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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 迷宮決戦篇

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第71話 迷宮決戦⑪ ー白煙のインターリュードー

【トリトン視点】


 ものごとを見る時に『過程』を持ち出す人間が嫌いだ。

 どんな道筋を辿ってこようが、重要なのは『今』であり『結果』なのだ。

 『過程』なぞ『結果』でいくらでも価値が変わるものであるべきだ。『過程』ばかりこだわって言い訳をしていては、人は前に進めない。

 きっと、『結果のみによる判断』こそが真の平等なのだ。


「これで決着だ!

 ディン•オードッッッ!!」


 「リディアンを抑えるのもそろそろ限界」と分家の者達から連絡が入って数分が経った。

 

 数階層離れている味方と自由に連絡が取れるとは、『遺産の力』とは実に便利で、奇怪なものだ。手に入れるのが待ち遠しい。


 まあそれはいい。

 問題は、すぐにでも私が彼等と交代し、魔剣持ち2人の到着まで時間を稼がなければならなくなったこと。

 勿論その為にはまず、目の前の少年、ディン•オードを迅速に処理する必要がある。

 長時間の魔術の撃ち合いに加えて、不得手な治癒魔術の使用、リディアンとの連戦を考えれば、これ以上の魔力の消耗は避けたい。


 だというのに……


「ッッッ……

 貴公、瞞着流かっ……!」


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」


 一体何なのだ、この少年は……


 彼の『魔装』ーー身体強化の練度は決して高くない。

 見たところ、八つある基礎技術のうち、『放出』と『佩帯はいたい』しか会得していないのだから。

 そして剣術も浅い。


 しかし驚くべきは、その動体視力と発想力、そして魔力だ。

 格闘に関しては素人も同然の此奴が、『超級』相当の槍術を、どれも紙一重で避けている。


 体内の魔素を魔法式に通さずして体外に放出する技術である『放出』は本来、『佩帯はいたい』や『強化』などの、その他の技術を習得するための初歩にすぎない。

 副次的な効果として、『放出』中は身体の瞬発力が少し上がるが、あくまでそれは微弱な変化。

 それ単体は戦闘に活かせるような技術ではない。


 ーーそのはずだった。

 だが、目の前の少年はどうだ。

 馬鹿げた量の魔素を体外に放出し続けることで、〝強引に〟副次効果を底上げし、元々高かった動体視力に反応できる身体を、無理やり作り出したのだ。


 気が狂っているとしか言いようがない。

 常に大量の魔素を放出し続けるのだから、通常ならすぐに魔力切れを起こしてしまい。あれだけ魔術を撃ち合った後なら尚のことだ。

 言わば、諸刃の剣なのだ。

 実力が拮抗した相手にそれを行うのはわかる。

 だが現状、奴は防戦一方。これではただの自殺行為だ。

 それとも、何か狙いがあるというのか……?

 奴の狙いが読めない。

 おのれ……

 私が迷うなんて……

 

「ッ……クロハ!! 撃てッッッ!!」


 私の槍をかわしながらディンがそう叫ぶと、部屋の端で戦況を伺っていた魔族の少女が、私の背後へと回った。

 おそらくは、魔術による援護射撃だ。


「ぬるいぞ! ディン•オード!!」


ーー神盾ーー


 攻撃を続けながら、背面に魔力を集中し魔術を展開。圧縮した水の盾を作りだす。

 こうしてしまえば、少女の援護魔術などでダメージを負うことはない。


 透明化による急接近からの散弾発射は要警戒だが、あれは射程がないと見た。

 落ち着いて魔力感知を行えば、ある程度の位置は把握できる。故に寄られる前に距離を取ればいい。

 ディンもこの少女を私に近づけたくはないようだ。

 十中八九、同じ手を使ってくることは無いだろう。

 

「勿体ない男だディン•オード!

 やはり私はお前が欲しいッッッ!」


 ディンの足目がけ、槍を放つ。


「ッ……!!! 

 嫌ですッッッ!

 しつこい、人ですねッッッ!」


 息絶え絶えになりながらディンはそれをかわそうとするも、疲労が溜まってきているのか、完璧には逃れられず、その足に槍を受けた。


 傷は浅い……がしかし、これだけ激しい運動の中では、その傷はジワジワと開いていくだろう。

 ならば回復の間など与えない。このまま失血死してもらおう。


「私個人としてだッッッ!

 何度でも言うぞッッッ!!!」


「っぁッッッ!」


 そして数多の攻防を繰り返したのち、遂にはディンの動きに、明らかな隙が生まれた。


ーー渦神槍ーー


「うッッ……!!」


 ここぞとばかりに放った渾身の突きを受けたディンの剣が砕け、彼は脱兎の如く後方へと飛び去っていく。

 あの退却時の素早さ……風魔術の逆噴射によるものだろうな。


 いやしかし、またまた驚いた。

 『渦神槍』は、三叉槍の先端に圧縮した水を纏わせ、突きと同時にそれを放出する槍術と魔術の合わせ技。

 高度ゆえに失敗の可能性を孕んでいるものの、並の騎士がこれを受ければ、それを受け止めた剣に留まらず、胴体にまで風穴が空く筈だが……


「ケホッ……カハッ……」


 表情を歪めながら血を吐いたディンが、よろよろと地に膝をつく。

 どうやら今のでも致命傷を負っていない。

 もはやしぶといを通り越して、不気味だ。異常なのだ。


「うっ……」


 ディンはすぐさま立ちあがろうとするも叶わず、そのまま体勢を崩して尻餅をついた。


 見たところ、魔力はまだ残っているが、無理な身体強化によって相当の負担が身体に掛かっているようだ。

 当前だ。

 あんな戦法、常に大声を出し続けながら急坂を走破するようなものだ。


「今の突きを良く受けた!

