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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 迷宮決戦篇

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第70話 迷宮決戦⑩ ー硝煙のプレリュードー



 クロハの短剣が、トリトンの背中に触れようとしたその時ーー


「ようやく姿を現したな?

 魔族の娘ッッッ!」


 この時を待ち侘びていたと言わんばかりに、トリトンは声を上げてクロハの方に向き直り、その三叉槍で彼女の短剣だけを器用に弾き飛ばした。


 剣を弾かれて体勢を崩したクロハを、トリトンがすぐさま掴み上げる。


「ッ!……」


「透明化とは随分と根暗な魔術だな! 根暗な髪色の貴様にはお似合いか! 中々面白かったが、また透明化でちょこまかと動かれては面倒なのでな! ここで死ーー」


「やめろ!! トリトーー」


「動くなディン•オード!!」


 俺が急いで二人の元へ駆け寄ろうとすると、トリトンは声を上げて、掴み上げているクロハの顔に槍先を押し当てた。


「!!」


「苦渋の選択だが仕方ない……取引だ! この娘の命は見逃してやってもいい! その見返りとして、我々の軍門に下れ!」


「ッ……交渉は辞めたんじゃなかったんですか!」


「状況が変わった! さあ付くのか、付かないのか、早急に答えよ!」


 マジかよ……クロハが人質になった以上、どうしようもないぞ?

 ていうか、寝返ったところでリディに勝てるのか……?

 返り討ちにあって終わりじゃないのか?


 いや、まだ寝返ると決めた訳じゃないだろ。リディは恩人だし、向こうに行ったところで、クロハの待遇が保証されてないんだ。


「早くしたまえ! 火急だ! この娘の待遇も私の名に誓って保障しよう!」


 そこまでするのか……

 ていうか、どうしてこいつは急に焦り出したんだ?

 状況が変わったってどういうことだ?

 何か仲間との通信手段があるのか?


「10秒で答えよ!」


 くそ……ふざけんなよ……

 こんなの答えは一つしかねぇじゃねえか……


「9秒!」


 トリトンがその叫びに合わせて、石突きを『カツン』と、地面に叩きつける。


「……わかりーー」


「ん!? 何と言った! ブツブツと……もっとはっきり喋ってはどうかね?」


 俺が口を開いた瞬間、突然トリトンがクロハにそう言って顔を近づけた。

 どうやらクロハが何か喋っているようだ。

 声が小さくて、俺には聞こえない。


 それにしてもトリトンめ……あんな耳元で大声出したら、クロハの耳に悪いだろ……


「……ぃ……」


「だ、か、ら! もっとはっきり言いたまえ!」


 トリトンがそう怒鳴ると、クロハは一度ため息を吐いて、大きく息を吸い込み、そして叫んだ。


「ーーソノ熱ヲ……我ガ、手ニッ!」


 拙いながらもその言葉の羅列は、非常に聞き覚えのあるものだった。


「む!?」


 トリトンが眉を顰める。


「詠唱!?」


 詠唱だ。火魔術の……

 クロハのやつ、あの至近距離でトリトンにぶつける気か!?

 あ、いや、違う!

 よく見たら、あの手に持ってるもの……

 まさか……


「ふむ、この期に及んで見上げた度胸だ! だがしかし、所詮は炎の初級。そんなもの後出しでも防げ……って、ん?」


 クロハを掴み上げたままため息を漏らすトリトンに対し、クロハはいつの間にかその手に持っていた筒のような物を彼に向けた。


「何かね、その奇妙な筒ーー」


火炎フレアッッッ!!!!」


 トリトンが喋り終えるのを待たずしてクロハがそう叫ぶと、部屋一帯に激しい破裂音が響いた。


「ぬあッッッ!?」


 クロハがトリトンに向けたクラッカーのような筒からは、轟音と共に凄まじい勢いの散弾が飛び出し、それに驚いたトリトンは反射的にのけぞって、彼女を掴んでいたその手を離した。

 無理もない。至近距離で顔目がけてショットガンを撃たれたんだ。

 誰だって受け身を取ろうと両手を開ける。


 だからこそ、必ず生じるであろうその隙を、俺は見逃さなかった。

 ほんの一瞬の出来事だったというのに、よく咄嗟に反応できたと、自分でも思う。


ーー土壁! 水砲弾!ーー


 トリトンの手から解放されて床に尻餅をついたクロハの体を土の防壁で覆い隠し。それと同時に、最大出力の水魔術をトリトンにぶつける。


 腕の血管全てが破裂するのではないかと言うぐらい、魔力を込めた。


「グッッッッ」


 巨大な水の塊を叩きつけられたトリトンが、部屋の端へと凄まじい勢いで押し流されていく。


 たった今放った水の砲弾は以前黒狼に放ったものより数段威力が上がっていたというのに、それを喰らったトリトンは一瞬、押し流されずに踏ん張っていた。

 俺だったら一瞬でも耐えられない。

 恐るべき身体能力だ。


 ーーいや、今はそれよりもクロハだ。

 こんなとこに突っ立っていては、また人質に取られてしまう。


「クロハ! 大丈夫か!?」


 クロハを覆っていた防壁を解き、急いで彼女の元に駆け寄る。

 

「ゲホッ……うぅ……」


 地面に手をついてむせこむ彼女の顔色は良いものとは言えなかったが、目立った怪我はない。

 どうやら無事だったようだ。

  

