』の『柱』とは、国を築き上げる際の強固な土台ーー『柱』となったことに起因した名であり、現状確認されている『覚醒』済みの魔剣は30本だそうだ。


 

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