 だがよく見れば、同時に右手の魔道具も砕けたようだな! 

 もう限界だろう!」


 すぐにでもトドメを刺したいところだが、ここで焦るのは危険。

 妙な魔道具を封じたとはいえ、ディンにはまだ光の魔術が残っている。

 使用から発動までに1秒ほど空き時間があると聞いているが、至近距離で放たれれば、私でも防ぎようがない。


 距離をとったまま、確実に奴の息の根を止めるのが最善手だろう。


「幕引きだ、ディン•オード。

 貴公の大事な『過程』とやらは、どうやら己の首を絞める物でしかなかったようだな!」


 一度深呼吸して精神を整え、魔力を込めた手をディンに向ける。


ーー神牢ーー


 『神牢』は強力な魔術だが、無詠唱で行うとなると、かなりの集中力を要する。

 それこそ、こうして一度足を止めねば、失敗の確率が高い。

 実に不便だ。上級魔術を会得できれば、いくらかマシになるのだが……


「……」


 魔術によって新たに生み出した水に指令を送る。『神槍が命中した人間の元に収束せよ』と。


 私の手から生成された水がディンの方へと飛んでいき、奴の頭部を中心にして球体の形を成し始める。


 ディンは諦めたのか、はたまた本当に限界なのか。逃げる素振り一つ見せず、大人しくその場にへたり込んでいた。

 どのみち、彼の顔を覆った『神牢』の水には、『神槍』によって打ち込まれた座標に〝留まり続ける〟ように指令を出している。そういう術式だ。


 故に、逃げたところで水は追尾し、水を取り払うことに至っては誰であろうと出来はしない。


 呼吸を封じられた彼は、間も無く意識を失うだろう。勝負は決したのだ。

 

 ーーしかし、次の瞬間。

 水が、ディンの頭部を完全に覆い尽くした直後だ。


 真っ白な濃い霧が、ディンの体から湯水のように溢れ出し、この広大な図書室を一瞬にして包んでしまった。


「ッッッ……!!

 ここに来て悪あがきがッッッ!」


 話には聞いていたが……

 奴の『濃霧』……これほどまでの規模だとは。

 視界は一面真っ白。何も見えない……

 不意打ち狙いか?


「……始まりの運び手!

 かの者はただ走り、円環り続ける已!

 その声音に色はなく、無機質に前進を告げる!

 その軌跡に意味は無い、盲目の旅人!

 旅人よ、生命の管理者よ、今一度、我の元へ足を運び給へ!

 不浄をさらえ! 『風滝(ウィンドフォール)』!!!」


 慌てて身構えて、風魔術の詠唱を行った。


 私を中心にして生み出された風が、周囲の空気を霧と共に勢いよく押し出していく。


 無事に魔術は成功したようだ。風の魔術は苦手だ。

 完全詠唱にて使用せねば、マトモに発動できない上、魔力消費量も他属性より多い。


「ん!?……」


 おかしい……

 先程から風の魔術を使用し続けているというのに、一向に霧が晴れない。

 いや、正確には私を中心にした半径2メートル程しか視界が晴れていない。

 どういうことだ……?


 まさか、ディンはまだ霧を出し続けているのか!?

 いくら魔力を込めようが、所詮霧は霧。本来ならば少しの風で払えるものなのだ。

 だというのに、それができないということは『そもそもこれが霧ではない』か『払われる度に新たな霧を出し続ける』という2択に縛られる。


 部屋の湿気が上がったあたり、後者で確定なのだろうが……何故だ? 

 そんなことをして何になる?

 ただでさえ、馬鹿げた捨て身の身体強化で、魔力を大量に消耗したというのに、これ以上何をする気だ? 

 この隙に逃げる気か? いやしかし、相手は体力を消耗している。私から逃げ切れるはずがない。

 

 とにかく、今はこの霧を払わねば……


 魔力の消費はこの際仕方ない。出し惜しみしてる余裕もないだろう……


「……ハァッッッ!!」


 更なる魔力を両手に込め、ありったけの風で霧を押し出すと、ようやく図書室一帯の景色が晴れた。

 

「……そこにいたか、ディン・オード!

 奇妙な悪あがきをしよってからに!」


 晴れた景色の中で周囲を見回すと、銀髪の少年が先程と同じ位置にへたり込んでいた。

 魔族の少女も私の背後の位置から動いていない。

 どうやら、逃げる体力は残っていなかーー


「なっ!!!」


 待て、どういうことだ?……

 おかしいぞ?……


「貴公……どうやって……」


 どうして、あの少年の顔が外気に晒されている……

 意味がわからん。

 頭部を覆っていた水は?……



 どうして、私の『神牢』が解けている?

 

更新に間を開け過ぎました。

申し訳ございません。

次話は3時間後に投稿予定です。

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