 ……それにしても驚いた。

 社交会の時に世話になった『使い捨ての簡易ショットガン』……もしもの時にと、護身用でクロハと王女に持たせておいたが、まさかこんな形で役に立つとは……

 いや、驚くべきはクロハだな。

 護身用と言っても、俺の作った簡易ショットガンは射程がお粗末だ。戦闘では役に立たない。

 ぶっちゃけ、一回切りの脅しにしかならない。

 だがクロハは、この咄嗟の場面でショットガンを上手く活用した。


 しかし……


「何やってるんだ! 勝手に一人で突っ込んで!! 透明化で背後から迫れば勝てると思ったのか!?」


 しかしクロハはまだ7歳で、しかも女の子。いくらセンスがあってもこんなのは褒められたことじゃない。


「……」


 クロハ俺と目を合わせず、ただ静かにトリトンが押し流された方向を睨んでいた。

 俺の話は耳に入れる気もないらしい。まるで狂犬だ。

 それでも、俺は怒鳴るのをやめなかった。


「リディも言ってたよな!? クロハの魔術は、直接戦闘に向いてないし! クロハ自身だって、まだあいつらと戦えるレベルじゃない! それなのにッ……なんーー」


「死ぬかと思ったぞ! 魔族の娘ッッッ!!!」


 俺の怒声を遮るようにして、壁際に積もった瓦礫の山からトリトンが大声と共に這い出てきた。


 胴体から血を流している……恐らく散弾を防ぎきれなかったんだろう。急所はなんとか避けたと言ったところか。

 いやそもそも、超近距離で散弾を食らったっていうのに、致命傷を避けているこいつはおかしい。

 

「……生きてたんですね」


「流石に今のは肝を冷やしたがな!」


 服の埃を払いながら、トリトンがこちらへと歩いてくる。

 治癒魔術を使って細かい傷を治してない辺り……魔力がもう残り少ないのか?


「そうですか……」


 どうする……隠れる場所はない。

 狭く感じた図書室も、いつのまにか瓦礫だらけの更地になっている。

 隠れながらの撃ち合いは、もう出来ない。

 相手は槍使い、近接でやり合うにも間合いの差があって不利……いや、それを抜きにしても相手との実力差が開き過ぎている。


 とにかく、距離を詰められたら勝てない。

 なんとかクロハを守りながら距離をとって戦わねば……

 何か……相手の意識の外から攻撃できれば、まだ勝機はある……はずだ。


 土魔術で小振りな剣を作り出し、それを静かに構える。


「ほう、あくまで抗戦の意を示すか……また何か妙案でも浮かんだのかね?」


 剣を構えた俺を見て、トリトンは顎に手を当てて眉を顰める。


「さあ、どうでしょう? 物事の結果ばかりしか見ないあなたは、予測が下手そうです」


「……何が来ようが、先ほどのように正面から受けるまでよ」


 そう言って、トリトンがゆっくりと三叉槍を構えた。

 今までの『神槍』を撃つ構えではない……恐らくは槍術の構え。

 やはり相手は近接狙い……魔力を節約しているようだ……口ぶりからして、連戦を想定してるっぽいからな。


 となればやはり、俺が最大出力の魔術をバカスカ撃ちまくるのが、相手にとって1番望ましくない状況だろう……

 できれば俺もそうしたい。だが、クロハを巻き込む危険があるのに加え、そんな事をしたら、この部屋が保たない可能性がある。

 先程放った水魔術ですら、壁に相当なダメージが入っていた。連射すれば、天井が崩落してみんな下敷き、なんてこともあり得るだろう。

 あ……

 地下を戦場に選んだのって、ひょっとして俺対策?……


「クロハ、少し離れたところから魔術で援護してくれ。できるか……?」


 くそ……結局、近接での戦闘を避ける手立てを思いつかなかった。

 やるしかない。格上との近接戦闘……


「……」


 クロハが目を細め、俺から視線を逸らす。


「一回限りの不意打ちですら効かなかったんだ。また突っ込んだって、今度は本当に殺されるぞ」

 

「……」


「無駄死には嫌だろ? なら少しでも勝てそうな事をしよう」


 そう言ってクロハの肩を掴むと、彼女は歯を食いしばりながらこくりと頷いた。


 クロハが俺から離れ、部屋の隅へと数歩進んだところでその足を止める。

 まるで、俺とトリトンの一騎打ちを見守るレフェリーのような位置取りだ。


「おや、その少女は戦わないのかね? 透明化なんて特異な魔術を持っておきながら……宝の持ち腐れだな!」


 構えの姿勢を崩さないまま、トリトンが笑う。


「この子はまだ7つです。持ち腐れかどうか決めるのはまだ早いですよ。それに、相手が僕だけじゃ不満ですか?」


「これは任務だ!相手が弱い分には不満などなかろう!」


「……悪かったですね。弱くて」


「気にするな!余程の才覚でもない限り、魔装の練度は経験で決まるものだ!」

 

「……魔装?」


「貴公らの言う、身体強化だ!」


「なるほど」


 やっぱ近接が苦手なのバレてるな……

 いや、得手不得手以前に、体格差があるから舐められて当然か。

 それに、まだ向こうが上級魔術を使えるのかどうかわかっていない。

 相手がクロハの能力を勘違いしてるのは、不幸中の幸いと言ったところか……


 多少無理やりにはなるが、最初に考えたプランを実行するしか、勝ち目は無さそうだ……


「さあ、これで勝負をつけさせてもらうぞ! ディン・オードッッッッッッ!!!」


 さあ、なんとかして相手に使わせるぞ……『神鎧』を……


魔道具紹介①


奇術師ノ腕(マジックハンド)


製作者

 ディン•オード(協力者 セコウ•クロエ)


属性 『土』


見た目 

 ゴツゴツとした籠手ガントレットのような形状であり、右手に装着する。


用途 

 主にディンの魔術『死神ノ糾弾(デス=バレット)』の速射性と連射性を高めるために開発された、補助専用魔道具。


補足

 あくまで、ディンの複雑な魔術を補助するものなので、他者が装着しても、使いこなすことはできない。



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