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第64話 迷宮決戦④ー奇人登場ー



【ディン視点】


 日記はある日を境に途切れ、また日付が大きく飛んでいた。

 しかも、以前よりもずっと筆跡が荒れていた。


『教皇派との戦争が始まった。私はクロユリと共に東側の将になった』


『教皇派の人間がクロユリを殺害すれば、第一王妃の座に推薦すると申し出てきた。

 何を馬鹿なことを。そんなことをしたところで、どのみちイェンは私を受け入れないだろう。

 イェンもクロユリも既に身体を重ね合った仲であり、彼の心はクロユリにしか向いていないのだから』

  

 今のページには、涙のようなシミが残っていた。


『初戦は我々国王派が大きく有利を取る形で幕を閉じた。

 魔大陸からの増援のおかげだろう。数年前までは仲が悪かった国の協力を得るなんて、イェンの人望の厚さには開いた口が塞がらない』


『二日目も難なく前線を押し上げ、教皇派は後退しつつある。

 この分なら、あと1週間ほどで終戦を迎えることができるだろう』


『クロユリが私のテントに来た。

 正直、気まずい。


 もう隠しようがない。

 私は彼女に嫉妬している。その強さと、イェンに愛されているということに。

 できるものなら、依頼通り直ぐにでも殺してやりたい。でも私にそんな勇気はない。

 彼女はいつも笑ってるんだ。こんなクズみたいなことを考えている私を親友だと言うのだ。どうしてこの人はこんなにも優しく、美しいのだろうか。 

 

 結局、その日は当たり障りのない話ばかりしか出来なかった。

 彼女は何か言いたげだったが、私はその話を聞く余裕がなかった』


『あり得ない。こんな筈じゃ』


 たった一言しか書かれていない。しかも、ここから二日ほど日付が飛んでいた。


『クロユリが重傷を負って拠点に運ばれてきた。あのクロユリがだ。

 意識はまだ戻っていない。私達が受け持っている戦場には、身体の欠損を治せるほどの治癒魔術師がいない。既に本陣から呼び寄せているのだが、到着はいつになるかはわからない。

 失った腕の出血が治らない。このままではまずい』


『クロユリの容態は悪化し続けているが、意識が戻った。不幸中の幸いとでも言うべきか。

 そして、彼女の口から信じ難い事が告げられた。

 どうやらこの戦場には、敵に魔剣持ちが2人以上いるらしい。

 名匠ソロモンが生み出した、特殊な力を持つ魔剣。それに適応し、能力を完全に引き出した者は、まさに一騎当千。

 いかにクロユリと言えども、魔剣持ち複数人に奇襲されたのでは、無事では済まない。

 不意打ちとはいえ、クロユリですら敵わなかった相手に、誰が勝てると言うのだろうか』


『魔剣持ちの出現により、戦場の形勢は逆転した。前線は崩壊し、もうじき我々のいる所にも敵が来るだろう。

 お終いだ、何もかも。

 ああ、せめてイェンに本当の気持ちくらい伝えておけばよかった……

 まあ、どうせフラれるのが関の山だがな』


『クロユリに呼び出された。

 彼女は自分を殺せと言ってきた。

 突然のことに、私が言葉を失っていると、彼女は「どうせこのままじゃ私は助からない。なら、あなたの利益になる方がいいでしょう?」と付け足した。


 頭が真っ白だ。

 どういうわけか知っていたんだ。クロユリは何もかも。

 私がクロユリを殺せと依頼を受けていることを。

 なんて返せばいいのかわからなかった。  

 情けなくて、恥ずかしくて、私はただその場で泣くことしかできなかった。

 しばらくしてクロユリに怒られた。

 どの道、このままじゃ全滅か、よくて捕虜。

 私が彼女の首を敵に謙譲している間に、部下を逃がせと言われた。

 曲がりなりにも大将なら、部下を守れと』


『クロユリを殺した』


 涙跡のようなものでインクが掠れていた。

 筆跡が濃い。

 ここだけ紙の痛み具合がひどい。握り潰したような跡が残っている。


『敵軍にクロユリの首を届けてきた。

 なんとか部下は逃すことが出来たが、これで私は裏切り者だ。もう国には帰れない。

 まあどの道、軍が全滅して私だけ逃げ帰ってきても、死刑は免れなかったかもな。いやそもそも、逃げ切れる可能性すら低いな。

 さて、これからどうしよう』  


 また日付が飛んでる……


『戦争が終結した。結果として痛み分けとなったが、クロユリを失ったイェンは怒り狂い、捕虜を大量虐殺したそうだ。

 今頃、私を血眼になって探していることだろう。

 そういえば、日記を書くのは久しぶりだな。どうせ旅を続けるんだ、なにか美味いものの事でも書こうかな』


『ミーミル王国の追手が来たので、返り討ちにしてやった。

 手が早い。どうやら本腰を入れて逃げた方が良さそうだな……』


『酒場で男共にレイプされそうになったから、少し懲らしめてやったのだが、相手が悪かった。どうやらギルドのお偉いさんだったらしい。

 この街にはもう居られないな、早く出よう』


 日記の筆跡は段々と荒れていって、殴り書きのようになっていた。文体からも、酒浸りになっていることがわかる。


『気のせいか、送られてくる刺客の実力が段々と上がっている気がする……』


『酒場で色男に口説かれたので、勢いで一夜を共にしたのだが、男は刺客だった。

 危うく殺されるところだった。というか、素っ裸のまま逃げたから、服を来た方が良さそうだ。

 ていうか、なんで私は服よりも日記を優先してたんだ?

 まあいいか、面白いし』


『数日前まで潜伏していた村が燃やされた。

 どこまで逃げても追ってくる。

 逃げられない。

 どうして私の居場所がバレてるんだ』


『今日の午前辺りだったか、また刺客を殺したのだが、おかしな奴だった。かなりの強さだったのに、私の魔力感知に全く引っかからなかったのだ。

 それに、あいつを殺してから、私の魔力がすっからかんなのだ……

 どういうわけだろうか』


『違和感の正体がわかった。

 私におかしな能力が目覚めている。

 私の出す魔力は、魔力感知に引っかからない。

 昨日は魔力がすっからかんになっているなんて言ったが、それは間違いだった。

 魔力切れ特有の疲労感はないのに、自分の魔力を感じない。詠唱すれば魔術は使えるのだ。

 意味がわからない。ただわかっていることといえば、もう誰も、私の魔力を認識、感知できないということだ。〝透明な魔力〟とでも呼ぼうか。

 これじゃあまるで、一昨日襲撃してきたやつみたいじゃないか……』


『自分の魔力まで認識できないのでは無詠唱魔術もろくに使えないので、力の制御を試みた。

 この力、よく思い出してみれば心当たりがある。

 以前クロユリが言っていた、イェンと開発しているものに、似たようなものがあった。

 そう、これは加護魔法だ……それも、かなり特異な。

 酒場でも噂になっていた、ミーミルの国王が家臣に強力な加護を与えたと……

 感知不能の魔力を作り出す加護……

 他にも似たような能力があるのだとしたらまずい……』


『能力の制御はまだできないが、ミーミルの追手から逃れるため、ひとまず地下に迷宮を作り、そこに隠れることにした。

 かなり大きく作る予定なので、この騒動が落ち着いてきたら、酒場とか入れてもいいかもな』


『とりあえずザックリだが迷宮が完成した。

 私の感知不能の魔力によって作り出された迷宮だ。外からは隔絶され、特定の魔法陣でしか侵入することはできないだろう。設置したゴーレムも魔力感知に引っかからない。

 これで誰にも見つかることはない。まさに理想郷だ。

 ここを〝エデン〟と名付けよう』


『迷宮に籠りっぱなしでやることもないので、これからは、私にかけられたこの加護魔法を研究するとしよう。

 日記とは別に本を用意しなくてはな』


 日記はここで途切れ、最初に読んだ部分へと繋がっていた。


 400年前のエーギル海戦……

 そこで猛威を振るった冥助王……

 魔族を巡ったアスガルズ戦争……

 王の乱心と虐殺……

 とにかく情報が多かったな……

 でもここが何処で、誰が何の目的でこの本を書いたのかは何となくわかったと思う。


 この特別な加護魔法っていうのは、今で言う王の遺産か?……

 遺産の正体が全てそれとは限らないが、面白いことを知れた。


 それに、ここは以前訪れたエデンだったのか……

 下の方は迷宮になってるって、確かリディが言ってたからな。

 最低限の情報はわかったし、早くみんなと合流しなきーー


「読書は済んだかね?

 ディフォーゼの神童、ディン•オードよ!」


 突如、広大な図書室に男の声が響く。


「!?」


 声の方向はわからない。反響のせいだ。


「おっと、驚かせてしまって済まない!

 まずは話を聞いてくれたまえ!」


「そ、そう言うなら姿を見せてください!」


 どこだ? 

 どこにいる、どこから俺のことを見ている?

 本棚が多いせいで視界が悪い。

 とりあえず身を守らなきゃ。

 

「貴公の後ろさ!」


 そう言われて、すぐさま背後に顔をやる。


「?……」


 しかし、男の姿はない。

 そこには本棚がズラリと規則的に並んだ空間が広がっているだけだ。

 俺が向いていた長机のある方向と比べて薄暗いが、人がいないのは確かだ。


「……いないじゃないですか!

 どういうつもりですか!」


 広大な図書館に、俺の甲高い声だけが木霊する。 

 我ながらカッコ悪い声だな。いやまぁ、怖いから仕方ないんだけど。俺怪談とか無理だし。


「ハハッ、これは失敬、今顔を見せよう!」


 男の声は聞こえるのに、気配は微塵も感じない。

 その気になれば、今すぐ俺を攻撃できるだろうに、本当にどういうつもりだ?……


「トウッッ!!」


 男がそう叫んだ直後、視界の上から何かが勢いよく降ってきた。


「うわぁぁっっっ!?!?

 ……って、人?」


 辺りに粉塵舞う中、降ってきた何か……いや、男が立ち上がる。


「天の力を我に示せ、『発風』!!」


 男がそう口にすると、彼を中心にして生まれた暴風が、辺りの粉塵は勢いよく払った。


「お初にお目にかかる!

 私はトリトン•フィノース•リニヤット!!

 上から貴公との交渉を頼まれて、ここでずっと待っていた!!」


 粉塵の中からは、茶髪で顔の整った青年が出てきた。 

 手に持っている三叉槍といい、喋り方といい、一目でわかる。

 こいつ、絶対変なやつだ。

 いや、それよりも気になるのは……


「ずっと待っていた……って言いました?」


「然り!

 貴公が来るまで、ずっとあの本棚の上で待っていた!!」


 俺がそう尋ねると、男ーーいやトリトンはなぜか誇らしげに、見上げるような高さの本棚の頂点。最早天井と言っても良いそれを指差してそう言った。

 一点の曇りもない、透き通った声でだ。


 いわゆる「〜まで、ずっとスタンバってました」ってやつだ。

 どこかの攘夷志士しかり、神父しかり、こんなことをやる奴はバカ確定だ。

 何が楽しくて、あんな埃っぽい本棚の上で待機してたんだ?

 ていうか待機する必要あった?

 しかも何で上?


「トリトンさん……でしたっけ?

 どうしてあの本棚に登る必要があったんですか? しかもなんで待ってたんですか?

 ていうか、交渉って?」


「質問は一つずつにしてくれたまへ。

 まあ今回はいい。

 では最初の2つの質問に答えよう。

 人間関係は第一印象が大事と聞く。私が本棚の上にいたのは、登場を美しく派手にしたかったから。

 そして貴公が本を読み終えるのを待っていたのは、交渉を優位に進めるために、貴公の印象を損なわないようにする為の措置だ。

 読書を妨げられるのは不快だろう? 少なくとも私はそうだ」


「……」


「……貴公から聞いておいて、何か言ったらどうだ」


「あ、はい。もういいです、ありがとうございます。

 じゃあそろそろ本題に入ってください」


 半分は聞かなきゃ良かったな。


「む、それもそうだな。

 失敬、では伝えよう!

 貴公、我々に寝返らないか?」


ヒロインズ 〝色々〟ランキング


IQ部門

1位 ラトーナ

2位 クロハ

3位 アイン(1位3位の間には途轍も無い差がある)


モテ部門

1位 ラトーナ

2位 クロハ、アイン(同立)


家事部門

1位 クロハ

2位 アイン

3位 ラトーナ


魔力部門

1位 ラトーナ

2位 クロハ

3位 アイン


身体能力部門

1位 アイン

2位 クロハ

3位 ラトーナ


身長部門

1位 アイン

2位ラトーナ

3位クロハ


何がとは言わない大きさ部門(最終登場時で比較)

1位 ラトーナ

2位 クロハ、アイン(同立)


ディンからの好感度部門

1位 ラトーナ

2位 アイン

3位 クロハ





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